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は、はじめての……。

「さ~入って入って、出来たてホヤホヤのほ――」

「止めろ怒られる……」


 ドアを開けながらそう言おうとしたメリエールさんの頭を叩きながら朧が呆れたような声を出す。てかメリエールさん、それどこのマシンガン太子。


 路地裏の件からメリエールさんのオフィスに行くことになった私たち。心の中ではどんな拷問が待ち受けているかとビクビクしている。隣のランカはそんなことなど微塵も感じていないようで、ドアから見える部屋をもの珍しそうに見入っていた。 


 メリエールさんと朧の後に続いて入った部屋は、思ったよりも広かった。


 足元はくすんだ木目のフローリング。黄緑色のカーペットの上に長机が置かれ、二人掛けのソファーが長机を挟んで2脚。その向こうに漆塗りの立派な机、その上は分厚い本や資料の紙、そして木彫りの装飾を施した翡翠色の球体型コンパスが置かれている。奥に二つのドアがあるが、一つには『CLOSE』の立札が掛けられていた。

 壁は等間隔で窓と油絵で描かれた風景画や人物が交互に掛けており、窓からの光、ランプの柔らかな光が部屋全体をやさしく照らしていた。その様相は、オフィスと言うより応接間と言った方がしっくりくると思う。


「カルー? ちょっと来てくれる~?」


 朧に叩かれた頭を摩りながらメリエールさんが呼び掛けると、部屋の奥の立札が掛かってない方が開き、一人のプレイヤーが出てきた。因みにNPCとプレイヤーの違いは頭の上に表示される名前の色で、プレイヤーは水色、NPCは黄色だ。


 フリルの着いた真っ白なエプロンに藍色のワンピース、これまたフリルの着いたカチューシャを身に着けたその姿は、まさにメイドであった。カルーと呼ばれたメイドは、メリエールさんの前で軽くお辞儀をした。


「メリエールさん、何でしょうか?」

「奥の部屋でこの子の服見繕ってくれないかな~? なるべく安くて可愛いものをお願いね~」

「わふ?」


 メリエールさんはそう言いながら傍らにランカを抱き寄せ、その頭を撫で始める。その姿に、カルーさんは訝しそうに眉を潜めた。


「見繕う……ってこの子、服着てますよ?」


 まぁ4、5万Gはする服を着ている子の服を見繕うと言う変なお願いなのだ。誰だってそう思うだろう。


「いや~違う違うのよ。この子さっきまで下着姿で外にいて、今はあたしの服を一時的に貸してるだけ。だからこの子に服が必要なの」

「……何故下着姿でうろついていたのか甚だ疑問ですが、取り敢えず予算はどのくらいでしょう?」

「そうね……」

「5000Gでお願いしますニャ」


 カルーさんの問いかけにメリエールさんがこちらに視線を向けてきたので、聞かれる前に応えた。それを聞いたカルーさんはかしこまりました、と言うとメリエールさんに一礼し、彼女の傍らのランカを引き連れて奥の部屋へと引っ込んでいった。


 ……って、あれ? お金払うんじゃないの? 「足りない分は己の身体で払わんか!!」って言われると思ってたよ。それ以上に予算に見合った服を用意してくれるみたい。


 ……メリエールさんマジ良い人。


 その後ろ姿が消えるまで手を振っていたメリエールさん――――その背中に羽根が生えているように見える私はもう手遅れだと思う。そんなことなどつゆ知らず、メリエールさんはふぅと一息つくとクルリとこちらを向いて大きく両手を広げた。


「では改めまして、商人同盟『絹の道(シルクロード)』の代表、メリエールで~す。そして、ようこそ!! 『絹の道』へ!!」


 そう大きく宣言したメリエールさん。そしてそれと同時に彼女の両サイドから花火が打ちあがり、部屋中を花火が飛び回る。何この演出? てか商人同盟って? そんな疑問があったが、取り敢えずは彼女の話を聞こう。


「あたしたち『絹の道』はこの町に店を構える商人たちが提携を結んで出来た商業団体で、この町の物価の安定、アイテムの輸出入、商業的治安維持―――所謂ぼったくりや強盗ね。これを監視、必要な時は介入して、この町の商業的安全を確保するために活動しているのよ~」


 自分の向かい側に座らせた私にメリエールさんは『絹の道』について説明してくれた。つまり、この町の商人がスムーズに商売が出来る様に動く非営利団体って訳ね。でもさ、それってつまり……。


「あの……それって、えっと……ギルドではないんですニャ?」


 兄貴の話で聞いたギルドと言う言葉。確か、数十人単位のプレイヤーたちが一人のプレイヤーをギルドマスターっているリーダーにして、固定メンバーでゲームをプレイする集団だったっけ? 簡単に言えば数人規模のパーティの大型版。

 メリエールさんの言ったことって、それつまり生産職のギルドってことじゃないのかな。名前が商人同盟って言ってることは、生産系ギルドと戦闘ギルドの呼び方が違うのかもしれない。



「う~ん……確かにやってることはギルドに近いけど……正式にはギルドじゃないんだよね~」


 自分の曖昧な返答に私が理解していないのを悟ったのか、メリエールさんは一つ咳払いをして説明し始めた。


「えっとね、ギルドとして認められるには必要なモノがあるの。まず、ギルドホームと呼ばれるギルドメンバー専用の施設。これがないと運営から正式なギルドとして認められないのよ。これを買うにはざっと1MGは必要で、因みに1MGってのは100万Gのことね。まぁこれに関しては提携を結んでいる人達から援助してもらえば良いけどね。そして次、冒険者ランクがB以上であること。これはギルドマスターになるための最低条件なんだけど、まだ満たせてないのよ~」


