表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/22

VRMMO、始めます

受験勉強中に書き上げてしまったorz

そんなものでも宜しければどうぞ

「我が最愛の妹よ! どうか……どうか我の願いを聞いてくれ!!」

「いはほ。へんほふはひ(イヤよ。めんどくさい)」


 あくる日の土曜日、窓から心地よく差し込む日差しに包まれたリビングで、何故が床に頭を擦り付け懇願してくる兄貴がいた。因みに私はその頭を踏みつけながらうどんを啜っている。


 鰹だしを丁寧にとった出汁に少し固めに茹でたうどん、そこに分厚く切ったネギとおろしショウガを絡めて啜る。


 手間や時間もかからないし何より美味しい。やはり素うどんが一番ね。


 ああ、自己紹介がまだだったわ。


 私の名前は仁多見(にたみ)千津(ちづ)。現在高校二年、所謂(いわゆる)花の女子高生ってやつ。


 そして私に踏まれているのは兄貴こと、仁多見(にたみ)(せつ)。私より二つ上の変態(・・)だ。決して比喩ではない。


「な、何故だ妹よ!! 何故主の最愛であり尊敬し唯一心を許せる兄の願いを聞き入れてくれないのだ!?」

「嫌悪感と侮蔑と何時なんどき襲われるか分からない恐怖と家族の中で唯一心を許せない不信感の塊が何ほざいてんの? えぇ?」


 頭を上げようと兄貴を無理矢理押さえ込みながらドスの効いた声で言ってやる。多分、今の私の顔すんごい悪人面だと思う。

 その時何故か兄貴は私の足に手を伸ばしてきたから一回浮かせて手と頭が重なり合う瞬間、間髪入れずに踏みつけた。


 無視して立ち去ろう振り返っると「あぁん」と妙に艶っぽい声が聞こえたが、気にしない事にした。



◇◇◇



 ――《Humor Liberty Online ~ユーモア・リバティ・オンライン~》【通称:HLO】――


 これは先月からサービスが開始された話題のVRMMORPG。ゲームに疎い私も最近CMやワイドショーで目にすることが多く、名前ぐらいは知っている。そして、兄貴が踏まれながらも話だけでもと懇願してきた代物だ。


 世界観は中世を基調とした街並み。そこに剣と魔法と学園モげふんげふん!? ……ではなく、剣と魔法のファンタジーと言う何処ぞのファンタジー小説の世界を丸々ゲームにした感じ。手抜きと言われればまぁそうだろうが、その再現度はスゴイとネットで話題になっている。


 圧倒的かつリアリティ溢れるグラフィック、高性能AIが司る人間味溢れるNPCやMOBを実現。更に、今世紀高速の物理的演算能力を有する高性能サーバーにより、最大一億人同時プレイも可能というのも話題の一つだとか。


 プレイヤーは『本業(オキュペーション) 通称:オキュ』と呼ばれる一次職と、『副業(サイドライン) 通称:サイド』と呼ばれるう二次職を一つずつ選び、それらを補う『趣味(テイスト) 通称:テス』と呼ばれるスキルを10個選ぶこととなる。さらにその組み合わせに制限はないため、自分好みのプレイスタイルを作ることが出来るらしい。


 因みに、テスの所持数は、所持スキルの内の1つのレベルが10になると1つ解放されるらしい。その数は無制限だが、一度に装備できるのは10個まで。10個以上持つ場合、外したモノは控えとして回されるとか。勿論経験値は入らない。


 更に運営の遊び心か、テスの中には明らかに戦闘不向きでゲーム攻略に一切関係ない、絶対ボケに走ったであろう、所謂『ネタスキル』が豊富にあるらしく、そのネタ目的に参入するプレイヤーも多いとか。


 まさに『ユーモアと自由を愛する者よ集え!!』の謳い文句にぴったりだ。


 ……でだ。どうしてこのクソ兄貴は頭を踏まれてまでこれを教えようとしたのかと言うと……。


「さあ妹!! 我と共にこのゲームをプレイしようではないか!!」

「イヤ」

「二文字で拒否られた!?」


 ツッコミは大事だがキャラを忘れないで、と心の中で思いつつもそれを口に出さないでおく。取り敢えずうどんが冷めてしまうからパパっと食べてしまおう。


「な、何でやんないんだよ~……。千津ぅぅぅぅうううう……」


 そう言いながら兄貴はその場で泣き崩れる。うちの兄貴の顔は割りと整っている方。友人曰く『超絶イケメンお兄さん!!』らしい。私から言わせれば『ちょーぜつイケメン(笑)変態兄貴』だけど。『(笑)』は是が非でも譲れない。


 私自身顔は普通だし、コレといって抜きん出た特徴もない普通の女子だ。まぁ在るとすれば、高2で中3位の身長しかないことかな。うん、その事言った奴は調教(おはなし)するけどね。


