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調教じゃないよ、調教(おはなし)だよ。

 詰んだ。


 ヤバイ、これは詰んでしまった。


 どうすればいいんだこれ。このままじゃクエスト受けられないぞこの野郎。


「わ、わふぅ……」


 傍らのランカは涙目を浮かべてプルプル震えながら私の袖を掴んでいる。その声は外敵に襲われ縮こまる小動物そっくりだ。


 この顔見たら誰だって手を差し延べるでしょうが。いや、変態(おおきなおともだち)の手はいりません帰ってください。


 でもこいつにはそれが通用しない。一切の同情を向けず、ただ残酷な事実を突きつけるだけ。今まで生きてきて、これ程までに残忍で非道な人間を私は見たことがない。

 この世は所詮無情、強きものが私欲を貪り、弱きものは搾取され、ただ蹂躙されるのを指をくわえて待つしかないのか……。



「あの……」


 この世の全てに絶望しながら、目の前で私たちを冷たく見下ろしてくるモノに再度問いかける。



「二人で500Gってのはダメで――」

「ダメです。登録料は1人500Gと決められてますから」


 目の前のそいつ―――ギルド会館の受付嬢はうんざりした表情で先程と同じ答えを返してきた。



 と言うのも、まずは今の状況を説明しなくてはならないね。


 メリエールさんの所を出てギルド会館に向かった私達は、早速冒険者登録を済ませようとした。が、そこでことは起こった。



「冒険者登録は登録料として1人につき500G頂きます」


 まさかの登録料請求。しかも私の全財産が1人分と言う絵に描いたような展開、と言うか嫌がらせ。運営は私に恨みでもあるのかコラ。


「二、ニタ……は、早く決めてわふ~……」


 隣のランカは袖を引く力を強めながらか細い声を上げる。まぁその視線は私ではなく後ろに向けられている訳だが。


 というのも、ギルド会館の受け付けは全部で三つしかなく、その回転率はお世辞にも良いとは言えない。


 只でさえ回転率が悪いのにその一つを私達が占領しているのだから、私たちの真後ろには結構な人数のプレイヤーがいるわけだ。まぁその視線は友好的ではないだろう。


「ハァハァ……獣耳萌え」


 友好的ではないだろう。いや、主にわたし達の貞操の危機的な意味で。


 流石のランカも悪寒を感じ取ったのだろう。「わふ〜……」と言いながら涙目+上目遣いで私の腕にすがり付いてくる。やめろそんな目で見つめるな。


 そしてそれに歓声を上げる後ろの連中。もうやだ変態(こいつら)


「あの……いい加減にしてくれませんか?」


 人工的に作られたNPCにも我慢の限界があるのだろうか、と問いたくなるほど不機嫌なオーラを醸し出す受付嬢。これはそろそろ潮時かな。


 あまり悪目立ちするのも本意じゃないし、これ以上変態(リスク)を背負うこともないか。ならここはおとなしく引き下がってフィールドで狩りでもしようかしら。


 そんなわけで、敵意半分変態半分の視線の中を抜け出して、私たちはフィールドへとくり出した。



◇◇◇



「わふふぅー!!」


 フィールドに飛び出した時、ランカがそう叫びながら我先にと走り出していった。あんな重々しい雰囲気の中から解放されたのだから仕方がないか。てか元気すぎるだろ。


「あんまり離れるんじゃないニャよ!!」

「わっふぅ~!!」


 聞く気無いなこの子。危ないから離れないでほしいんだけど。


「ガゥ!!」


 って言ってる傍から近くの草むらから狼っぽいMOBが飛び出してきた。そいつは低いうなり声を上げてこちらをけん制してくる。しかし、ランカは狼など目もくれずに元気に飛び回っている。


「ちょ、ランカ気づいてるニャか!?」

「わっふふ~!!」


 私の声も聞こえてないようだ。駄目だこの子早く何とかしないと……と、取り敢えず飛び出してきた狼の動きを見ないと。


 こいつは狼型MOB『ワーウルフ』。一昨日、兄貴と一緒に狩りをした時にも遭遇したから覚えてる。ワーウルフって、プレイヤーを見つけると攻撃してくる―――確かアクティブMOBだったよね?


 そんなことを考えてると、ワーウルフは低いうなり声を途切れさせ、獰猛な目で一番近い敵―――ランカに狙いを定めて飛び掛かった。それに、私は反射的に腰の矢筒へと目を向け、手を伸ばす。


「ッ、邪魔――」


 急いで矢を取り出そうとした矢先、ランカの声に顔を向ける。すると、彼女は飛び掛かってきたワーウルフの顔面を掴んで近くの岩目掛けてぶん投げてた。岩に叩き付けられたワーウルフは「キャイン!!」っと悲鳴を上げる――――


「わふぅ!!」


 よりも前に、その顔面にランカが拳を叩きこんだ。顔面に諸に喰らった狼はか細いうなり声を上げることもなく、ズルズルと地面に落ちて動かなくなった。


「全く!! 人がせっかく走り回っているのに邪魔しないでわふよ!!」


 動かなくなったワーウルフに、腰に手を当ててプリプリと怒るランカ。いやちょっと待ってよ、何今の戦い方。


「ラ、ランカ? ちょっといい――」

「次来たわふよ!!」


 私の問いかけに反応する前にランカが鋭い声を上げ、近くの草むらを睨み付ける。すると、その草むらからワーウルフが4匹飛び出してきた。


「ニタは2匹、お願いわふ!!」

「え!? ちょ、待つニャ!?」


 ランカはそれだけ言うと私の返答も待たずに地面を蹴ってワーウルフたちに突進。ワーウルフたちはそれを避ける。すると、4匹固まっていたのが2匹ずつに分かれる。


 それを見越していた、と言うかそうさせたであろうランカは片方に突っ込んでいった。ってか人の話聞けやゴラァ!!


