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彼方からの呼び声  作者: ごおるど
第二章
13/26

6 騎士団の事情

しばらく間があいてしまい、すみません。






 不法滞在者に対する新規法が公布されたのはつい最近のことだが、この法律が制定されるにあたり、いくつかの前段階あった。


 根幹を成すのは、王都に根付いた犯罪組織の一掃。つまりは治安の向上。

 犯罪を取り締まるのは当然のことながら、罪を犯させない生活を目指さないとだめだと言った宰相ディクトールの指示で法規制定されたのが、子供の教育の義務化だ。平民の子供はもちろん、街頭に住む……そこにしか住めない子供達に居場所を与え、学を与え、最終的には独り立ちできるだけの糧を得られるようにすれば、自ずと犯罪に手を染めるような輩は減るだろう、と大上段で曰ったのだ。


「戦の後、孤児になっちまったちび共に瓦礫の片づけを手伝わせたが、飯が食えるってだけで十分うれしそうだったぜ。飯が食えて寝床が暖かければなんとかなるもんさ」


 長命種ならではの途轍もなく気長かつ金の掛かる話しではあったが、孤児院はあったものの、そこが人身売買の規制されている七歳未満の子供が、養子という名目で取引されていたことが発覚したのも後押しになり、さらにはいつの間にやら捻出された予算に誰も文句が言うことができず、立法されたのがおよそ三百年前のこと。


 更に丁度いいから奴隷制度も廃止してしまえと、罪を犯して身分を落とされた犯罪奴隷以外の身分を開放、全てを平民に戻した。

 基本的に奴隷は主人が手放さない限り、死ぬまで奴隷だ。奴隷の間に生まれた子供も、生まれた時から主人の物となる。子供の奴隷の売買が禁止されていると言っても、最初から持ち主が決まっている場合は別だ。扱いを決めるのは主人の胸先ひとつ。どんなことをされても文句を言うことはできないし、奴隷が逃げれば待つのは死だけだったのが、奴隷制度の撤廃により、劇的に改善されることになる。

 奴隷が居なくなったことで空いた穴を、平民に戻った元奴隷達が改めて雇用されて埋める。対等とまでは行かずとも、主人が嫌ならばやめることができる権利を貰った彼らは、さらに俸給を貰えるなんて望外の喜びだと口にした。


 奴隷解放に関しては貴族および商人の抵抗が相当激しかったが、強硬反対派の筆頭のとある貴族の性癖が大々的に暴露され……同性の子供を愛でる性癖の持ち主だった……同じ趣味(・・)だと思われたくない者達は、今後の社交界での己の立場を確保するために手のひらを返した。



 そうして満を持したように不法滞在者に対する新規法が公布されたのは、つい最近のことだ。

 建国祭、それも千年の節目の年ともなれば、例年以上に外から大量の人間が流入してくるのが分かっていたので、祭りの前までにある程度厳しく取り締まり、犯罪率を抑えようという目的があった為だった。


 犯罪者はもちろん以前からの取り締まりに含まれていたが、ここ近年の懸念は一家で王都に来て、そのまま子供を捨てて行くという事例が相次いでいること、祭りの時はそれが顕著になることが予想されていた為、余計に対応を急いでいたのである。

 グランフィリア王都に暮らす子供は、孤児であってもなくても大切に庇護される。それが広く伝わってから、国内外を問わず、流入が増えた。

 捨てていく子供を思っての親心は半分、残り半分は公然と子供を売買することができなくなった者達が、新たな仕入れ先と売り先探しての結果だった。

 

 犯罪奴隷の扱いはそのまま。七歳未満の子供の奴隷取引はできないが、逆をいえば罪を犯した七歳以上の子供なら奴隷にできる。

 それに目をつけた犯罪組織が、子供の親に幾ばくかの金を渡して子供を預かり、罪を犯させるということが頻発した。数は相当減っていたが、犯罪奴隷を扱う奴隷商人に情報を流して金を稼ぎ、奴隷商人は商売柄、どんな罪を犯せばどうやって捌かれるかを熟知しているため、おおよその商品(・・)が入ってくる時期を予測できる。更に金を積めば、他の奴隷商人に情報を流さないでいてくれる。となれば、自然と癒着の構造が出来上がり、取り締まる側としては大きな問題となっていた。


 水際で止めるのがまず一番。それゆえの新規法であった。


 新規法が制定される以前は、産業や観光を活発化させるためもあり、入都税も安くそこまで厳格に調べることはなかったが、今後の入国検査は当然厳しくなる。

 その分人手が足りなくなるのが見越されていたものの、準備期間が少なくて、新たに衛士を雇い入れる時間的余裕がない。教育させる時間も足りない。



 間に合わせに騎士団員が派遣されることが決まったとき、アークトゥルスはこれは反発が大きいだろうなと思った。上からの命令には逆らえない。戦時中は簡易砦を築く為に土木工事まで訓練されてはいるが、これは違う。

