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ご利用は、計画的に

「危ないわふっ!!」


 鋭い叫びと共にこちらに突っ込んできたランカによってタックルを食らう。その瞬間、足元に棍棒が掠めて地面を抉り、砂煙で視界が完全に塞がれた。


 タックルの拍子に息を吸ってしまい煙が肺に入り込んできた。思わず噎せると、ランカに頭をぎゅっと抱き締められ、固い胸を真正面から押し付けられる。マシュマロじゃなくてよかった、って思ったらダメなんだろうね。


 そんなアホなことを考えているうちに、視界がクリアになった。煙から抱きしめ合う様に転がり出てきたのだ。


「だ、大丈夫ニャか!!」


 転がる勢いが止まると同時に飛び起きて、横で倒れるランカを抱き寄せる。タックルを食らった時、彼女の呻く声が小さく聞こえ、無数の固い何かが当たったような振動を彼女の身体から感じたからだ。


 案の定、彼女のHPは8割まで削れていた。背中に付いている砂、そしてその近くに散らばる握り拳大の小岩から、恐らく地面を抉った際に飛んできた石のつぶてがランカに被弾したのだろう。


「だ、大丈夫わふ!! まだ8割残っているわふ!!」


 そう言いながら私の手を振り払い立ち上がるランカ。巨人に向けて拳を構えるその姿は明らかに強がっている。でも、パーティの主力であるランカが居ないと勝てないことは私も、恐らく彼女も分かっているはず。


 相手にダメージを与えるのがランカの役目なら、彼女が円滑に且つ安全に立ち回れるよう土台を作るのが私の役目。


「……無理はしちゃ駄目ニャよ」

「ガッテンわふ!!」


 拳を胸の前で打ち据えて元気よく答えるランカ。それを受けて、私は鞭を片手に矢を引き絞る。頭の上のイヅナもいつもの気だるげな雰囲気から好戦的な目を巨人に向けている。やるときはやるタイプなのかもしれない。


 緑の巨人は空振りした棍棒を肩に担ぎ、くすぶった目を私たちに向けている。そして、ゆっくりとした動作でこちらに向かってきた。


「行くわふ!!」


 そうランカが叫ぶと同時に地面を蹴り、それに合わせて矢を放つ。狙いは巨人の胸だったが、大きく外れてその頬を掠めた。


 でも、気を引くには十分だ。


「ナイスわふ!!」


 そう言いながら、ランカは矢に気を取られている巨人の懐に素早く潜り込んでがら空きの胴目掛けて拳を叩き込んだ。拳を喰らった巨人の顔は苦痛に歪み、その顎に置き土産とばかりにアッパーと蹴りをお見舞いして彼女は再び距離を取る。


 それに合わせて、私は無数の矢を射かける。ランカの追撃をけん制するためだ。


 数打ちゃ当たるの勢いのもと放たれた矢の何本かは上手い具合に巨人の太ももに突き刺さってくれた。すると、巨人は膝を折って太ももに突き刺さる無数の矢を一本一本抜き始める。時間稼ぎになったみたいね。


 巨人のHPは9割程度。あの攻撃で1割しか削られないとなると、攻撃力と同じくその固さも中々のモノだね。よし、今度はランカのHPを見てみよう。


 案の定、ランカのHPは先程から大幅に削れて5割を切っていた。多分、突撃した際に反撃を喰らったのだろう。距離を取った時も顔をしかめていたし。なら、回復しないとね。


 巨人が矢を抜こうと躍起になっているのを確認して、私はポーチからなるべく高品質のポーションを取り出す。それを片手に納め、突撃する機会を伺っているランカを見る。


「ランカ、これ受けとるニャ!!」


 そう叫んで、ポーションを投げ渡す。突然の声に面を喰らった顔のランカはポーションを何とかキャッチ。突然のことにしばし固まるも、我に返ったランカはそれを飲み干してくれた。


 ランカが回復中は、敵対心(ヘイト)を稼げないと。横目で確認すると、巨人はすでに突き刺さった矢を全部引き抜いてこちらに迫ってきていた。それに私は頭上のイヅナに目を向ける。私の視線を感じ取ったイヅナはすぐさま鋭い声を上げた。


 『陽炎』の発動合図だ。


「ランカ、私はやつの後ろに回り込むニャ。挟み撃ちで一気に仕留めるニャ!!」


 そう告げると、ランカはポーションの空き瓶をくわえながら拳を頭上高く突き上げる。分かってくれたかな? 取り敢えず、バレないように回り込まなければ。事態は一刻を争うし、足音なんか気にしてられるか。


 足音を出すように全力疾走で巨人の背後に回り込む。足音に気付いて巨人がこちらを向くが、姿が見えないためにあちこちに目配せしている。時間は稼げたかな?


