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彼方からの呼び声  作者: ごおるど
第二章
22/26

15 座学試験

 



 実技試験に引き続き、座学試験を受けることなった。

 特殊な魔道具を使うとかで、準備をしてもらっている間に、もう一つ聞きたかった事を聞いてみた。


「試験に時間が取られる割に私ばかりかかりきりになっていますけど、大丈夫なんですか?」

 実技試験は当然個人の能力を見るために一対一であるだろうけど、座学の方はカンニングができるような試験内容なのかはともかく、大勢で受けてもよさそうなものだと思ったのだ。


「学校を卒業して、一定の職業に就けなかった子がここに来ることは多いんだけど、今はその時期じゃないから比較的暇なんだよ。特に今は月の変わり目に近いから、優遇措置を受けるなら月初に来るしね」

 優遇措置というのは税金の事なのかと思ったら、そうではなく最低限仕事をこなす量……加点に関してだった。


 組合員は税金が依頼の報酬の中に含まれているために、ひと月に(こな)す最低限の仕事量が階級によって定められているが、登録したばかりの新人は、登録した最初の月は点数を稼がずともいいらしい。仕事を受ける準備期間ととらえられているためで、要は最低限の仕事を最長二か月かけて達成すればよしとされている。

 これは登録した日によっての不公平感をなくすための措置の為、受付職員も急がなければなるべく月の頭に登録を勧めるようにしているそうだ。

 ティアの場合は、切羽詰まった理由があったので省いたと言う事なのだろう。

 因みに「お金があるから税金を払う」と言った場合、他の国ならともかく、職業がないというのはこの国では許されないため、一か月の猶予期間の間に既定の点数を上げないと完全に組合から除籍されるようだ。ただ、無理に背伸びをしないで真面目に依頼をこなしていれば、十分に可能な程度に抑えられている。

 金や白の階級になると逆に人数が少なくなる為、点数に足りない分、税金は納めなければならないが「規定点数が足りないから除籍」という軛から完全に外れる優遇措置が受けられる。


「白の階級の人は全部で何人いるんですか?」

「今は、ちょうど十人だね」

 傭兵組合はこの国以外にもあると聞いたので、おそらくは全国に散らばっているのだろう。ここは治安がいいというのだったら、白の階級が一か所にとどまっていられるほどの仕事があるわけではないだろう。


「この国には何人いるんですか?」

 ダークエルフの青年は、笑って首を振った。


「明かせない決まりなんだよ。白がどこに何人って言っちゃうと、抑止力なしとみて馬鹿やらかすのが居るからね」

「あー、そういうものなんですね」

 国の治安維持の一角にまで織り込まれているとなると、上位になると色々特典も付くけど、制約も多そうだ。金の階級は数百人。移動の制限は掛らないが、どこに行くかの届けが必須となるらしい。

 階級を上げる気はなかったが、上げすぎる事は禁物だなと思っていると、説明をしてくれている青年がこちらをじっと見ていた。


「白の階級に会ってみたいって言わないんだね」

「ああ、別に会いたいとは思わないですね」

 そこまで強く、組織の中からも信頼を得たような人は、長命種が多いだろう。余計なことを知っている可能性があるので、はっきり言って会いたくない。避けられるものなら避けたいと思って聞いたのだから。


「ティアちゃんだっけ。君はつくづく面白いね」

「そうですか?」

「受付担当やって長いけど、会ってみたいって言わなかった人、初めてだよ」

「へー」

 有名人に会ってみたいという心理は分かるが、それよりも保身が第一、それだけだ。

 一人で軍隊と戦えるという白の階級は、人というより一個の兵器のよう感じられた。かつての自分を彷彿させるものとは、なるべくかかわり合いたくない。


「俺はゼインノール。消化しきれない依頼を片付けるのに駆り出される時もあるから、ずっと受付にいる訳じゃないけど、よかったら声をかけてよ。なるべく便宜を図るようにしてあげるから」