 騎士の中に、なぜ自分達が下っ端がやる仕事をしなければならないのか、と不満に思う者がいるだろう。仕事にあたる前に、全員に気を引き締めるように騎士団長として注意したが、それでも朝から晩まで一つところにじっと動かないで、流れ作業的に入都受付の仕事をしていると、気が緩むのが避けられなかった。


 緩く撓んだ空気があたりを満たしていたそんなある日、父親と子供の二人連れが王都の門をくぐった。

 グランフィリアの近郊の町からやって来たという親子は、不法滞在者に対する新規法が設立されたことを知らず、身分証明書を持っていなかったため、二人分の入都税が払えずに困っていた。病気の母親の薬を買いに来たが、税金を払ってしまうと薬代に足りない。

 子供を受付で預かってくれないだろうか、その間に薬を買ってくるからと父親が平身低頭で頼んだために、同情した受付担当が父親だけを通して、子供を預かった。

 宿に泊まる金もありませんから、夕方までには戻りますと言っていた父親は、しかし日が暮れても戻らなかったのである。


「木っ端仕事と馬鹿にしていた騎士達が、甘い対応をしていたせいで、また一つ仕事を増やした」


 真摯に仕事に当たっていた衛士達は、ここぞとばかりに噂を広めて溜飲を下げた。が、面白くないのは当然騎士達である。失敗したのは確かに自分達だ。それは仕方がない。けれど、そもそもこれは自分達の仕事ではない。

 そんな思いが、殆どの騎士達の頭の中に巣食っていた。





 (くだん)の少女が入都受付にやってきたのは、親子連れがやって来た翌々日で、昼を過ぎて日没の受付終了まではまだ間があるときだった。


 対応を碌に勉強させる時間もなく、仕事に当たらせたのも良くなかったのだと今にして思う。

 アークトゥルスが気がついた時には、爆発的に膨れ上がった魔力に、全身が総毛立っていた。

 魔法攻撃ではない、ただの魔力の奔流。ただし、まともな相手ではあるはずがない。こんな場所ではついぞお目にかかったことのない、特級魔獣に相対したような重圧を感じ取って、咄嗟に剣を握ったアークトゥルスは、待機していた部屋を飛び出した。

 

 駆けつけた自分が見たのは、一人の少女……幼女にも見える年頃の子供が、怒りを押し殺しながら一人の騎士を睨みつけており、その騎士といえば辛うじて抜刀はしていないが、完全に腰が引けて足が震えている光景だった。

 周りにも入都希望者や受付担当の騎士いたが、似たり寄ったりの有様で、震えているだけで誰一人として動かない。声も出せない。

 少女の肩に留まった鳥……おそらくは従属獣だけが威嚇するように羽を逆立てて「ヂッ!ヂッ!」と鳴いている。


 エルフである自分には「あいつ、わるいやつ、やっつける?」と言っているのが分かって、恐らくは騎士の方が何かをやったとあたりをつけた。


「なにがあった?」

 アークトゥルスがそう騎士に声を掛けると、異様に黒い双眸がこちらに向けられる。自分が上役なのだと分かったのだろう、魔力が急速に小さく押さえられた。

「そなたがこやつの上官かえ?」

「そうです」

 はっきり事情がわかるまでは、騎士を庇う気も相手をことさらに持ち上げることもしない。そんな態度が分かったのか、少女はようやく動き出した対応していた騎士……コネで入団したと騒がれている新人の獣人の方を横目で見る。


「わらわはそやつに(まいない)を要求された。記入していた用紙を不当に取り上げられ、もう一枚欲しければ金貨一枚を寄越せ、とな」

「そ、そいつが用紙にデタラメな文字を記入したから、追い返そうと……」

 愚かなことを。アークトゥルスは目で黙らせる。

 例え本当にでたらめを記入したからとしても、金銭を要求するなど、騎士のすることではない。態度が怪しい相手を検めるには、他にいくらでもやり様があったろうに。


「記入用紙は何処にある」

 少女が目線で指し示したそこには、くしゃくしゃに丸められた紙くずがあった。

「わらわがやったわけではない。そこな獣人が、取り上げたと同時に丸めてわらわの顔にぶつけたのじゃ」

 拾い上げて広げると、見慣れない文字が途中まで記入されていた。ちゃんと読める。氏名欄にはティアとあった。

「これは古語……古代イルカンシュ語だ。三百年ほど前までの公用語で、学校で習ったはずだが、お前はこれが読めなかったんだな?」

「え?そのカクカクが?」

 新人騎士の呆然とした呟きが、酷く間抜けに響く。


「申し訳ない、担当の者が無知ゆえに無礼を働いたようで、お詫びする」

 一礼するアークトゥルスに、返事をしないで少女が訊いてきた。

「先ほどから気になっておったのじゃが……その制服。おぬし等は騎士かえ?」


 まさか違うだろうといいたげな口調に、さすがに二の句が継げなかった。




 


 


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