 すると、ポーションを飲み干したランカが後頭部にキツイ一撃を加え、気を逸らしてくれた。ランカのお陰で何とか背後に回り込むことに成功。すぐさま矢を巨人の顔すれすれ目掛けて放つ。


 狙い通り、矢は巨人の髪を掠めた。突然後ろから矢が飛んできたことに巨人は動揺し、一瞬だけ動きが止まる。その瞬間、ランカの拳が火を吹いて、巨人のHPを着実に削り取っていく。


 巨人はランカ目掛けて棍棒を振り回すが、ランカは既に距離を取っており棍棒は空を切った。そして、今度はがら空きの背中に私が矢を放ち、鞭を叩き込む。


 今度は私に棍棒を振り上げるが、『陽炎』で見えない私を目視できることはなく、棍棒は誰もいない地面を叩き割るしかなかった。そして、背後からランカが深追いしない程度にダメージを与える。


 この、一人が敵を引き付け一人がダメージを与えるヒット&アウェイを互いに繰り返し、私たちは着実且つ安全に巨人のHPを削り取っていった。


 何度目かの引き付けの時、ランカがラッシュのフィニッシュに蹴りを喰らわせ、巨人をそのまま大きな木の幹に叩き付けた。ズルズルと幹を伝って地面に落ちる巨人のHPは2割を切り、HPを示すバーの色も赤色に変化していた。


 立ち上がる際の巨人の動きもぎこちない。恐らくHPが少なくなったためかな。しかし、これなら何とか倒せそうだ。


 そんなことを思いながら巨人の様子を見ていると、ある事に気付いた。


 フラリと立ち上がった巨人の身体を、何か黒い煙みたいなものが包み込んでいた。煙にしては細かい、霧と言った方がいいかもしれない。そんな巨人の様子を見ていると、ふと巨人が頭を上げた。


 その瞬間、今まで感じたことない壮絶な寒気が全身を襲った。ぬるっとした無数の蛇が身体中を這いずりまわるみたいな、そんな感覚だ。


 突然のことに身体が強張る。ゲームの中なのに変な汗が滲んでくる。呼吸が荒くなる。独りでに尻尾がピーンと立ち、尻尾や耳の毛が瞬時に逆立つ。寒気と示し合せた様に、それらが次々と襲ってくる。


 原因は……分かってる。巨人の顔を見たからだ。



「顔が……割れてるわふ」


 そう遠くない場所で同じく巨人の顔を見たランカがそう漏らす。彼女の言葉通り、巨人の顔が割れているのだ。正確には、顔の表面がお面みたいにひび割れていると言ったところか。しかも、そのひび割れの隙間から除く赤い目が余計恐怖を逆撫でしてくる。


 よく見ると、ひび割れで欠けた場所から黒い霧みたいなのが噴き出している。さっき、身体から漏れ出しているように見えたのはこれのせいか。


 っと、ここで巨人が屈むように膝を折り、腰をゆっくりと上げた体勢になった。見た目はクラウチングスタートの形だ。


 来る、と予想したランカが構えるので、私も矢筒に手を置き、いつでも迎撃出来るようにしておく。多分、突進してきて距離を詰めてくる。距離的に避けることは容易、それを避けてから迎撃するパターンでいこう。


 頭の中で迎撃パターンを構築した時、巨人が地面を蹴って突進してきた。



 いや、正確には地面を蹴った瞬間目の前にいた。


「なぁ!?」


 突然のことに避ける間もなく巨人の拳を諸に受けてしまった。殴られた勢いで吹き飛ばされ、受け身をとろうとしたら背中から何かに叩き付けられる。木の幹にでも当たったかな。てかゲームの癖に結構痛い。


「ニタわッ!?」


 ランカの声が途中で途切れて、代わりに何か固いものが何かを叩き割る音が聞こえる。ランカは避けられたのかな?


 取り敢えず、まだ身体が動くってことは私のHPは残ってるってことね。


 ってHPが残り2割しかない!? 嘘、たった一撃で!? え、私の防御力低すぎない? いや分かっていたけども!!


 と、混乱している場合じゃない。ワーウルフの攻撃でも6割まで削られたんだ。巨人の一撃で8割持ってかれるのも普通なのかもしれないし、ありえないことじゃない。


 品質の低いポーションを一つ飲み干してHPを5割程度まで回復させたところで、残すは最高品質のポーションただひとつとなってしまった。


 くそ、今までの戦闘で小さなダメージでもなるべく回復してたから浪費しすぎた。もうちょっと考えて使うべきだった。


「わふっ!?」


 不意に聞こえた声の方を見ると、巨人の棍棒を諸に喰らっているところであった。それを見た瞬間、私の身体は勝手に動きだしていた。



◇◇◇



 あれだけ距離があったのに、一瞬の内に距離を詰めてきた。あれ、なんなのだろう? 


 吹き飛ばされて地面に叩き付けられた時、僕はふと思った。


 僕が見たのは、巨人が走る構えをした時に顔から噴き出していた黒い霧みたいなのが足にまとわりつくところだった。多分、突然スピードが上がったのはこのせいだと思うんだけど。


 ま、そんなことはどうでもいいか。どうせ、昨日と同じように見捨てられて、死に戻るのが落ちなんだろうな。そうに違いない。


 ニタも昨日の人たちと同じ…………同じか?


