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覚悟していなかったわけじゃないけど……。

「よし、これでよいな。では、今日着てもらう商品を持ってくるから少し待っておれ」


 メジャーをイベントリに放り込んだオリーヴはそう告げると慌ただしく店の奥へと引っ込んだ。それを見送って後、私はながーい溜め息を溢して側のソファーに身を委ねる。ソファーふかふかでいいな。


「まったく……ひどい目に遭ったニャ」


「ま、まぁ良いじゃないわふか? 無料で装備を作って貰えることになったわふし」


「ランカも試したらどうニャ? 無料で装備を作って貰えるニャよ?」


 苦笑いのランカにそう言ったらものすごいスピードで明後日の方を向かれた。おいこら。っと、何故そんなことを言うのかと言われれば、少々長くなってしまうので省略させてもらう。


 まぁ簡単に言うと、私がメジャーと格闘している間にランカは採寸を行われたんだけど、何故かオリーヴは普通の(・・・)メジャーを用いて彼女の採寸を測ったのだ。


 このことでオリーヴを問いただしたところ、『お主の反応が面白すぎて満足したから』という迷惑きわまりない答えが返ってきた。やった方は面白いかもしれないけど、やられた方はたまったもんじゃない。


 もちろん、その答えに思わず鞭を掴んで調教(おしおき)しようとしたけど、すぐにメジャーがこちらを向いて臨戦態勢をとったので代わりに太股をつねることでどうにか怒りを沈めた。


 この怒りを沈めた私を誉めてほしい……切実に。


 まぁ、ロクに説明もせずにメジャーに採寸させたことのお詫びとして、無料で装備一式を作ってもらう約束で今回の件を不問にしたんだけどね。


 ……滅茶苦茶めんどくさい注文してやるぜ。


「悪い顔してるわふ……」


 横から冷たい視線と声が聞こえた気がするけど、知らんな。私は根に持つタイプなのだ。


 と、そんなことをやっていたら奥からパタパタと駆ける音が聞こえ、こんもりと膨らんだ服の山が――いや、その籠を抱えたオリーヴ……かな? まぁ取り敢えずオリーヴが出てきた。


 いや、だって服の山でオリーヴの姿が見えないんだもん。山の下が籠みたいなのに詰め込まれていて、それを掴む小さな手と靴しか見えないから仕方ないね。


「ぷはぁ~……これが、今日着てもらう商品たちじゃ。ここから好きなやつを選んでくれ」


 服の山が側の机に置かれ、その山から這い出すように現れたオリーヴが肩で息をしながら服の山を指差す。ランカが山のように積まれた服を物珍しそうに眺めている横で、オリーヴはソファーに身を委ねて大きく息を吐いた。


 アバターの設定は個人の自由だから彼女の子供っぽい見た目に文句を言う気はないけど、このお店を切り盛りする上で不便じゃないのかな? 高い棚のモノを取るときとか、それこそ重いものを運ぶとかとか。


「このアバターか? 確かに少々不便だが、客受け狙いを考えれば許容範囲じゃよ。それに、幼き子が経営する仕立て屋って響きだけで面白そうじゃろ?」


 私の問いに不吉な笑みを浮かべるオリーヴ。それがイタズラっぽい笑顔になったらお店の売り上げうなぎ上りじゃないかしら。


 まぁ、それが営業戦略なら何も言わないんだけど……何だろ、この「お前もそんな風にアバター設定したんだろ?」って言われている感……。あいにく、リアルもこのまんまだよこんちくしょう!!


