クリスマスの選び方
「ありがとうございました!」
「いえいえ」
「とても助かりました!」
「いえいえ」
結局怜央くんに渡すプレゼントは手袋に決まりました。親切な人の的確な意見は参考にするものでした。おかげですんなりと決まりました。
私は黄色い袋に入れられた丁寧に包んでもらった買ったばかりのプレゼントを胸に抱いて、そう言って頭を下げた。
「じゃあ俺はこれで」
親切なお兄さんは片手を上げると背中を向けて反転しようとしました。
私は思いとどまって、慌てて引き留めます。
「あっ、あの、名前はなんて言うんですか?」
私がそう言うと、ちょっと複雑そうな顔をしてから完全に愛想笑いっぽい笑顔で言われました。
「あんまり他人に名前は聞かない方が良いよ。ましてや今さっき彼女に、異性と話してただけで死の宣告をされたような高校生男子にそういうことを聞くと、君の彼氏さんにもなんて言われるかわかったもんじゃないし。それに知らない人には安易に名前を教えちゃダメって教わったでしょ?」
「でもここまで親切にしてもらったのに……」
「いやいや。知らない他人に親切にしてもらったなら、今度は君が知らない他人に親切にしてあげたらいいさ。それで世界が平和になるなら安いもんじゃないか」
「た、たしかに!」
なんて深いことを言うんだ、この人は。私はまだまだ子どもだったのかもしれない。高校生になって年齢だけは大人に近づいたっていうのに、これが大人なんだって思いました。
「じゃ。そういうことで。彼氏さんと仲良くしろよ」
「はい。ってケンカしてません!」
「ははは。末永くお幸せにー」
「仲直りしてくださいねー!」
「善処するよ」
そう言ってヒラヒラと手を振って去って行く大人な男子高校生のお兄さんは、どこか大人っぽく見えました。私もあんな大人を目指そう。そう心に誓ったのであった。
そしてクリスマスイブの日。
この日は北海道はホワイトクリスマスです。とはいえ、ここ何年かは吹雪いていて、ホワイトクリスマスどころか、ただの雪がすごい日になってます。
玲央くんと会う約束をしていた私は、怜央くんとの待ち合わせ場所に向かいました。
待ち合わせ場所は、二人の家の中間にあるモスバーガー。
私が着くと、もう怜央くんは店内にいて、座って飲み物を飲んでいました。
頭と肩についた雪を払いながら店内に入って玲央くんのところへ向かうと、怜央くんが私に気が付いて手を振りました。
「おはよ」
「ごめんね。待った?」
「全然。雪すごいなぁって思ってたら武田さんが見えたところ」
笑顔でそう言う玲央くんを見ると、ちょっとホッとします。
そして私もカウンターで飲み物を注文し、それが届けられたところでプレゼントを渡すことにしました。
「怜央くん。これ、クリスマスプレゼント」
包装紙にくるまれたソレを渡すと、少し驚いた様子で受け取りました。
「ありがと。じゃあこれ、僕から」
そう言って玲央くんから同じような包装紙にくるまれたプレゼントを受け取ると、どこか触れたことのあるような感触を手に感じました。
なんだっけ?と思うよりも早く、怜央くんがクスクスと笑います。
「開けてもいい?」
笑いながらそう言う玲央くんは、中身が何か知っているようでした。
私は首を傾げて『どうぞ』と言った。
ガサゴソとリボンをほどいて中身を取り出した怜央くんが、手袋を見てまた笑いました。
「ハハハハハハ」
「な、なんかおかしかった? もしかして持ってた、とか?」
「いやいや。そういうんじゃないよ。武田さんも開けてみて」
何がおかしいのかと思って私も包みをほどいてみると、なんと中身は手袋でした。
計ったかのような同じプレゼントに驚きを隠せずにいると、怜央くんは笑顔で言います。
「なんなんだろうね」
楽しそうな玲央くんを見て、私も笑顔で言い返します。
「ありがとっ!」