 実際には成人しているが、病気に苦しんでいる子供をかわいそうに思って同情してくれているのだろう。……良く思えばそういうことだが、先程から少々肩を持たれすぎて何か裏があるような気がしないでもない。

 だが、ダークエルフは腹黒いものと決まっているかと、ティアはあっさり片付けた。腹に一物あるだろうが、それはそれとして向こうからすり寄ってくるものを、一方的に排除するのはやめよう、という判断だ。


 レイランドは合格だったことが本当に面白くなかったようで、ふてくされたように後ろに控えているが、それすらも飴と鞭──騎士団側を悪者にすることで、組合側を信用させる手立てかもしれないのだから。

 まあ、実は根回しがうまく行っていなかったとか、融通を効かせるように強要しすぎたせいでここぞというところでそっぽ向かれたのかもしれないが、どちらでも構わない。二つの組織にそれなりの繋がりがあると分かった以上、必要以上信頼は出来ないという事だ。


「どうもありがとう。どういう依頼が良いのか、相談させてもらう事があるかもしれないです」

 言っただけのことはしてもらおうと、にっこり笑った。



 ブラッドボアの牙の名称がそのまま通用したので、千年経っても名前は変わっていないのだろうと予測はつけていたが、一応試験の前に教本を少し見せてもらってから座学試験に挑んだ。


 結果はあっさり合格。ごく一般的な動植物の名前、薬草の種類によって薬効のある部分の指摘や採取方法の確認、動物の気性や性質、有名な魔物の名称を答えて、簡単な加算演算を答えただけだったのだが、学校を卒業してきてもこれに落ちる者が毎回半分くらいいるのだそうだ。

「腕っぷしに自信があるのはいいんだけどね。種族別に有利不利は多少あれども初心者は初心者で、概して無理な依頼に飛びついて達成が出来ない事が多いんだよ。それくらいなら、ここで容赦なく落としておいた方が本人の為だから」


 常時依頼の薬草の確保も、王都の外に出るので完全に安全という訳でもない。それが油断して魔獣に襲われて怪我をした挙句に、持って来た薬草は間違いでただの雑草だったというのでは完全に赤字だ。一日にいくら稼げば宿代と食事代が出せるのか?という計算が出来なくて、どうしようもなくなる者もいるそうで……それは確かに馬鹿すぎる。


「今度は実際にできるかどうかを確認する総合実施試験を受けてもらうけど、試験内容や随行人を出す都合上、受験者が最低三人以上必要なんだ」

 つまり、受験者が少なくて試験ができないと言う事だ。


「先に試験内容と受ける時に必要なものを教えるので、準備しておくこと。試験が実施される時に連絡を入れるけど、それまでは仮登録扱いだね」

 依頼を受けることもできるが、組合が指定したものに限るそうだ。あくまで仮なので、ここで失敗したり、怪我をされたら困ると言う事なのだろう。当然、討伐系の依頼は不可となる。


 試験内容は、街の外に生えている薬草の採取とその薬草を餌にする魔獣の討伐。距離的に、野宿することになるそうだ。採取、連携しての討伐、討伐した獣の始末の仕方、野宿に対する備え等を見るらしい。

 何が必要なのかを自分で考えて用意することがまず第一段階で、野宿用の天幕は安いものではないので組合側の随行員が持って行って貸してくれるが、その他水や食料は自分で準備する。

 従属獣は、本人の装備とか武器と同じ扱いなので戦いに投入してもかまわないが、連携がないと減点対象となるようだ。


「一緒に受験する人たちの食料のことは考えなくていいの?」

「その辺を含めて試験だから。随行員の食料に関しては考えなくていい。途中で随行員が手を出して来たり、帰還を命令されたら素直に従う事。随行員が試験官だから」

「お兄さんが随行してくれるの?」

「いや、後ろの人だよ」

 レイランドがひらひらと手を振った。


 そうか、ここでごり押しが生きてくるのか。

 ティアはため息を隠せなかった。






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