 出会ったばかりの自分にご飯を奢ってくれた。下着同然の僕に装備を買ってくれた。戦闘における役割の教えてくれた。まぁ、その時の出来事でトラウマになったんだけどね。あと、僕がピンチの時は必ず回復する間の敵対心(ヘイト)を稼いでくれて、高品質のポーションを惜しげもなく渡してくれた。


 そして、頭を撫でてくれた。


 現実でも何かと撫でられることが多いが、からかい半分に頭を撫でてくる人とニタの手は全く違う、身体を包み込むような優しい温かさがあった。


『自分が出来ることを精一杯やればいいニャ』


 そして、撫でられた時に言われた言葉。正直、ゲームにまで来てそんなこと言われるとは思わなかった。初めて聞いたとき何も言えずにボケっとして、その後込み上げてきた笑いを堪えるのに必死だったっけ。


 そこでようやく、僕はニタを信じてみようって思い始めたんだ。


 でも、この状況じゃあ流石のニタでも見捨てるかもしれないな。実際、僕があの子と同じ立場だったら助けようなんて思わないし、出会って日が浅い僕のために身体を張る必要もないしね。


 また、ここに一人だけ取り残されるのかな……?


 そんなことを思っていると、ヒタヒタと素足で歩く音が、そして棍棒を引きずる音が聞こえる。巨人が迫っているんだ。


 素早く起き上がろうとしたけど、HPが2割を切っているためか身体が思うように動かない。肺の辺りが動く毎に軋む。何でこんなところまでリアルなのかな、このゲーム。


 何とか立ち上がった時、不意に大きな影が掛かった。前を見ると、黒い霧をまとった巨人が鋭く光る赤い目を向けてきている。その手に握られた棍棒がゆっくりと上げられる。素早く辺りを見回すが、ニタの姿は見えなかった。


 『逃げたのかな』――――僕の中でそう判断が付いた瞬間、大きくしなりながら僕の脳天目掛けて振り下ろされた。




 筈だった。


 僕の脳天目掛けて振り下ろされた棍棒は、途中で速度がガクッと落ちたのだ。突然のことに驚愕の顔を見せる巨人は、赤い目を手首に向ける。


 そこには、僕のトラウマの象徴であるヘビ革製の鞭が巻き付いており、それは巨人の左後ろの空中から伸びていた。そこに、人がいるかのように。


「こっち向くニャ!!」


 何もない空間からニタの声が聞こえる。そして、手首に巻き付いていた鞭が離れ、勢いをつけて巨人の目に叩き付けられる。


 痛みに絶叫を上げる巨人の顔から大量の黒い霧が噴き出して、鞭が伸びる場所に降りかかる。すると、その空間からむせる声と共にニタの姿が現れた。


「逃げるわふ!!」


 そう叫び終わった時、既にその小さな身体に野太い棍棒が横凪ぎに振るわれていた。


 微かに聞こえる掠れ声。メシメシと身体が軋む音が聞こえ、突風が顔を叩く。ニタの身体は糸で引っ張られる人形のように吹き飛ばされ、砂埃を上げながら地面を転がった。


「ニタっ!!」


 そう叫んで走り出そうとしたとき、爪先に何か固いものが当たる。反射的に足元を向くと、普通よりも淡い青緑のポーションの瓶が転がっていた。それは素人の僕から見ても品質が高いものだと分かる……いや、これはニタが作ったポーションの中で確か最高ランクのやつだ。


 ポーションから視線を彼女に戻すと、その頭の上に表示されたHPバーは5割程度から一気に削れ、緑色から黄色、赤色と変わり、真っ黒に染まる。ニタの身体が一瞬だけ光ったと思うと、次の瞬間、その身体は白いポリゴンとなって四散していった。


 ニタがポリゴンとなって消えていくのを、僕はただ黙って見つめるだけしかできなかった。足元の最高品質のポーションがつま先に当たる。ポーションへと目を落としたとき、僕は悟った。



 ニタは、僕を助けに来たのだ。


 その結論に至った時、僕の頭上に再び棍棒が振り下ろされる。普通なら反応できずに棍棒に潰されるはずだった。でも、そうはならなかった。


 無意識の内に突き出していた拳が、突き刺さった棍棒の根元から叩き折ってしまったからだ。理由は分からない。いや、分かる余裕もない。


 今の僕は、ただニタの仇を取ることしか頭になかったから。


「ァァァァァアアアアアアアアア!!!!」


 腹の底から響き渡せるような大声を上げて、折れた棍棒を見つめる巨人の顔面に渾身の一撃を叩き込む。お面の様に割れた顔の表面を突き抜け、黒い霧のようなものを直撃。


 その勢いのまま吹き飛ばされた巨人は大量の黒い霧を噴き出しながら地面を転がり、霧がなくなると同時にその体が白いポリゴンとして消えていく。



 しかし、巨人が完全に消えるのを確認することなく、僕の身体は勝手に動き出していた。


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