是非ともやらせてください!!
「で、防具を買いに行こうとしたけどチビッ子に合う防具が何かわからなくて堂々巡りに陥り、藁にもすがる思いでここにやってきた……と」
「えへへ~……わふ」
机を挟んで向かい側のソファーで紅茶をすする朧が呆れた様な声で言うと、私の横に座るランカは誤魔化すように笑いながら頬を掻く。
そんな微妙な空気を知らないフリをして、カルーさんが出してくれた紅茶を一口すする。あ、これ美味しい。あとでレシピを教えてもらおう。
と、何故防具を買いに行こうとしていた私たちが『絹の道』のオフィスで紅茶をすすっているのかと言うと……って、そこまで説明いらないわね。
簡単に言えば、私の防具を新調しようと息巻いたものの初心者の私たちに防具の良し悪しなんて分かるはずもなく、ならこの町の商業を握っている『絹の道』にオススメの防具屋を斡旋してもらおうと思ってやってきたのだ。因みに、この案を出したのは私だ。
いや、だってランカに任せたらなんか変なお店に引っかかりそうだったもの。さっきだって、明らかに防具屋でないお店に入っていこうとするんだもん。まぁそこの店員が声をかけてきたってのもあるけど、ホストみたいな恰好の男性が「君たち可愛いね! よかったらアイドルやってみない?」って言ってきたら流石に逃げるよ。
そう言えば、『絹の道』の顔であるメリエールさんが見当たらないな。私たちが来たとなれば真っ先に飛んできそうなのに。
「メリか……? アイツならあっちの部屋で商談中だ……」
朧は紅茶をすすりながら親指で奥の扉を指さす。『会議中』とのプレートが掛けられたドアの前には武装したプレイヤーが立っている。たぶん、交渉側の人が連れてきた護衛かな。にしても、この人なんか感じ悪いな。
さっきから何度も部屋や私たちを舐めるように見たり、小声で何かボソボソとしゃべってるから少し気味が悪い。目が合った時なんかニタァッと笑うし。こんな人を護衛にするような人って、あまりいい人だとは思えないわね。偏見かもしれないけど。
てか、今更だけど商談中にお邪魔しちゃって良かったのかな。
「そう気にするな……。それに、近々メリがお前らに会いに行く予定だったしな……」
「そうなのかニャ?」
メリエールさん直々に私たちに会うようなことって……まさかあの服の損害賠償!?
「違う違う……。何でも、お前たちに頼みたいことがあるそうだ……」
「頼みたいことって……何か―」
「二人とも!! おっまたせ!!」
朧と私の会話を遮ってメリエールさんが奥の部屋から入ってきて、早速ランカを捕まえてナデナデし始めた。当のランカはもう慣れたのか、抵抗せずにメリエールさんのふくよかな双丘に顔を埋めている。解せぬ。
「ごめんね~……大分待たせちゃったかな?」
「いえいえ、私たちもついさっき来たばかりなので大丈夫ですニャ」
良い防具屋を凱旋してもらいに来てるので文句とか言える立場じゃないし、むしろこっちが頭を下げる立場のはずじゃないのかな。
「おやおや、これは微笑ましい光景ですな」
と、不意に奥の部屋から声が聞こえてきた。見ると、紫色のローブに黒のシルクハットを被った長身の男プレイヤーが立っていた。その傍らを固める様に、先ほどの護衛が控えている。相変わらず、その目は私たちを見据えているけど。
その男の人の声にメリエールさんはランカを撫でる手を止め、目付きを鋭くさせながら頭を下げた。
「すいません、少々取り乱してしまいました」
「いえいえ、結構ですよ。先ほどの商談で肩が凝ったことでしょうし。では、私たちも帰らせていただきます」
そう言って、男性は護衛を引き連れて外へと続く扉を開け、出て行った。あれ、出て行くシルクハットのプレイヤーの方が、一瞬だけ笑ったように見えた。
そんな私の思考は、横から漏れ出す大きなため息によって断ち切られた。
「あぁ~……ぢかれたぁ~……」
「にしても、今回の商談は随分長かったな……。しつこい客だったか……?」
「うん、中々引き下がってくれなくて大変だったよ~……」
朧の言葉に、眉を潜めてシュンとなるメリエールさん。まぁ、自社の製品を売らないとやっていけない側からしたら是が非でも買ってほしいところだし、仕方がないって言ったら仕方がないか。
「でも、あの態度はなんかいけ好かないわ~」
「どんな態度だったわふか?」
ランカの問いかけに、メリエールさんはうむぅと考えながらその頭を撫でる。
「そうね、まず自分の所の商品にすっごい自信を持っているみたいだったわ。『うちの商品には他では扱っていないレアなスキルが付与されている』っていう謳い文句でね。それ、うちが契約している店の商品をものすごく分析していて、そこで見つけた問題点をこれでもかってぐらい酷評してきたの。多分、製作者が聞いたらポッキリいっちゃうくらい、ボロクソにね。しかも、その問題点と同じものを見つけた時、なんて言ったと思う!?」
そこで言葉を切ったメリエールさんは、捕まえているランカを抱えながら怒った顔で朧に詰め寄る。
