クリスマスのリア充リア充してるやつ
ぼっちくんのターン
俺はハッキリ言ってクリスマスなんて無くなってしまえばいいと思っている。
というよりも、こうやって否定的な考えから入っていくのが世の主流みたいなところがあるから、これは『ありきたりな考え』とか『よくある思考回路』的な、非リア充の共通認識みたいなものだと思っています。まる。
っていう俺も、今はその非リア充の方々してみたらあっち側とかそっち側にいる人間なのだろうが、あえて言おう。俺は『リア充ではない』と。
……彼女持ちのお前はリア充?
いやいや。リア充じゃなくても彼女持ちの人はいるよ? 特に俺とか。リア充っていうのは『リアルが充実してる人』って意味でしょ? うちの彼女は……あいつは隠れオタみたいなところあるから、見た目リア充だけど、俺は根っからのオタクだし……でも彼女のほうがオタクだわ。
そんなことはどうでもいいんだよ!
ホントリア充じゃないから! 俺、いつまでも心は非リア充だから!
……オホン。
気を取り直して。
俺が言いたかったのは、『リア充なんていなくなってしまえばいい』ではなく『クリスマスなんて無くなってしまえばいい』っていうことだ。
そもそも、『クリスマス=恋人の日』っていうのを考えたのはどこのどいつだ。そのおかげで彼女へのプレゼントを考えたり、誕生日とクリスマスを一緒にされたり、特に何の関係もない恋人がいない人たちが哀れな目を向けられているんだ。そんな行事切り捨ててしまえ。そっち系のロサギガンティアとかお姉さまとか言って百合百合してる系の人たちが行う行事であってからに、俺たち元仏教徒が行う行事じゃないんだよ。ほら、漢字はどこから来たんだい? ん?
キリストの誕生日は祝うのに、一日違いの天皇の誕生日はほぼほぼスルーだよ。祝う人を間違えてるんじゃないのか?
もっと日本人なら日本の心を大切にして、よその国の人の誕生日を盛大に祝うよりも、もっと身近な人の誕生日を祝ってあげたほうが良いんじゃない?
と、ここまでのことを熱弁したところで、俺の彼女、もとい、木村紗枝はスマホを触り始めたので、俺は喋るのをやめてあさってのほうを見た。
俺たちは今、学校からの帰り道、もとい、駅へと続く道を並んで歩いていた。
そもそもなぜ俺がこんなに熱弁をふるっていたかというと、隣のこいつが『クリスマスプレゼントって何欲しい?』と聞いてきたからである。
ちなみにこれは二度目のクリスマス。去年は木村が欲しいと言っていた、冬アニメのサントラを買ってやった。アニメイトで目を輝かせて『これ欲しい!』という木村は、まるでクリスマスプレゼントで欲しいものを親に言う子どものようだった。
そう言えば子どもの頃は『サンタさん方式』というのが我が家の主流だった。
これは、サンタさんとつながりがある(らしい)親に、クリスマスプレゼントで欲しいものを言い、それをクリスマスイブの日の夜中に親がそっと枕元に置いてくれるというものだった。俺には弟がいるのだが、弟が小学校4年生まではこの方式を使っていた。4年生の冬は、親が自分がサンタクロースであることをカミングアウトしていた。無表情な弟は少しも表情を崩さなかったが、その日一日呆然としたまま過ごしていたので、ショックがあったのだろう。純粋って怖い。
ちなみに俺は、クリスマスプレゼントに『DS』って書いたら枕元にDSのソフトの『麻雀バトルDS』が置かれていて、親に『これソフトだけだからできないんだけど』と言うと、親が『マジでか。じゃあ明日本体買ったげる』といった感じだった。もちろんサンタさんが親だというのは小学校4年生くらいには気が付いていた。弟よりは純粋じゃなかったんだろう。なんか悲しい。
そして今年の木村なのだが、なんかもうめんどくさい子になってしまったようで、去年は自分から欲しいものを言ったのだから、今年は俺から言え、と言うことだそうだ。どういうことなの?
そしてさっきの熱弁へと話は戻る。
スマホをいじり始めてしまった木村へと視線を戻すと、俺は大きくため息をついた。
「あのなぁ。俺は別にクリスマスなんて興味ないし、プレゼントもいらんて。その金でなんか自分が好きなもん買ったらいいじゃん。今期のアニメのDVDだってそろそろ発売だろ?」
「今期のアニメは不作。はっきりわかんだね」
なぜにホモネタで返すのだ。お前、そっちの気があったのか?
「ということは、今期のアニメのDVDは買わずに、来季のために貯金するってこと?」
「いやいや。だからあんたにクリスマスプレゼント買ってあげるって言ってんでしょ。早く何か言いなさいよ」
相変わらずの上から目線である。キートン山田みたいなテンションにもなるわ。
「だからいらんて。俺が貰ったらお前にもあげなきゃいけないんだろ? 俺だって貯金したいっての」
俺が少しめんどくさそうに言うと、後ろからケツキックを喰らい、思わず前に転びそうになるのを、足を前に出して踏ん張った。その一瞬の停止で、木村はスタスタと前を行き、顔だけをこちらに向けて一言。
「死ねっ!」
そう言って先を歩いていってしまった。
残された俺は、蹴られたケツをさすりながら、自分の悪かった点を思い浮かべた。
そして一つの結論に達した。
「ま、いつものことだし、放っておこう」
俺は木村が行ってしまった道を、なるべく同じ電車に乗らないようにするべく、ゆっくりと歩き出した。