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彼方からの呼び声  作者: ごおるど
第二章
11/26

4 戦がもたらしたもの

 活動報告にも書いておきましたが、肺炎になって休んでいました。

 完全に治っていませんが、とりあえず書けた分だけ投稿します。今後もそんなに早く書けないと思いますが、気長に待っていただけるとありがたいです。


 皆さん、単なる風邪だからって甘く見ちゃいけません。私は甘く見ていました(笑)

 

 インフルエンザで亡くなる方は年間およそ三千人、肺炎で亡くなる方はその十倍だそうですよ。がっつりお医者さんに怒られました。

 

 


 「ティア」と考えておいた呼び名を口にした時、なんとも寂しい思いが胸を()ぎった。

「篠原雫」は真名なので、もう使えない。伴侶ができた時交換するのが慣わしだが、そんなものする気はない…… というか、そこまで気を許せる者が出来るとは到底思えない。

 自分を唯一現わしていた、もう誰にも呼ばれなくなってしまった名前。


 思えばあの事故以来、怒涛のように流されて、世界の果て──実際には異世界まで来てしまった。心を落ち着ける暇も、自分を省みる余裕も、これからの境遇をゆっくり考える時間もなかったが、もう自分の名を呼んでくれる人はいないと思ったら、どうしようもない寂寥感で胸が痛くなったのだ。


 魔法も争いも無い世界。宗教や民族のしがらみのない国。両親や友人に囲まれて、平凡に生きたい。


 願いが叶えられた十六年の間、本当に自分は幸せだった。

 そして、帰れない、もう二度と逢えないのが、こんなにも悲しい。


『あるじ?』

 きゅる、という鳴き声と一緒に、問うような青の声が聞こえて、初めて自分が涙を流していたことに気付いた。

『め、みず』

 青が心配したように、すりすりと体をなすりつけてきた。体温の高いふわふわとした羽毛の感触が心地よくて、そっと翼を撫でる。大丈夫だよというように。

「住んでいたところを思い出しちゃっただけ。青もいてくれるし、平気」

 思ったよりもすぐに浮上出来たのは、精神を安定させる魔法が聞いているせいなのか。がしがしと目をこすると、下手な慰めなど口にしなかった商人の気遣いがありがたく、頭を下げて話題を変えた。

「えーと、王都まで後どれくらいなんでしょうか?」

 馬車は小高い丘の斜面を上り始めたところで、まだ街らしきものは見えない。

「ここを越えるともう街が見えるよ。……ほら、見えてきた」

 指が示すほうに視線をやると、最初に城の一番高い尖塔が見えた。


 馬車が進み斜面を登るにつれて、グランフィリアの全体像が見えてきた。

 街の中心にある城は、いわゆる世界遺産的な建築物のような城だった。一番高い尖塔は城の中央部分にあるが、その他にもいくつかの塔が見える。

 城の周囲には城郭があり、その周りは堀ではなく湖で、湖の周りに放射線状に道が広がっている。

 綺麗な網の目状の道が遠目にも美しく、街が作られた時から計画的に発展してきたことが伺えた。

 湖は街からの排水の役目を担っているのか、流れ込む水はないが、ゆるく傾斜した先に海に向かって伸びる河がある。河に沿って這う道をたどると、河口に帆船が何隻か浮かぶ港が見えた。


「うわー、やっぱり大きな街ですね。それにすごくきれい」

「そうだろう?だけど戦場の後始末に困って、今の形になるまで相当大変だったみたいだよ」

 それも学校で教えられた建国の歴史らしく、商人は詳しく教えてくれた。


 人族が支配する国と、亜人と総称される人族以外が支配する国、各々の連合軍の最終決戦の地が現在のグランフィリア王都である、この場所だった。

 「無名王(むみょうおう)」と呼ばれる生死不明のグランフィリアの王──当時は一介の魔導師が放った魔法で人族の連合軍の戦列は崩れ、戦争は亜人側が勝利したが、王が放った魔法の威力は凄まじく、王は行方不明になり、爆心地には大地にも空間にも巨大な穴が穿たれた。