「わふっ!」


 突っ込んでいったランカに飛び掛かってきた1匹を、彼女はアッパーで怯ませてその尻尾を掴む。そして迫ってきたもう1匹に投げつけてぶつけ、そして2匹同時に拳を叩き込んで吹き飛ばす。


 しかし、それだけではHPを削り切れなかったのだろう、ワーウルフたちはすぐさま起き上がってランカと距離を取った。それにランカも警戒してか、すぐに突っ込まず様子を見る。そのまま硬直状態へとなる――――

 

「ワン!!」


 ランカの戦いに見入っていた私は頭上から聞こえた吠え声――――イヅナの声に我に返る。そうだ、まだ2匹元気なワーウルフがいるんだ。そいつらはどこに……?



 そう思って前を見た瞬間、目の前に大きく開かれたワーウルフの口があった。


「ニャァ!?」


 悲鳴を上げて思わず手で顔を庇う。手に噛み付かれる感覚、そして鋭い痛みが走る。反射的にワーウルフを振り払う。すると「キャイン」と鳴き声がして、噛み付かれていた感覚が消える。


 しかし、今度は背中に体当たりされる。その勢いのまま地面に転がる。鼻を思いっきり打った。涙出そう。


 でも、これ以上攻撃を受け続けるのもキツイ。その一心で身体を無理やり持ち上げ、背中にある弓ではなく、腰についている鞭を取り出す。この距離だ、弓なんかで応戦できる筈がない。


 立ち上がる際にHPに目をやる。6割か。初心者防具は防御力など皆無に等しい、なおかつ調教師(テイマー)の防御力も期待できるほどもないのを考えると、妥当かな。皆がさっさと新しい装備に変える理由も頷ける。


「さて……」


 鞭を垂らして、襲ってきたワーウルフを見据える。2匹とも、一定の距離を取ってこちらを睨み付けている。やろうと思えばいつでも飛び掛かれる距離だ、狼のくせに生意気な……。


「イヅナ、『陽炎』お願いニャ」


 私はボソリと頭上のイヅナに問いかける。すぐさまイヅナの声が聞こえ、身体が白い霧に包まれる。途端に、ワーウルフたちの様子がおかしくなった。今の今までいた敵がいきなり消えたらそうもなるか。


 臭いで分かりそうではあるが……どうやら分からないみたいね。『陽炎』はある程度臭いも消す効果があるのか。なら好都合だ。


 私は動揺を隠せないでいるワーウルフたちの背後に回り込んで、2匹を巻き込むように鞭を振り回した。「キャイン!?」と悲鳴が聞こえ、ワーウルフは大きく仰け反る。


 しかし、火力の低い鞭で致命傷は無理だったらしく、すぐさま体勢を立て直してこっちに突っ込んでくる。それを避けながら、背後からの攻撃、避ける、攻撃を繰り返す。


 何度目かの攻撃で、1匹がか細い悲鳴を上げて倒れた。あと残るは1匹。まぁその1匹も大分ダメージを受けて弱っているけどね。


 と、そんな感じで時間がかかったが残りの一匹も問題なく倒せた。


 途中、突っ込んでくるのを利用して岩に突っ込ませたりしたと最低なことやったけど、戦闘なんだから仕方がないよ。


 でも、やっぱり一昨日の兄貴と一緒にやったのを考えるとスゴイ大変だった。あの時はそこまで時間もかからずに倒せたワーウルフにここまで苦戦するとは思わなかった。やっぱり火力が足りないからかな。



 いや、直接的な原因は分かってるけどね。


「ニタ~、時間かかったわふね~」


 何とか倒したワーウルフの剥ぎ取りを終えた時にランカが帰ってきた。その肩には、彼女が倒したらしきワーウルフ、そして何故かラビットフットが数匹ずつ乗っかっていた。いつの間に倒してきたのよ。


「剥ぎ取るかと思って持ってきたわふよ」

「そう、ありがとニャ」


 彼女に労いの言葉を述べつつ、地面に転がされたMOBの剥ぎ取りを済ませる。私たちの剥ぎ取りが済んだMOBが消えるのを見届けると、突然ランカが立ち上がって大きく伸びをする。


「さて、それじゃあ次に行くわふか!!」

「あ、ちょっと待つニャ」


 そう言って次へと行こうとするランカの肩を掴んで押しとどめる。それに少し不満そうな顔を向けてくるランカに、私はこう言った。



「ちょっと、調教(おはなし)いいかニャ?」

ニタの本領発揮です。


皆さんが調教を『おはなし』と自然に読んでしまうようになるまで、ルビ振りはやめません!!←

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