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一難去ってまた一難去ってまた一難、何これいじめ?

長い間更新せずにお待たせしてしまって申し訳ございません。

 エカチェリーナの元から逃れてがむしゃらに走り続け、私たちは生産通りからかなり離れた場所まで来てしまった。


 囲みを飛び出して直ぐは後ろから複数の足音と声が聞こえていたが、今は完全に無くなり、人気の少ない通りは私の乱れた呼吸だけが小さく響いていた。


「ニタ、大丈夫わふか?」


 膝をついて呼吸を整える私の耳元にランカの声が聞こえた。彼女の姿は『陽炎』によって見えないが、恐らく覗き込んでいるのだろう。てか、一切息が乱れてないのは『犬の気持ち』のおかげかな。声の聞こえた方に大丈夫と笑いかけ、周りを見渡してみる。



 両側を無駄に高い壁で囲まれ日光がそこまで入ってこない路地裏に、何軒かの露店がポツリポツリとだけ並んでいる。先ほどまでいた『生産者通り』と比べると、殺風景と言うよりも危険な香りがプンプンする。


 『生産者通り』が光とすれば、ここは影と言うべきか。何か正規のルートでは手に入らないようなものが取引されている雰囲気だ。


「お嬢ちゃんどうしたんだい?」


 不意に後ろから問いかけられて振り返ると、白のスカーフと大きな帽子で顔を隠した男がこちらをのぞき込むように立っていた。スカーフの間から見える目からちょっと気味の悪い視線が飛んできている。


「その恰好(なり)、どうやら新人みたいだな。何かお困りかい?」


「いえ、大丈夫ですニャ」


 再び聞いてきた男に素っ気無く返して、ランカの手を取ってその場を離れようとするも、すぐに数人の男に行く手を阻まれてしまった。


「おいおい、そんな冷たくしなくてもいいじゃないか? 俺たちゃ善意で話しかけてるのによ~」


「……善意で話しかけてきたなら取り囲んだりしないニャ」


「ああ? 何か言ったか?」


 思わずボソリと出た呟きを聞かれてしまったみたいだ。一人の男が眉をひそめて近づき手を掴んでくる。思わず振りほどこうとするも、相手の方が力が強いのかビクともしない。


「こっちの素っ裸の嬢ちゃんも大人しくしてもらおうか」


「何するわふか!?」


「ランカニャ!?」


 ランカの悲鳴が聞こえてそっちを見ると、黒いゴーグルを掛けた男が見えない筈の彼女の両手を掴んでいた。まさかイヅナの『陽炎』を見破る奴が……いや、『陽炎』はまだ初期魔法だ。魔法を探知するテスを持っている奴に看破されても不思議ではないか。てか下着姿の少女を拘束するっていろんな意味でヤバい。


「ちょ、その子は離しなさいニャ!!」


「良いじゃねぇか話を聞くぐらい。だからこっちこ―――」


「おい、何してる……?」


 不意に後ろから鋭い声が聞こえた。その声に全員がその方を振り向く。


 そこには頭に黒い頭巾をスッポリ被って顔が一切見えない男のプレイヤーが立っていた。


 見た感じその装備の殆どがレザー系であるのだが、その色は茶色ではなく黒い。そして首もとで結ばれ肩を伝い足元へと延びるボロボロのマント、そしてその腰に帯びている二振りの短剣が、何処か暗殺者みたいな雰囲気を醸し出している。


「何だてめぇ?」


「質問してるのは俺だ……。そこで何してる……?」


 私の一番近くにいたゴロツキが凄味のある声色で黒頭巾を威嚇するが、彼は全く動じることなく更に嫌味ったらしく問い返し、こちらに近づいてくる。


 語尾が何故かボソボソとしてるが、その言葉に聞き返したゴロツキは「あ?」と眉を顰め、それに呼応するように周りのゴロツキたちも私たちから黒頭巾へと挑発的な視線を送る。


 そして、ゴロツキと黒頭巾が真正面から対峙した。


 その場に、ピリリとした空気が流れる。どちらから動けば、そのまま戦いの火蓋が切られるだろう。もしそれが起ころうものなら、この場にいる私たちも確実に巻き込まれてしまう、と自らの危機察知が警告音を鳴らしている。


「あ、こんなところにいた~」


 そんな緊迫した空気を壊したのは、この場に似つかわしくない女性の声であった。その呑気過ぎる声にゴロツキたちはハトが豆鉄砲を食らったような顔のまま声の方向を向き、黒頭巾の方は何故かめんどくさそうに溜め息を零した。


 そこには、細かい刺繍の施された赤色のポンチョに若干薄い黄色のローブを身に纏った女性がこちらに大きく手を振りながら歩いていた。


 透き通るような白い肌に端正な顔立ちですらりと伸びるボディライン、その背中にはメイスがある。そして何よりも目を見張るのが、そのレザーアーマーを元気に押し上げるたわわに実った膨らみだ。


