op01:兄と弟
「死ね!」
ファン教の聖騎士の鎧を着た男の大槍が黒衣の若者を襲う。若者は間一髪、その攻撃を避けるとあわてて間合いを取る。森の中のため充分に離れることは出来なかったが、攻撃を避けるには充分な距離だ。
「ウッド兄さん、やめてくれ」
「私を兄と呼ぶな! お前が魔族だったとは…… このことが世間に知れれば、我がハス家は終わりだ。魔族の女に手を出すとは親父も馬鹿な事をしてくれる」
聖騎士が吐き捨てるように言う。
「兄さん……」
腹違いで兄弟仲もよかったというわけではなかったが、剣の稽古や騎士としての立ち振る舞いを教えてくれた兄だった。その兄に向けて、黒衣の若者は剣を抜くことを躊躇した。
「親父の日記を読んだ時には驚いたが、私は家を守らねばならない。魔族としてではなく、病死ということにしてやる。家のために死ねジェニス!」
ジェニスは、その一撃を剣の平で受け止めた。
「やめてくれ兄さん。そんなに俺が邪魔なら家を捨ててもいい」
「生き残りたかったら俺を倒していけ。俺はお前を殺して後顧の憂いを絶つ!」
ウッドの持つ大槍『バハムート』の一撃に、攻撃を受け止めたジェニスの剣が澄んだ音を立てて切断される。
ジェニスは迷わず背中を向けて逃げ出した、兄の強さは充分すぎるほど把握している。
『灼眼の鬼人』と呼ばれるほどの人だ。実際、邪教徒征伐の時には女子供すら躊躇なく斬る人だ。
どのくらい走っただろうか。森が開ける。その先につり橋があったはずだ。それを落としてしまえば、いくらかの時間が稼げるはずだ。
しかし、つり橋は無かった。すでに落とされていたのだ。他の誰かが落としたのか、兄が逃げ場を限定する意味で落としたのか。目的のためなら手段を選ばない兄だ、それぐらいはやるだろう。
「ファンの法典。やぶりし者に死の裁きを。ルールブック」
ウッドの声と共に、光に包まれた法典が四方に現れた。そして、奉天から射出された閃光と共にジェニスの服が切り裂かれ鮮血に染まる。
『ルールブック』ファン教独自の魔法。四方に現れた法典から目標の息の根が止まるまで光の刃が降り注ぐという魔法。通常手段ではこの魔法から逃れることは出来ない。と言われている。
ジェニスは身体を丸め急所に攻撃を受けないようにするだけで精一杯だ。
「ジェニス。今、楽にしてやる」
ウッドが大槍バハムートを構える。そして……
「双竜撃!」
強烈な一撃がジェニスを襲う。その強烈な一撃を避けようとした為、大槍はジェニスの左腕に当たる。ジェニスはそのまま弾き飛ばされ魔法の効果範囲から抜け出ることが出来たが、谷底の川に向かい落ちていく。その場には折れた剣の柄と肘から切断された左腕が残される。
谷底に落ちていくジェニスを確認したウッドは、舌打ちするとジェニスの死を確認する為に川下へ歩き出した。
いきなりピンチのジェニス君。
灼眼の鬼人と呼ばれる兄の魔の手から、逃れることが出きるのでしょうか。
外伝1は、1日で更新しましたが、外伝2はゆっくり更新する予定です。(出来れば毎日更新したいのですけど、どうなりますか)
本日は、もう1話更新します。