「オリーヴ!! 僕これがいいわふ!!」


 オリーヴと水面下での火花を散らしてる(私のみ)と、商品に身を包んだランカが私たちの前に躍り出てきた。


 ランカが選んだのは、今まで着てたのとはまた違った深紅の短いチャイナドレス風のワンピース。それに動きやすいレザー系統の軽装を合わせたモノであった。


 レザーアーマーは肩や胸に丈夫な分厚い革を使用し、それらを紐で紐んで、更にそれらを太い革を用いて背中でクロスさせるように腰のベストに固定している。強度よりも動きやすさを取ったみたい。


 レザーガンレットは威力を上げるためにスタッズが付けられ、その回りや手全体を包み込む固そうな革を使用している。重量化を優先かな。


 対してレザーブーツは柔らかそうな革を重ねてクッションのようになっている。動きやすさとクッション性をいかした仕様。ワンピースのスリットから延びる足は黒いレギンスに包まれ、大人っぽさを演出している。


「ほぉ~、よく似合っているのぉ」


 自らの商品をいい感じに着こなされてか、オリーヴは満足そうに頷きながらランカを誉める。それを受けて、ランカは恥ずかしそうに頬を掻いた。


 さて、それじゃあ私も選ぼうかしら。


「何にしようかな~……」


 オリーヴが用意した商品の山に手を突っ込み、次々と引っ張り出しては鏡に合わせたりして自分が納得するモノを探す。


 てか、山の中にさりげなくビ○ニアーマーがあったんだけど。絶対選ばないからな。


 というわけで、私は軽い金属の胸当てが付いていた赤茶色のレザーアーマーに白の刺繍が施された膝までのスカート、パンチラ防止用のスパッツと言う組み合わせをチョイス。


 グローブとブーツは柔らかさを重視したクッションタイプで、性能よりも着心地のよさを優先してみた。


「何じゃ、ビ○ニアーマーは着ないのか?」


「着るわけないニャ!!」


 商品を着た私を見たオリーヴに開口一番にそう言われた。やっぱり狙ってやがったよ。


「ジョークじゃよ。にしても、その格好だと髪がいまいち合わないの~……」


 首を捻りながらそう言うランカ。やっぱりそう思われちゃうか。着替えてて思ってたんだけど、長いからこういう動きやすい軽装とかに合わないんだよな~。リアルでも悩みの種である。


「……ニタよ、ちょっとこれを付けてくれないかの?」


 そう言いながらオリーヴが差し出してきたのは、細やかな装飾が施されたお洒落な髪留めだ。わりと装飾に凝っていて、不覚にも欲しいと思ってしまった。


 差し出された髪留めに感心しつつもそれを受け取り、後ろ髪を手早くまとめて括ってみる。しかし、括り方が下手なせいですぐに解けてしまう。


「お主、髪も満足に括れないのか?」


「う、うるさいニャ……リアルで髪を括ったことなんてないんだからしょうがないニャ……」


 リアルだと髪を痛めるからって理由で髪留めを使ったことなんてないし、母さんも短い人だから髪を括る習慣もない。兄貴が髪を括ってやると言ってきたときがあったが、後ろから聞こえる荒い息に背筋を凍らせながら髪を任せるのはごめんだと断ったのは懐かしい思い出。


「なら、ワシが整えてやろう」


 その声が聞こえると同時に髪留めを奪われて、オリーヴの手が髪に触れる。いきなりのことにびっくりしたけど、慣れた手つきで纏めるオリーヴの手際に任せた方がいいかな。


「こんな感じじゃな」


 しばらくしてオリーヴの言葉とともに鏡を渡され、それを使って纏められた髪を確認する。


 前髪を三つ編みにして後ろに持ってきて、それと髪留めで後ろ髪を緩くとめており、纏められた後ろ髪はフワッとしたパーマがかかって上品に背中へと垂れている。


 うん、何だろ。文句のつけようの無い。すっごい綺麗に纏められてる。自分じゃ結べないのでリアルで出来ないのが残念だ。


「似合うじゃなーい!! 可愛いわよ~」


「すっごい可愛いわふー!!」


 鏡を返したときにランカとメリエールさんに頭ごなしに誉められ、なんかむず痒くなってしまう。表情が見えないよう顔をそらすと、オリーヴがパンパンと手を叩いて注目を集めた。


