プロローグ3
俺は今猛烈に戸惑っている。これはどうしたことか。
俺はどうしたら良いのか。
決死の覚悟で押した「 」の結果が「粘体吸血鬼」だったのはまぁ良い。色々突っ込みたいとことはあるが、人型に変異することもできるみたいだし、弱い種族ではなさそうだ。
しかし問題は次に現れた職業選択の項目だった。
職業とは種族とは別に設定する、キャラクターの成長方針を決める枠組みのようなものだ。職業によって覚えられるスキルや能力値の上がり方が異なるため、種族に合わない職業を選んでしまうと育成に非常に苦労することになる。
粘体吸血鬼は説明を読む限りでは物理防御に秀でた魔法も使える種族らしい。スライムよりも速く、ヴァンパイアよりも肉体性能が劣ると書かれていた。
だから俺は「魔法使い」か「魔法剣士」にしようと考えていた。
考えていたのだが......
俺は気づいてしまった。
職業選択一覧の上にある「 」の存在に。何となく上を押し続けていたら選べてしまったのだ。
→
・戦士
・騎士
・力士
・モンク
・ムンク
・タンク
・
この情報がβ版wikiに書かれていなかったことから、これは新しい機能だろう。となると本来選択出来ない職業がランダムで選ばれる可能性が高い。
しかし、種族に合わない職業を選んでしまうとこの先一生苦労することになる。
夢か安定か。
ネタかガチか。
自営業か公務員か。
ロトシックスかスクラッチか。
決して相入れない二項対立の狭間を俺は彷徨う。
悩む。
悩む。
悩む。
この結論の出ない思考の渦の中で永久に溺れていたい。
いかん。俺は何を言っているんだ。
Google先生にもまだ職業の「 」の情報は上がっていない。ということはフライングゲット組も殆どの奴がこの「 」に気づいていないだろう。
つまりこれはチャンスじゃないだろうか。比較的廃人が多い先発組の中で、レア職業が出れば、他の廃人たちと大きく差をつけるチャンスに繋がる。
たとえレア職業でなくてもオリジリナリティーを出せるだろう。
そうこれはチャンス。
紛うことなきチャンス。
千載一遇のチャンス。
ここで掴みにいかなくていつ掴みにいくのか。
やはり行くしかない。
俺は覚悟を決めて選択ボタンに手を伸ばした。
ざわ...ざわ...
アナウンスが脳内に流れる。
ーー「 」ですね。少々お待ちください。......あなたの職業は「パントマイマー」に決定致しました。
ん?パンと...マイまー?
何それ?美味しいの?