 とにかく早急に塞がなければならなかったが、時空魔法を操れる者に限らず、魔導師と名のつく者はほぼ戦死か行方不明、命に関わる怪我を負っているのいずれかに該当し、引き裂かれた空間を塞ぐほど能力のある者はいない。仕方なしに、とりあえず物理的に質量のあるものを据えておいたのだという。

「大地の穴は水が流れ込んで湖になった。空間の穴は最初は巨大な岩石で塞いでいたけど実質は開いたままだから、それだけだと不安定になるらしくて。岩石に安定化のための術式を色々組み込んでいるうちに、いっそのこと住んでしまえって宰相様がおっしゃって、城の形に整えられたって話だよ。近くに行くと分かるけど、あの城は湖の真中にあるんじゃなくて、湖の上に浮かんでるんだよ。どういう理屈かわからないけど、空中にある穴にお城半分を突っ込んであるから、厳密に言うと浮いてるんじゃなくて引っ掛けてあるだけなんだってさ」

「へー、あのお城が蓋の役割をしてるんだ」

 商人はおそらく知らないだろうが、空間に穴が開いたと一口に言っても、ポーチに使用されている魔法と属性が同じなだけで、実は純然たる違いがある。

 世界を卵に例えると、ポーチは卵の殻と薄皮の間に穴を開閉する魔法がかかっているが、ポーチに入れた品物は薄皮越しとはいえ、世界の内側にある。時空属性にありながらさほど難しくない魔法なのは、薄皮が文字通り薄く、切りやすくて伸縮性があり、元に戻る性質があるからだ。

 対して空間に穴が開いた場合、卵の殻そのものに穴が開いてしまっているので、その強度と硬度のために元に戻り難い。殻の外側は世界の(ことわり)の範疇の外、大地の穴はまだしも、空間に開いた穴は放置しておくと世界そのものが瓦解する恐れがある。

 卵の殻に穴が開いてしまったので、手近にあったティッシュを突っ込んでみました的な話から察するに、時空魔法が廃れているのは事実のようだ。

 巨大な岩石と商人は口にしたが、そんな巨大な岩は自然にあるものではないから、魔法で精製したものだろう。単なる岩の塊だと穴から噴き出す異界の気に耐えられないので、素材そのものも普通の砂礫であるはずもない。巨石を造るだけでも莫大な魔力を消費したろう。そこから更に形状を城に変化させるとなれば言わずもがなだ。

 さらに穴から漏れる気は命を削るので、流入を防ぐために密閉措置を施し、穴の境目に無理がかかる構造と思われるので、外圧に耐えられる強度を保ち、城として当然の機能……防衛の備えを施す。

 すこし考えただけでも途方もない。安定化させるのにどれだけの魔法が使われたのだろう。

 開いてしまったのなら閉めればいいだけなのに、そんな面倒くさいことをしたのかというのが正直なところなのだが、時空魔法は適性がなければ使えないのも事実なので、戦後処理を担当した者達も必死だったのだろうと思うに留めた。

 段々と近くなる城をじっと見つめると、確かに半分くらいが陽炎のように揺らいでいる。空間の向こう側に張り出してバランスを取っているようだった。

「街の前に城ができちゃったから、複数の国を一つにまとめてここを首都にしようってことになって、人が来る前に入れ物……道や外壁だとかを整備したんだって」

「なるほど、人がいないうちに街を作れたから、こんなに整っているんですね」

 碁盤の目ではなくて網の目状だが、京都みたいだと雫は思った。

 それにしても、戦争しておいて人間と亜人の融和ができたというのは凄い。大戦があったから戦を忌避するのは分かるのだが、そんなに簡単に昨日の敵は今日の友なんてことができたのだろうか。特に戦勝国が戦敗国を蹂躙しないで、対等の関係になったなんて。

 国家間ならまだしも、差別のあった人種間での融和政策は相当難しかったのではないだろうか。

 千年と一口に言っても、やはり遠い昔のことなのだなとつくづく感じた。





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