 食器をシンクに置いて水を張ってリビングに戻って区くると尚床に兄貴が泣き崩れていた。いや、泣き崩れながらもチラチラとこっちを見てくるのにイラっときたが、ここは大人に対応しよう。


「だってVRMMOって難易度高いらしいじゃない。普通のゲームすらマトモにやったこと無い初心者が、いきなりVRMMOはキツいんじゃないの? それに、そこまでゲームに熱入れてないから兄貴みたいなテクや顔も広くないしさ~……」

「そ、そこは我が手取り足取り(意味深)レクチャー(意味深)してやるから安心しろ!!」

「今の台詞に変な空気を感じたんだけど?」


 私の問いに、兄貴は「何でもないぞ」と笑いかけてくる。しかし、そこに笑顔に似るに似つかないゲス顔が浮かんでいたのでストレートをかましておいた。


「ブ、VRMMOは自分自身がゲームの中に入れる分ディスクトップからしか見えないFPSやTPSよりは簡単だから安心しろ!! ああ、因みにFPSとTPSって言うのは一人称視点、三人称視点の事だ。主にガンシューテング系に使われる奴な」


 変な方向に曲がった鼻を戻しながら要らぬ説明を補足した兄貴を冷たく見下す。すると、兄貴は(何故か)顔を赤らめて頭を床に打ち付け始めた。


「頼むからやってくれよ~!! ほら、もう千津の分のギアとソフト買っちゃったんだからさ!!」


 そう言って今度は何処からか大きな茶色い袋を見せつけてくる。……って何勝手に買ってんのよ。あたしの意志は無視か?


「それにこのゲームは最先端AIを搭載してるからMOBもリアルに近いハズだ。ゲーム内でMOBをテイムして育てれば少なからずお前の勉強にもなるだろ?」

「そ、それは……」


 コイツ……厄介なもの持ってきよった。


 私は将来獣医、もしくは動物のインストラクターを目指している。しかし高校の授業でそんな専門的な知識まで教えることが無いので全て独学で学んでいて、現在高校2年生と言う立場で既に受験勉強染みたことをやっている状況だ。

 しかし、机の上で参考書と格闘しているのと、実際の現場に立ち会って体験して得るものには天と地、月とスッポン、モフモフと兄貴程の差が出てくる。まして、生き物を相手とする獣医やインストラクターは、なおさら知識よりも実践経験が重要となってくる。私もそれをうすうす感づいていた。恐らく兄貴も私の考えを見抜いて、このゲームを勧めたのだろう。


 本当に、この男は私の内面を気持ち悪いぐらい把握している。其処は、本当によくできた兄貴だ。





「これで千津とゲーム内で……ぐふふ」


 前言撤回。やはりこいつはただの変態だ。


「主はゲームを楽しみながら尚且つ勉強ができる。我は主とゲームが楽しめる。何処にデメリットがある? な、な、良いだろ?」

「ちょ……顔近いって」


 鼻血を垂らしながら詰め寄ってくる兄貴を押し止めながら、ふむぅと考えてみる。


 確かにわたしにとって損はない話だ。むしろゲームを楽しみながら勉強の手助けとなるのだから一石二鳥と言える。


 しかし、所詮はゲーム。MOB一匹一匹の性格や習性などが細かく設定されていると保証は出来ない。まして、ゲーム内で出会う人は兄貴みたいに廃人の人が殆んどということもあり得る。コミュ障ではないのだが、数々のゲームをプレイしてきた猛者たちとリアル同様に絡める自信が無い。


 でもまぁそれは兄貴(こいつ)にでもくっついていれば何とかなるか? 個人的には早く自立したいけど……。MOBに関しても人並みには設定されてるだろうし、されてなかったらそのまま愛玩動物として愛でればいい。


「何より買っちゃったんだよね……」


 私のモットーは『案ずるより産むがやすい』。何かをする前にあれこれ心配していたことも、いざ実行してみると案外うまくいくというという意味だ。それに負担は兄貴がしてくれるんだし、私が心配することは何もない。なら、ココはお言葉に甘えさせてもらいますか。


「……分かった。勉強になるならやってもいいよ」

「おお!! ようやくやる気になったか我が妹よ!! 主とともに『HLO』が出来ることをうれしく思う!! で、では後で我の部屋に来てくれ!! 逃げるなよ!!」


「逃げないって……」


 頑なに拒否ってきた妹を落としたことがそんなに嬉しかったのか、兄貴は堅物キャラの口調に戻り上機嫌に鼻歌を歌いながらキッチンを出ていった。そんな後姿を見つめながら、私はリビングのソファーにダイブしてクッションに顔を埋める。



 さてさて、初体験のVRMMOか……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