 それは一歩進むごとに大きく揺れる。その破壊力に思わず自分の胸に手を当てて、その圧倒的戦力差に心底落胆したほどだ。


「朧~……あんた、あたしが頼んだ素材を取りに行くのすっぽかしてなにしてんのよ~」


「うるせぇな……」


 周りの空気など一切気にしない女性は朧と呼ばれた黒頭巾に遠慮無く絡み、彼はそれを嫌そうな雰囲気を出しながも手早くウィンドゥを呼び出して軽く操作する。すると、女性の目の前にウィンドゥが現れ、それを凝視した彼女はニッコリと朧に笑いかけた。


「おっ、さっすが朧!! やればできる子だね~……お姉さんがナデナデしてあげようか?」


「いらねぇよ……」


 女性が撫でようと手を伸ばすのを払い退けながら鬱陶しそうに朧さんが呟き、ウィンドゥを閉じる。何このほんわかした空気?


「で、朧。そっちにいる人達は?」


 朧さんの肩に手を置いて首をひょっと出しながら私たちを凝視する彼女。まぁ気になるわよね。肩を手すりにされた彼は「離れろ」と言って彼女を引き剥がし、改めてゴロツキたちと対峙する。


「こいつらが、そこのチビ猫を攫お―――」


「いやいやそんなわけないじゃないっすか!!」


 そんなゴロツキたちの間に割って入ったのは、ヒョロリとした背の低い男だった。その男は両手を朧さんとゴロツキたちに向けて、双方落ち着くよう促す。


 てか今あの人私のことチビ猫って言わなかった? もうあの人にさん付けするの止めよう。


「おい、何で止め―――」


「おま!? あの人誰か知らないのか!? あの『メリエール』だぞ!!」


 ヒョロ男の押し殺した声に、ゴロツキたち全員の顔が強張る。空気に音があれば、『ピシリ』って鳴っただろう。そのままゴロツキたちは額を寄せ合わせて何事か相談し始める。


 てか、あの『メリエール』って……?


「なぁメリ、何か着るもの貸してくれないか……? 簡素な服でも何でもいい……」


「うん、あるわよ~。ちょうど露店を卸売に回ってたら可愛いのがあったからね~……まさか朧が着るの?」


「お前いつかシバく……」


 朧の氷点下にも等しい温度の声色に、メリエールさんは怖気づくことなく「冗談だよ~」とカラカラ笑いながらウィンドゥを開き、薄い水色のチュニックっぽい上着と短パンを実体化させて彼に手渡す。


 手渡された朧は無言のままヒソヒソと相談するゴロツキたちの横を通り過ぎ、誰もいないところ、いや空中に半透明のイヅナが浮かんでいることから恐らくランカが居る所で小さく屈んだ。


「これ着とけ……」


「わふ?」


 そう言って透明のランカに衣類を手渡す。声的に急に手渡された彼女がキョトンとした顔で彼を見上げていたのだろう。


「いいから着とけ……もうすぐ効果切れるぞ……?」


「マジわふかっ!?」


 その様子にため息を零しながら朧が素っ気なく指摘し、慌てふためくランカの声が聞こえる。って、もすぐ切れる? そう思ってイヅナを下側をよく見ると、薄っすらながらも下着姿のランカが見える。


 多分さっきゴーグル付けた男にランカの姿が見えたのは探知テスもあるだろうが、一番は効果が切れ始めていたせいだろう。


「んで、お前ら話し合いは終わったのか……?」


 ランカが慌てて着替えるのを見ないようにか、朧はクルリと振り返って相談しているゴロツキたちに問いかける。問いかけられたゴロツキ全員がビクッと身を震わせ、無言の朧とにこにこ笑顔を絶やさないメリエールさんを交互に見る。


 そして一番初めに朧に食い掛かってきたゴロツキが冷汗を流しながら作り笑顔を向けてきた。


「い、いえ!! 相談なんかしてませんよ……と、取り敢えず僕らはここでお暇させてもらいますね!!」


 さっきの態度とは打って変わって、妙に低姿勢な態度の男はそう早口に捲し立てると仲間を引き連れて逃げる様に走っていく。あまりの迅速な逃げように、メリエールさんや効果が切れて目視できるようになったランカは口をポカンと開けてその後ろ姿を見つめていた。


