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嫌な予感しかしないのは気のせい?

 フワフワとした感覚が遠退いていく。身体の感覚が戻ってきたところで目を開けると、ファインダー越しにいつも見る天井が見えた。


 外したギアを脇に置き、ベットから這い出して大きく伸びをする。ずっと寝てたせいか、身体の節々が微妙に痛い。ゲームの中で激しい戦闘を繰り返してたから、何か変な感じだ。


 今の今まで聖堂の外でランカに抱き付かれ、パンツを見せつけると言う醜態をさら資し続けること数分、何かと理由をつけて一旦現実に戻ってきました。


 抱き付きながら泣き叫ぶ彼女を何とか引き剥がすのに苦労したせいか、身体がドッと疲れた。まぁ引き剥がすと言うか、明日も今日と同じ時間にログインすると言う条件で解放してもらったと言った方が正しいか。拳闘士の本気の力、恐るべし。


 まぁいいや、ご飯だし下に行こうかな。


「お疲れのようだな、妹よ」


 下に向かうべく部屋を出たところで、同じように部屋から出てきた兄貴と遭遇してしまった。いつもよりもちょっぴり口角が上がってる。何か嬉しそうだなこの人。


「ずいぶんご機嫌じゃん。何かあったの?」


「おお、我が意中を察してくれたか妹よ!! 実は今日狩りをしていたらレアドロップがあったのだ!!」


 この得意げな顔……長くなるとみた。早く退散しよう。


「ご飯冷めちゃうから先行くわ」


「まぁ待て妹よ。我のドロップ自慢が鬱陶しいのは分かるが、聞いて損は無いぞ?」


 いやそんなドヤ顔で言われましても。ドロップ品の良し悪しとか分かんないし、どう良いのか説明されても理解できる気しないし。まぁ生産系の有力情報ならいいけどさ、純戦闘職の兄貴が持っているわけないしね。


 そう言えば、森の奥で出会ったあの巨人。あれって一体何だったのかしら? 兄貴なら何か知ってるかも。


「兄貴ってさ、北の森の奥に行ったことある?」


「ん? ああ、もちろんあるぞ。しかし、妹のレベルじゃツラいぞ? あそこ、‟パーク‟近辺で一番レベルが高いところだからな」


 あの場所が私たちのレベルじゃ向かないことぐらい知ってたよ。でも、低レベル2人であれだけ戦えたのも、単に運が良かっただけなのかもしれないね。まぁ巨人に出会っちゃったのは不運としか言えないけど。


「そこでさ、緑の巨人と遭遇したんだ。黒い霧みたいなのを纏った、私よりも一回り大きなやつ」


「黒い霧を纏った巨人?」


 私の言葉に、兄貴は何それ? と言いたげな顔を向けてきた。これはちょっと分からないフラグかな。


 取り敢えず、そいつと戦った時の状況を簡単に説明したけど、兄貴の表情は変わらないままだ。いくら廃人級のゲーマーだとしても、さすがに初めて間もない今じゃ分からないのも無理ないか。


「……黒い霧を纏った巨人が何なのかは分からないが、恐らくそいつは魔獣の一種なのかもしれんな」


「魔獣?」


 突然出てきた言葉に今度はこっちが何それ? と首を傾げる。魔獣? 魔物と同じじゃないの?


 兄貴の説明によると、魔獣は瘴気に当てられて突然変異したMOBのことを指すらしく、正式サービスが始まる前のデモプレイ―――βテストと言うのが行われた時に何体か確認されたのだとか。


 まだ詳しいことは良く分かっていないが、通常のMOBよりも能力が強化されており、更には魔獣専用の呪文や状態異常があるようで、トッププレイヤーでさえも交戦をためらうような相手らしい。また、ドロップがもれなく「汚染された○○」になるらしく、これを失くすには専用の魔法やアイテムが必要になってくるみたいだ。


 交戦する際のメリットと言えば、経験値が通常のモノよりも少しだけ多いと言うだけで、全体を見るとデメリットの方が多い。なので、魔獣に遭遇したら基本的に逃げるのがセオリーらしい。


 魔獣と言うものを知らなかったけど、雰囲気的にヤバい奴だって察してすぐ逃げるべきだったみたい。構わず交戦しちゃった私たちは相当の馬鹿だったってことか。


「取り敢えず、この情報は掲示板の方に上げても構わないな?」


 兄貴の問いに、素直に頷く。βテストで確認された魔獣が正式サービスでも確認されたと言うこと、そして私みたいに無謀な戦いに挑む人が減るのなら、構わない。寧ろ、これで攻略に少しでも役立てばいいな。