「『敢えて、問題点を残しているんですよ。強化のためにお客様が足を運びやすいように』って!! あの男、お客さんをただの金づるとしか見てないんだよ!! 私ら商人にとってお客さんがどれほど大切な存在か分かってるのかしら!!」
「取り敢えず、落ち着けや……。そしてチビッ子、受け取れ……」
「え、わッ、二ャッ!?」
興奮した様に鼻息を荒くするメリエールさんに、朧は紅茶を押し付けて座らせる。そのついでか、彼はメリエールさんに振り回されて目を回しているランカを回収して、私の方に投げ渡してきた。
ランカを何とかキャッチした私は朧に文句を言おうと思ったけど、それはカップを握りながら肩を落とすメリエールさんの姿が映ったために引っ込んでしまった。
「まぁそれについてはいいわ。あっちにはあっちの商売理念があるんだし。只一つ……気がかりなのが、商談が破綻した時にアイツが呟いた『用済みだな』って一言。もしかしたらちょっとヤバい奴らだったのかな?」
「まぁ終わったことだし、今更グチグチ言っても仕方がないだろ……。それにその商談は断ったんだろ? ならもう来ることは無いんだから、心配する必要はないさ……」
「でも……」
朧の言葉にまたもやシュンとなるメリエールさん。その背中を見ていた朧は、はぁっとため息をこぼし、その肩に手を置いた。
「別にこの件で問題が起こったとしても、誰もお前を糾弾なんかしねぇよ……。みんな……勿論俺も含めて、お前のやり方に惚れてついてきてんだから……。後始末は俺が解決してやる……だから、お前は安心して俺たちの上としての役目を果たせ……」
朧の言葉にメリエールさんはしばし固まった後、カップに落としていた視線を上げていつもの笑顔を見せた。いや、いつもと言うか……なんか言質を取ったとでも言いたげな顔だ。
「じゃあ、もしなんか問題があったら全部朧の責任ってことでよろしく!! 証拠も録音しておいたし、これで勝つる!!」
「ばッ!? は、嵌めやがったな!!」
いつの間にか手に持っていた水晶玉のようなものを掲げながらメリエールさんが宣言すると、朧はいつもの冷静沈着が嘘のように慌て出し、水晶玉をめぐる追いかけっこが始まった。なんか、いつも寡黙な人が目に見えて焦るのって新鮮だな。
そんなこんなで、ギャーギャー騒ぐ二人を見ながら隅っこの方で紅茶をすすっておきます。やっぱりこの紅茶、作り方教えてもらおっと。
「っと、そう言えばニタちゃんたち、何でうちに来たの?」
ようやく本題が戻ってきたのは、朧がスキルを使ってメリエールさんから水晶玉を奪い取った時だ。てか、奪うの遅すぎない。
「実は……」
「チビッ子の防具を買いたいから、オススメの店を紹介してほしいんだとよ……」
水晶玉を弄繰り回しながら朧に応えられてしまう。と言うか、いい加減「チビッ子」ってやめてもらえないかな。
「え、そうなの!? なら都合がいいわ!!」
朧の言葉にパァッと顔を輝かせたメリエールさんはメニューを操作して何かチラシらしきものを表示して私に見せてきた。
「『仕立て屋公房《オリーヴ》 貴方に最高の一着を仕立てます』……何ですかニャ?」
「ついこの間うちの組合員が始めた店でね? ちょうど人手がほしかったところなのよ!!」
メリエールさんからチラシを送ってもらい、まじまじと見てみる。場所は《パーク》の中心街から離れたところにあるっぽい。所謂、隠れ家的なお店かな。でも、仕立て屋ってことは服を作るお店だよね。
「あの……私、裁縫系のテス取ってないんですがニャ」
「大丈夫!! 頼みたいのは作る側じゃなくて、着る側だから!!」
着る側……ってことはモデルってこと? 自分で言うのも何だけど、こんな子供体系の私じゃモデルなんてなれるわけないよ。
「モデルならもっとふさわしい人がいるんじゃないですかニャ?」
「昨日ニタちゃん達が帰った後、その子に貴女達のことを話したのよ。そしたら、是非ともモデルをして欲しいって言い出したの」
メリエールさんがどんな風に紹介したかは分からないけど、お断りしたいな。こんな容姿だし、猫耳も大分周りの目を引き付けるから、これ以上目立ちたくないのが本音だ。
でも、何で都合がいいのだろうか?
「仕事内容は主に一つ。商品化している装備を着て、街を歩き回ればいいだけの簡単なお仕事よ。デメリットで言えば、耐久値を少しでも削ったら自腹買い取りだってことと、それを防ぐために街から出られないってことかな? でも試着した装備は売れ行きによっては無料で貰えることがあるから都合がよくないかな?」
む、無料で装備か貰えるだと!? それは装備が買えなくて困窮してる私にとっては願ったり叶ったりじゃないか!!
街から出れないと言うデメリットは、半生産職である私にはなんら問題はないし、素材が枯渇したときはランカに、最悪アニキに採ってきてもらえばいい。
今この状況でこれほど美味しい話はないわ!!
「是非とも、やらせてくださいニャ」
「ありがとー!! じゃあ、早速今から行くけど大丈夫?」
「大丈夫ですニャ!!」
元気よく返事をして、私たちはメリエールさんに引き連れられて仕立て屋公房《オリーヴ》へと向かった。
それが、更なる羞恥プレイの幕開けだとも知らずに……―――。




