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まけんな勇者  作者: roon
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5. 実は同い年

 そこは、思った以上に暑苦しかった。


「(強い人が多いとは聞いたけど・・・)」


 あまり広くはない建物の中に結構な人数が集まっている時点で暑いのに、その一人ひとりが屈強な体つきをしていたり、頑丈な鎧に身を包んでいたりとかなり暑苦しい。


「(これが冒険者組合かぁ・・・)」

「・・・・・・・・・・・暑い」


 隣でポツリと呟いたディルアドラスに、ラールは同意を込めて苦笑した。


「ちょっと辛抱してね」

「ん」


 ラールは軽く内部を見渡し、受付と思われる場所に向かった。ディルアドラスも後に続く。


「あら? 坊やみたいな子がここに来るのは珍しいわね。依頼かしら?」


 受付の反対側からひょっこりと顔だけ出したラールを見て、受付に座っていた女性が微笑ましそうな目を向けた。


「いえ、組合に登録したいんですが」

「そっか。付き添いなのね」


 背後のディルアドラスを見てウンウンと頷く女性に、ラールは困ったような笑みを向けた。


「付き添いではなくて、僕も登録したいんです」

「えぇ!?」


 目を丸くする女性に、ラールの顔が引きつった。


「年齢関係なく登録できると聞いているんですが・・・」

「出来るけど、本気? 坊やじゃ殆ど仕事できないと思うわよ」

「一人でするわけではないから、大丈夫です」


 そう言ってチラリとディルアドラスを見る。それに釣られて女性もディルアドラスに視線を向けた。


「そうね・・・連れの人強そうだし、一緒ならこなせる依頼もあるかも。でも、無理しちゃダメよ」

「・・・・・・はい」


 眉を顰めつつ頷いたラールの頭を軽く撫で、女性は立ち上がると奥へと入っていった。

 それと同時に、ラールの頭の上に何かが乗った。


「・・・・・・何?」


 ディルアドラスの手が自分の頭の上に乗せられている。上目遣いにジロリと睨むが、気にした様子も無くディルアドラスはラールの頭を撫でた。


「・・・子ども扱いしないでくれる? ディアさんとそんなに歳変わらないんだから」


 小さな声でぼそりと抗議するラールに、ディルアドラスは小首を傾げた。


「気持ち良いからやっているだけだ」

「・・・あっそ」


 どうやら、頭の触り心地がお気に召したらしい。ラールはムッとした表情を隠さず、ディルアドラスから目を逸らした。丁度女性が紙を何枚か持って戻ってくる所だった。


「お待たせ。登録には一人銀貨1枚かかるんだけど、大丈夫?」

「お金がかかるんですか?」


 ラールは目を瞬かせた。宿代1日分と大体同額なので出せない額ではないが、お金がかかることを知らなかったため、少し驚きだ。


「ええ。登録を解除すれば戻ってくるけどね。組合に来る依頼は危険を伴うものも多いから、組合に登録している人からお金を預かって、それを仕事中に怪我した人や装備を新調したい人に貸しているの」

「皆で助け合う体制が整っているんですね」

「そういうことよ。坊や、若いのに賢いのね」

「(また子ども扱い・・・)」


 ラールは苦笑した。


「で、出せるのかしら?」

「あ、はい。二人分お願いします」


 ラールは銀貨2枚を女性に渡した。


「確かに預かったわ。じゃあ、この紙に記入して頂戴。書けるところだけでいいわ」


 そう言って女性はディルアドラスに紙を1枚渡し、もう1枚を自分の前に置いてラールに向き合った。


「坊やは私が書くわね。それじゃあ、お名前は?」

「・・・・・自分で書きます」


 溜息をつきつつ、ラールは紙を自分の側へと引き寄せた。サラサラと書き込んでいく様子に、女性は目を丸くする。


「坊や、字が書けるの!?」

「ええ、まあ」

「若いのにすごいわ! 大人の人でも書けない人がいるのに」


 この時代、識字率は3割に満たない。字が書ければ仕事はごまんとあるのだ。但し長期に渡っての仕事が殆どだが。


「字も綺麗だし、これなら、臨時の代筆の仕事に入れるわね。見つけたらとっておくわ」

「ありがとうございます。・・・あの」

「何?」

「良かったら、ディアさんの代筆、お願いできますか?」


 ラールの背後では、ディルアドラスが紙を穴が開くほど真剣に眺めていた。


「彼は字が書けないの・・・あなたたちって不思議ね」


 呆れ混じりに息をつき、女性はディルアドラスを手招いた。ラールは自分の用紙を埋めつつ、二人の会話に耳を傾けた。


「じゃあ、質問に答えてね。お名前は?」

「ディルアドラス」

「――― はい。性別は? まあ見て分か」

「ない」

「え?」

「俺はけ」

「だめだよディアさん、真面目に答えないと」


 ディルアドラスが言い終える前に、ラールはディルアドラスのマントを引っ張った。バランスを崩し、よろめくディルアドラスとそれを呆然と眺める女性の間に割って入る。


「ごめんなさい。ディアさん、時々真顔で冗談言うものだから」


 少しばかり引きつった笑顔で女性に謝りつつ、ラールはディルアドラスに念話を飛ばした。本体が同じ場所にあるため、念話を使った意思疎通は普通に会話するのと同じくらいたやすい。


『本当のこと言わないの!』

『嘘はつかないほうが良いんだろう?』

『嘘も方便ってことわざがあってね・・・後で説明してあげるから、暫く黙ってて!』

『・・・・・・』


 体勢を整え、後ろで静止しているディルアドラスをチラリと見遣り、ラールは女性に向き直った。


「丁度自分の分書き終えたので、僕が代筆して良いですか? その方が早そうですし」

「え、ええ」


 面食らう女性からディルアドラスの用紙を受け取り、多少の嘘を交えつつ埋めていく。その様子を眺め、女性は呆れたように息をついた。


「彼、見た目は真面目そうなのに変わってるのね」

「良い人ではあるんですけどね」

「・・・・・・」


 抗議の目を向けてくるディルアドラスに、ラールは気づかない振りをした。

読んでくださり、ありがとうございます。

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