3. 常識、非常識
「さて、そろそろ今後のことも決めないとね」
泊まった部屋に運び入れてもらった朝食を摂りつつ、ラールはディルアドラスに相談を持ちかけた。
「・・・・・・・好きにしろ」
「希望ないの?」
「お前に付き合う」
「・・・・・・」
食事をムグムグしながら返答するディルアドラスに、ラールはジト目を向けた。
「ディアさんって自我薄いよね」
「剣だからな」
「そういう問題?」
ディルアドラスはコクリと頭を縦に振る。ラールは天井を仰いだ。
「・・・ま、いっか。とりあえず今いる場所の確認ね」
ラールは空いているほうの手を軽く挙げた。同時に部屋の壁に地図が映し出される。
「今いるのが、レットアンデ大陸のリーデオって国らしい。僕たちが出てきた場所がここだから、多分旧リアンデル国なんじゃないかな」
指で現在地と魔王の拠点があった場所を示しつつ、情報の更新をしていく。約5000年振りであるため、ラールの知識にある国の殆どが戦争、天災等で無くなっている。特にレットアンデ大陸には魔王の拠点が存在しているため、他所の大陸よりも国の増減が激しい。
「あの人に会いたくないなら、この大陸からは出たほうがいいと思うんだ。今は良いけど、ずっといると会う可能性高いし」
「お前は陛下が苦手だからな」
「・・・あの変態、得意な人いるの?」
「私は気にならない」
「・・・・・・あっそ」
言われてみれば、ディルアドラスは魔王にちょっかいを出されることはなかったように思う。ことあるごとに良く分からないことで同意を求められてはいたが。
「ともかく、僕としてはあんまり会いたくないから他の大陸に渡りたいな。でも、今のままだと情報も足りないし、資金も乏しい」
「金なんて要るのか」
「要るよ。食事とか宿泊は何とかなるけど、船に乗ったりするのには要るからね」
本体が魔剣なだけあって、二人とも飲食や睡眠は必要ない。だからと言って食べれないわけではないので、久々の人里デビューも兼ねて昨日は宿を取ったのである。旅に出るにあたって、持って来たのは足のつきそうにない小指の先程度の砂金だけだったため、そこまで贅沢が出来るわけではない。あと10日今の宿に泊まれる位はあるものの、他の大陸に渡るだけの費用はなかった。
「別に魔術で行けるだろう?」
「・・・できないことはないけど」
現在の外見からは想像できないが、ラールは元世界最強の魔術師である。オリジナルの魔術も持っているし、空を飛ぶ魔術位は難しくない。
「でも、それだけの距離を跳ぼうとすると何日もかかるし、その間ずっと集中して魔術使うのはきついかな。それに、魔剣が海の上をふよふよ浮いて移動してるの、怪しいでしょ?」
真っ黒な刀身をした魔剣が魔力を纏いながら海原を音も立てずに移動していく姿が容易に想像でき、ラールは米神に手を当てた。新手の魔物と勘違いされそうである。
「・・・・・・・見たい」
どうやらディルアドラスは興味を持ったらしい。外面は無表情なものの、ワクワクしているのがはっきりと伝わってくる。
「・・・・・・分かった。いずれはやってあげる。でも今回は船ね」
「ん」
聞き分けのいいディルアドラスに内心ほっとして、ラールは話を進めた。
「当面は船に乗るお金を稼ぎつつ、今の情勢についての知識を得ることが大事かな。幸い、言葉は変わってないみたいだし」
少なくとも、リーデオ国の言語は故リアンデル国で使われていたリゼル語であるため、ラールにも読み書きできた。
「分かった」
「ディアさんも、読み書き覚えようね」
「ん」
コクリと頷くディルアドラスに軽く息をつき、ラールは器に残ったスープを飲み干した。
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