「しかし、妹の知っている範囲で我の知らないことがあったとは……不覚」


 何そのお前の事なら何でも知っていますよみたいな発言。そう言ってやったら、自慢げに私の最新のスリーサイズを詠み上げ始めるので、その顔面目掛けてドロップキックを放つ。


「甘いな、妹よ」


 しかし、それはやすやすと躱されてしまった。外れたことでちょっと焦ったけど、何とか着地して兄貴をキィッと睨みつける。その姿を見てか、兄貴はやれやれと言いたげに肩をすくめた。


「我と妹は、幾度となく湯船を共にした仲ではないか。今更何をそんなに焦っておる。しかし、最新のスリーサイズと言っても、()とさほど変わらないから覚えたとしても意味がないのだが。特にむ――」


 兄貴の言葉が途切れたのは、私の正拳突きが顔面にクリティカルヒットしたからだ。ウエストやヒップはまだ許そう。でも、それだけは絶対に言わせない。


 別に気にしてるとかそういうわけじゃないけど、それだけは言わないし、言わせない。


 その後、廊下での格闘が下に響いていたらしく、小学生じゃないんだからと両親にこっぴどく怒られた。解せぬ。



◇◇◇



 次の日、学校から帰ってきてすぐさまログイン。


 昨日ログアウトした宿屋でチェックアウトを済ませ、まだ眠そうなイヅナを抱えてランカとの待ち合わせ場所へ急ぐ。


 因みに、テイムしたMOBには、プレイヤーがログアウトしてるにプレイヤーの分身―――アバターだっけ? それがゲーム世界から消えるのと同じ状態になれる『休眠』と言う機能があるのを昨日知った。と言うか、ヘルプを見てたらそれを見つけて、ログアウトする時に実行したってわけ。


 これなら、ログインする度に顔面に体当たりを喰らわなくて済む。いや、体当たり自体は別に悪くない。柔らかいし、モフモフだし。でも、目に毛が刺さるのは勘弁してほしいものだ。


 と、そんなことを考えていると目的の場所――――東広場の噴水前に着いた。


 まだランカの姿は見えない。まだ、学校が終わってないのかな? 予定の時間よりも早いから仕方がないいか。


 さて、暇だ。生産しようにもステータスが下がってるし、死に戻りしたことで換金するアイテムもないから整理も出来ないし。どうしよっかな。


 まぁ別に急いでるわけでもないし、彼女が来るまで傍のベンチに座ってイヅナと戯れておこう。


 早速ベンチに座って、スヤスヤ寝息を立てるイヅナの顎や耳の裏など適当な場所を軽く掻いてやる。『毛繕い』の効果なのか、適当に掻いている割にはイヅナは気持ちよさそうに小さく鳴き声を漏らし、ここもやってほしいとばかりにコロコロ体勢を変えてくる。ご希望通りに掻いてやると、満足げに鼻を鳴らしながら尻尾をユラユラと揺らす。


 なんだろ、このほんわかした感じ。昨日の聖堂の中でも思ったけど、ゲームを始めてから殆ど生産や戦闘ばっかりで、こういうまったりとした時間がなかったせいか、ものすごく心が洗われる。思わず顔も緩んでくるというものだ。


 あ、イヅナが指を吸いはじめた。どんだけ指を吸うのが好きなのかね、この子は。


「……な、何してるわふか?」


 そんなこんなで時間を潰していると、不意に後ろからランカの声が聞こえた。それに振り返ると、なんか変なものでも見るような目でランカがこちらを見ていた。


「お、ランカかニャ? お疲れさまニャ」


「お、お疲れさまわふ……」


 何だろ、妙に歯切れの悪い返答ね。てか、何か様子がおかしい。具合でも悪いのかな?


「い、いや……ニタが今まで見たことのないような笑顔だったわふから……」


 確かに、いつもよりちょこっと頬が緩んでた気はする。でも、そんなに引くほど変な顔じゃなかったでしょ。露骨にそんな顔されると傷つくってものよ。


 私の意見に同意を得るためにあたりに視線を向けると、その場にいたほとんどの人たちから一斉に目を逸らされた。


 何これヒドイ。


「そんなことより、早速行くわふよ!!」


 ちょっと、私がなんかおかしな人みたいに思われてるのを「そんなこと」で片づけないでよ。せめてもうちょっとフォローとかしてくれてもいいんじゃないの?


「てか、行くって何処ニャ?」


「決まってるわふ!! ニタの防具を買いに行くわふ!!」

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