「これで、一応大丈夫か……?」


「そうだね~……てかこの子だ~れ~?」


「もうちょっと驚けよな……」


 走り去った一団を見送って一息と言いたげな朧の言葉に同調し、そして突然現れたランカに然して大きな反応もしないメリエールさん。この人天然なんじゃ……。


 そんなことを思っていると、私の頭をよじ登ってきたイヅナがお気に入りの特等席に座り込み、大きな欠伸を一つ零した。っと、助けてもらったお礼言わなきゃ。


「えっと、助けてくれてどうもありがとうですニャ」


「あ、ありがとうございましたわふ」


 ランカを連れて、助けてくれた二人に深々と頭を下げると、朧は「気にすんな」と素っ気無く、メリエールさんは「別に良いよ~」とほんわかした笑顔で返された。


 朧は初めちょっと怖い人かと思ったけど、結構いい人なんだ、と失礼な感想を持ったのは内緒の話だ。


「そう言えば自己紹介がまだだったわね。あたしはメリエール。オキュは金属細工師(メタルワーカー)、サイドは治癒師(ヒーラー)だよ~。ってほら、朧も自己紹介!!」


「朧……だ。オキュは暗殺者(アサシン)、サイドは追跡者(チェィサー)……あと、呼び捨てでいいからな……」


 ご本人からの許可も得たので早速呼び捨てにさせてもらおう。前から呼び捨てだったとかそんなことはなかったんや!!


 っと、馬鹿なことは置いといて、朧のオキュは見た目通り暗殺者だった。見た目から入る人なのかな? と、失礼なことを思っている場合じゃない。


「私はニタ、オキュは調教師(テイマー)でサイドが弓使い(アーチャー)。そしてこの子がランカ、オキュは修行僧(モンク)でサイドが盗賊(シーフ)だニャ」


 そう自己紹介し終えると「よろしくね~」とメリエールさんから何故か頭を撫でられた。ちょっと癪に障るけど、猫耳や犬耳を生やしている時点でこの扱いは回避出来まいと覚悟していたので苦笑いで返す。


「ところで、ニタちゃんたちは何でこんなとこにいたの?」


 ほんわかした顔から不安そうに眉を顰めて問いかけてくるメリエールさん、それに同調すると言いたげに頷く朧に、私は今までのいきさつを所々掻い摘んで二人に説明した。


 姫プレイヤーに絡まれたことを話した際、瞬時にエカチェリーナの名前が出てきたことには驚いた。あの人どれだけ有名人なのよ。


「なるほどね~……そりゃ大変だったでしょ?」


「そんなことはないですニャ。そ、それよりも……」


 急に話を切った私にどうしたの? とメリエールさん笑顔で首をかしげてくる。さて、ここでようやく本題に入ることになる。



「あの……あの服って幾らですかニャ?」


 私はそう問いかけながらおずおずと言った感じでランカを指さす。指をさされたランカはファンタジーの世界に似つかわしくない恰好がそんな珍しいのか裾や袖を引っ張ったりと繁々と眺めていた。


 この世界に似つかわしく服装、それはNPCのお店で買えるものじゃない。それすなわちプレイヤー製である。しかも先ほど触った感じからしてなかなかいい素材を使っているみたい。そして作りも丁寧でデザインも可愛い……。


 これの意味することが分かるだろうか?



「そうね~……上下合わせてざっと4、5万Gぐらいかな?」


 メリエールさんのほんわかながらも現実味を帯びた返答に思わず叫びそうになったが何とか抑え込むこと位成功する。


 上下合わせて4、5万。そんな服など今まで生きてきた中で手にしたこともないわ。しかも今は一文無しのランカの代わりにその請求が私に回ってくる。私の持ち金はせいぜい5000G、どう考えても払えるわけはない。


 しかも先ほどのゴロツキの反応を見る限り、どうもメリエールさんがヤバそうな存在にしか見えない。あんなにほんわかしてるのは猫被ってて、本心は他人を蹴落とすことを躊躇しない極悪非道の人かもしれない。


 取り合えず、ここは何とか見繕くろうしかないか……。


「……もしかしてお前払えないのか……?」


 明らかに狼狽えていたのだろう、朧の冷静な突っ込みが入り、それに過敏に反応してしまった。恐る恐る振り返ると、溜め息を零す朧に「まぁ」と口元を抑えて驚くメリエールさん。


 ヤバい……バレた。


「朧、この辺で防具屋は?」


「ここはスラム街だ……ぞ。裏ルートが主流のこんな場所に正規の店があるわけねぇよ……」


「だよね……かと言ってここから『生産者通り』に戻るのもあそこ(・・・)に行くよりも遠いし……それじゃあ仕方がないか」


 何が仕方がないの!? あそこってどこ!? 私たちどうなるの!? 売られるの!? 殺されるの!?


 そんな先走った私の思考を知らないメリエールさんは、ほんわかした雰囲気を消した真剣な顔つきで近づいてくる。そして私の目の前で立ち止まり、静かに見下ろしてくる。


「ニタちゃんたちさ、ちょっとあたしのオフィスまでついてきてくれないかな?」


 それは恐らく死刑宣告なのだろう。その言葉に私は無言のまま頷いて、彼女の後をついていった。

ニタたちの運命やいかに!


追記、『ランカ』と書くべき場所を『ニタ』と表記していましたので修正しました。2ヶ月も書いてないとキャラの名前も忘れるんですね(汗)

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