 なるほど、つまりお金はあるけどメリエールさんの冒険者ランクが基準値まで達していないから、ギルドを作れないと言うことか。と、言うことはこの部屋はメリエールさんが個人的に借りている部屋ってことになるのね。因みに彼女のランクは『C-』。HLOのランクは『F』から『SS』まであり、一つのランクにも『-』や『+』の3段階がある。


「でも、それじゃあ他の条件を達成してる人がギルドを作ればいいんじゃないんですかニャ?」

「あたしもそれを提案したんだけど、誰一人として首を縦に振ってくれないのよ~。何でかしらね~……?」

「そんなの当たり前だろ……」


 ここで口を挟んだのは朧だ。


「この同盟の代表はお前だ……。お前以外にギルマスになれる奴がいると思うか……?」

「えぇ~……あたし人の上に立つ人間じゃないし~」

「この町の商業を握る奴が何言ってんだ……」


 朧の突っ込みに「えぇ~……いいじゃん別に~……」と不貞腐れながら机頬をつけるメリエールさん。確かに、今の彼女にこの町の商業を掌握しているという印象は失礼だけど抱けない。まして、本人も不本意そうだし。何かあるのかな?


「メリエールさ~ん」


 このことに関して聞こうか聞くまいか悩んでいると不意に声が聞こえた。声の方を見ると、先ほどのメイドさん―――確かカルーさんが奥のドアから顔を出して何かを差し出していた。よく見ると、それは先ほどランカが来ていた服であった。


「これってどうします?」

「あぁ~……あたしの部屋辺りにでも置いておいて~。あとランカちゃんの着替えは終わった~?」

「終わりまし――」

「ニターー!!」


 そう言ってカルーさんが顔を引っ込めるよりも先に、ランカが元気よく飛び出してきた。


 赤の布地をベースに所々黄色の刺繍がしてある短めのチャイナドレス、腰に巻かれたベルトから2本の帯が踵まで垂れている。靴はサンダルであるものの、つま先が尖っていて蹴り攻撃を考えられた設計だ。そして、もっとも目を見張るのが両手に着けられた小さな突起が二つずつある手甲だ。


「どうわふか!!」

「おお~っ、すごい可愛いと思うニャよ」


 ランカの問いに素直に感想を述べると、彼女はえへへ、と笑顔を零しながらその場で一回転。てか、5000Gでこのクオリティはすごい。多分普通の店に同じクオリティを頼んだなら、1万Gは下らないと思う。


「これ、本当に5000Gですかニャ?」

「ちょうど在庫が余っていたものがあったので、それを寸法通りに直して刺繍と帯を加えただけです。手甲も余りものですし……全部占めて4000Gぐらいですかね」


 服を片づけてきたカルーさんに問いかけると、まさかの値段が返ってきた。これで4000Gって……。何か申し訳なくなってきた。


「いいじゃな~い。可愛い子はこうでなくちゃね!」


 いつの間にかランカに駆け寄っていたメリエールさんはランカを抱きしめながらその頭を撫で、撫でられているランカも満更でも無さげに頬を染めている。


「あ、取り敢えずこれは御代ですニャ」


 そう言ってカルーさんにお金を渡す。と言っても、メニューウィンドゥからGを選択して贈呈するだけだけどね。お金が贈られたことによりカルーさんの前にウィンドゥが表示される。


「……提示した金額と違うのですが?」

「それは依頼料ですニャ。受け取ってくださいニャ」


 訝しげな顔を向けてくるカルーさんにそう伝える。因みに私が渡した金額は4500Gだ。とは言っても、私的にはこれだけでいいのかって思うけど。

 そう言ったらカルーさんは暫しウィンドゥを見つめた後、「ご好意、感謝します」と言って受け取ってくれた。


「ところで、ニタさんたちはこの後どうするんですか?」


 カルーさんに問われてたので、改めて今後の予定を考えよう。


 当初はアイテムを売ってそのお金で装備を整えた後、フィールドに繰り出して戦闘しながら生産しようと考えていた。しかし、ランカと出会って目的が彼女の装備を整える事に変わり、いろいろあったもののそれは達成された。

 別にこのままフィールドに出て戦闘と生産をすればいいか。でもそれだとランカが手持無沙汰になるな……。ランカには貸したお金を返してもらわなくてはいけないから、別行動と言うのも怖いな。ランカにしてはありえないと思うけど、そのまま逃げられることもある。


「手っ取り早くお金を稼げる方法ってありますニャ?」

「そうですね……クエストを何件かこなせば今回の金額分は貯まりますよ」


 クエストか……兄貴も同じこと言ってたな。なら、クエストをこなして借金返済してもらおうかな。


「じゃあ、そろそろお暇させていただきますニャ」

「あら、もう行っちゃうの~?」


 私の言葉にランカを撫でながら名残惜しそうな視線を向けてくるメリエールさん。その手の中のランカはトロ~ンと目を泳がせて涎を垂らしている。どんだけ撫でられたんだろう……。


「あまり長い時間居るのも迷惑ですし、何よりランカには早くお金を返してもらわないといけニャいので」

「そっか……残念」


 そう言ってメリエールさんは名残惜しそうにランカを撫でる。てかこのままだとランカが別の意味で再起不能になりそうだからやめてもらおう。


 そうして何とかランカを解放してもらった後、何かの縁だからと言って、ランカ、メリエールさん、朧、カルーさんとフレンド登録した。初めてのフレンドと言うので何か感慨深い。


 クエストはギルド会館と呼ばれる建物で名前を登録した後、受けられるようになるらしい。取り敢えず行ってみますか。

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