夕暮れ
初めまして、あざかです。これから4649(宜しく)お願いします。
空は晴れていた。
オレンジ色の夕日が地平線から少しだけ、まだ顔を覗かせている。
私は川原の土手に座り、本を取り出す。今日は川端康成の『伊豆の踊子』。あたりには誰もおらず、パラパラとめくる音だけが心地よく耳に響く。
いつまでそうしていただろう。不意に視界が暗くなった。
「よぉ、宇佐美」
黒瀬君だった。
「何してんの?」
「……読書」
「それは分かる。オレが言いたいのはそうじゃなくて何でココで読んでるのかってこと」
…さて、どう答えたらいいものか。
私がこの場所を気に入っている理由は、ここに来ると懐かしい気持ちになるから。だけど、それを黒瀬君は理解してくれるのだろうか?
「………日、」
「ん?」
「夕日が綺麗だから」
とりあえず、初対面(?)であるわけだから本当のことは黙っておいた。からかわれたりしたら嫌だし。
「ああ、確かに」
黒瀬君もなんか納得してくれたし…
胸がチクリと痛んだような気がしたけど、あえて知らないふりをした。
「おい、宇佐美、見て見ろよ」
はっとして顔をあげると黒瀬君と目が合った。
「夕日が綺麗だぜ」
夕日が地平線に沈みそうだった。
それはとても神秘的だった。世界がオレンジ色一色に染まる。
「オレ、夕日は沈むところが一番好きだよ。なんかさ、昼と夜との間の時間ではざまみたいじゃん。はざまには神様が住んでいるって婆が言ってた。神様がいるところだから、夕日はこんなに綺麗なんだ。まぁ、神様なんていいトシした高校生が言う言葉じゃないだろうけど」
そう言ってニッと笑う笑顔には屈託がなかった。
……
何故だろう?
夕日はもう沈んでしまったのに、私の心の中はオレンジ色をしたままだった。
―――――15歳、ある日の夕暮れ。