「それじゃあ仕上げといくか」


 そう言って、彼女はインベントリからなにか大きなモノを引っ張り出した。


「スタンドカメラニャ?」


 オリーヴが引っ張り出したのは、どこか歴史を感じる古くさいスタンド付きのカメラであった。横のランカは意味が分からずに首をかしげている。


「次は撮影会と洒落こもうかのぅ!!」


 その時浮かべていた表情を接客の時にすれば私たち必要なくね? と思ったのは内緒の話。



◇◇◇



 オリーヴが掲示した依頼内容はこうだ。


 1つ、商品を着て街を練り歩くこと、2つ、興味のありそうな人や声をかけてきた人をお店まで案内すること、この2つだけだ。簡単に言えば、私たちは『仕立て屋工房 オリーヴ』の広告塔になると言うこと。


 でも、たかが商品を着て街を歩くだけでそこまで宣伝効果があるかどうかと気になるところだけど、それに関しては「問題ない」とメリエールさんが自慢げに胸を張って説明してくれた。


 メリエールさんによると、すでにHLOの掲示板ではこのお店の詳細と場所、商品の紹介などを毎日更新で載せているらしく、アクセスもまずまずなのだとか。そして、今回の起用は実際に商品を着用したモデルのSSを載せて、更なる宣伝効果のUPを目的としているらしい。


 私たちのSSよりも撮影会の時にシャッターを切りまくるオリーヴのSSを載せた方がいいんじゃないかと思ったけど、あとで何されるか分からないから黙っておいた。


 しかも、メリエールが代表を勤める『絹の道』も全面協力と言うので、その規模はなかなかのものみたい。それだけ期待されていると言うことなのか。その片棒を担ぐのでそれなりのプレッシャーというものだけど。


 と、そんなわけで、オリーヴの嬉々とした撮影会を終わらせた私は、商品の身にまとってパークの街を歩いている。宣伝効果を上げるためランカとは別れて練り歩くことになり、今頃何処かを歩き回っているのだろう。


 しかし、今日はログイン初日から約3日目。プレイ開始3日にしては、街を歩く目的が特殊すぎないかなと思ってしまう。


 だって、最初はフィールドで戦闘を行うため、次に訓練と調合、調理具を買うため、その後にアイテム換金とランカの防具を買うため、反対に私の防具を買うため。そして現在、『仕立て屋工房 オリーヴ』の広告塔として街へと繰り出しているんだよ?


 どう考えても常人とは程遠いプレイをしていると思うんだけど。まぁ、初めてゆっくり街を見れる機会だし、有効活用させてもらおう。


「ありがとう!! それじゃあ、お店でねぇ~」


「ありがとうございましたニャ~」


 工房の場所を聞いてきたプレイヤーは顔を綻ばせながら手を振って去っていく。その人たちに、私はぺこりと頭を下げながら媚び……いや、愛嬌を振りまいているのだ。広告塔なんだもん、顧客への印象は大事にしないとね。


 決して『無料で装備ゲット』を目論んでいるわけではないよ? ねぇ?


 とまぁ、そんな感じで今まで何人かのプレイヤーを相手にしてきたけど、やっぱり女性の人が多い。まぁデザイン的に男性よりも女性をターゲットにしているわけだし、当たり前と言えば当たり前だけどね。


 でも、そんな中で声をかけてきた男性プレイヤーたちもいたんだけど、その殆どは息を荒げて艶めかしい視線を向けてきたんだよね。まぁ? 私はどんなお客様にでも相応の対応をする人だから、そんなお客様たちには分け隔てなく人を殺せる笑顔|(アニキ談)を向けて差し上げて黙殺しておいた。


 何人かは「女子から蔑まれたぜFu------!!!!」って叫んでたけど。変態しかいないのかよ。


「あの、少しよろしくて?」


 そんなことを考えていると早速顧客だ。掲示板を騒がせるほど繁盛させてやるぜ!!


「どうも!! 仕立て屋工ぼ……」


 そこで、私の言葉は途切れる。正確には、目の前の人物を見て言葉を失った。


 何でって? それはもう、察してくださいよ。私が苦手とする(たぐい)の人物を。


「あら? あなた、あの時のプレイヤーじゃありませんか。ご機嫌よ」


 呆然と立ち尽くす私の前で、その人物―――――エカチェリーナは黒々とした雰囲気を醸し出しながら聖母のような微笑みを向けてきた。

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