クリスマスのケンカは仲直りのフラグ
謎の女子高生を言いくるめて別れた後、俺は買うものを買ってから木村に電話をかけた。こういうのはラインやらメールやらの現代的な方法に頼ってはならない。人間は古典的な方法のほうが好きなのだ。と、電話をかけたときの俺が思っていたかどうかは定かではないが、電話でコール音を聞いている今ならば、そう思うことができた。結果オーライってやつだね。
コール音が切れる。電話が切れたのかと思って画面を見てみると、通話時間が進んでいたので、木村が出たまま無言だということがわかった。
俺は木村のもしもしを待たずに話し始めた。
「まだこの辺にいるんだろ」
『……いたらなんなのよ』
「札駅のミスドの前集合な」
『……浮気してたくせに』
「してねぇっての。いいから早く来いよ」
俺は電話を切ると、ミスド方面へと歩き始めた。
札幌駅の地下を歩きながらいろいろと考える。
やっぱり木村は思考が先走り過ぎだ。勘違いやらなんやらが多すぎてならん。まだクリスマス前だけど、これを渡しても大丈夫だよな。クリスマスプレゼントは別に要求されないことだけを祈ろう。
そう手に持った袋の重みを感じながら心の中で思った。口に出していたら通報ものである。脳内彼女の疑いをもたれて。
ミスドに到着し、『期間限定100円セール』の文字通り甘い誘惑に耐えながら待つこと10分。
改札側から来ると思って見ていた方とは逆の、バスターミナル側から来た木村に声をかけられて驚いた。
「来たわよ」
「うおっ! ビ、ビビったぁ。なんでこっちから来るんだよ」
「別にどっちから来たっていいでしょ」
声音は割と怒ってる感じ。やっぱりいろいろと見直したところもあったけど、沸点が低いのは相変わらずのようだ。
「さぁ言い訳を聞こうかしら」
俺の方が背は少し高いが、木村は上から言う。
「言い訳は特にない。なぜならば俺は浮気なんてしてないからだ」
「あんなに見せつけておいて何なのよ!」
「まてまて! とりあえず最後まで聞け」
俺がそう言うと、木村は何か言いたそうだったが、それを抑えて黙った。
俺は咳払いを一つし、最初から話し始めた。
木村への弁解のプレゼントを買いに来たこと、そこで出会った女子高生、そして目撃ドキュン、プレゼント選びの手伝い、そして今に至ることを細かくは無くてもあらすじ並には話した。
途中から腕を組んで聞いていた木村は、すべてを聞き終わっても組んだ腕を解かなかった。
「……で?」
「……で、とは?」
「そのプレゼントって? それ?」
「いやいや。プレゼントを手伝ったのはその女子高生のだけであって、これは俺が選んだやつな」
「……ん」
手を俺に向かって伸ばす木村。
「ん?」
「私へのプレゼントなんでしょ?」
はぁ……。
もちろん渡すつもりだったのだが、こういう渡し方じゃなかったのは確かだ。でも結果渡すことになるのだからこれはこれでいいか。結果オーライってやつだね(2回目)。
「ほらよ」
ムッという顔をした木村だったが、素直に受け取るとなんの断りもなしにガサガサと中を漁った。楽しみだったんじゃねぇか。
「……ッフ、フフフフ」
袋を開けるなり笑いが堪え切れなくなったのか、思わず笑顔になる木村。なんか、恥ずかしい。
「フフ。なにこれ、あんたが選んだの?」
「そうだよっ。どうせらしくないとか思ってんだろ。これでも一応考えたんだからな」
木村は俺に見せつけるように袋から取り出した。
透明なケースに入れられているのは、小さな植木鉢に入った小さなサボテン。我ながらこんなものを選ぶなんてと思っていたが、目についた瞬間ビビッときちゃったんだよね。
「はぁ……こんなのもらっちゃったら許さずにはいられないじゃない」
「許すも何も、俺は悪いことはしてないっての」
「…………」
ジト目で俺を見てくる木村。こりゃダメだ。まぁ今回はこっちが折れてやろう。
「わあったわあった。俺が悪かった。ごめんなさいでしたー」
「……まぁ全然誠意は伝わってこないけど許してあげるわ。ちょうどサボテン欲しかったし」
嘘つけ。
まぁとりあえず仲直りできたわけだし、結果オーライ(3回目)とするか。終わりよければすべてよしってな。
とか思っていると、木村が小さくため息をついて言った。
「はぁ……」
「なんだよ。不満なら俺がそのサボテンもらうぞ」
「そう言うんじゃないわよ。ただ……」
「ただ?」
「ここは花束が良かったなって」
なんてやつだ。
「俺に恥をかかせる気か。花束なんてもらっても花瓶が無いからすぐに枯れるだろ」
「そう言うんじゃないのよねぇ。気持ちとかいろいろあるじゃない」
そうやってブーブーと文句をいう木村。
そして俺は思う。
女って生き物は、よくわからないし、よくわかろうとも思わないな、と。
おしまい
おしまいです。
ありがとうございました。