1. 彼のモノの場合
ライトなものを書きたくて、気分転換も兼ねて投稿しました。
軽い気持ちで読んでいただけると嬉しいです。
レットアンデ大陸に存在する、中堅国と称されるリーデオ国。その都市の1つであるケランには日々多くの旅人が訪れる。
その旅人の中に、異様に人目を惹く二人連れの姿が見られた。一人はまだ幼さを残した少年で、キラキラという形容詞が似合いそうな目をして人々の往来を眺めている。もう一人は長身の青年で、ぼんやりと気だるそうに傍らの少年を見下ろしている。これで二人が似通っていれば、兄弟だと思い誰も気にしなかっただろうが、二人の容姿は明らかに異なっていた。
少年の方はもう少しで地面に着きそうなくらい長い真っ直ぐな白髪をしており、一見してか弱そうである。女性らしい装いをすれば、勘違いする者もでそうなくらい、中性的な相貌をしていた。青年の方は癖のある黒髪を背中まで伸ばし、騎士に間違えられそうな風情である。やる気のなさそうな姿とは裏腹に、隙の一切見えない所作は歴戦の戦士を思わせる。
別々に行動していればそれ程人目を惹くことはないだろうが、一緒にいるからこそどこかの貴族とその護衛かなどと邪推され、注目度が上がっているのである。
が、二人はその視線に全く気づいていなかった。
「(な、懐かしいなぁっ・・・!)」
目頭が熱くなってくるのを感じ、少年は軽く俯いて両手で眼を擦った。と、頭の上に何かが置かれる感触に、軽く顔を上げる。青年がじぃっと少年を見下ろしていた。
「ディアさん・・・」
「・・・・・・・・」
無言でぽんぽんと頭を叩く青年-ディルアドラス-に少年は目尻に涙を浮かべたままニッコリと笑った。
「行こうか」
「・・・」
相変わらず無言だが、特に文句もないディルアドラスの手をとり、少年は都市の中へと入っていった。
ディルアドラスは人ではない。それどころか生き物ですらない。彼はモノである。
魔王に作られた、多くの者の血を吸った魔剣。それが彼の正体であった。
本来なら、人の姿を取れるはずのない彼がこうして実体化できているのには、ちょっとした理由がある。
その理由は、彼の向かいで半泣きで食事をしている少年であった。
「(・・・これが、陛下に匹敵する魔術師とは誰も想像できんな)」
もちろん、実際に少年と魔王の戦いの場に彼もいたため、実力は分かっている。当時は少年の姿はこんなに幼いものではなく、ディルアドラスより少し幼い程度の青年の姿をしていたため、今よりはもう少し凛々しかった。しかしそれを考慮に入れても、目の前の少年は感情表現豊かで冷静沈着な者が多い魔術師にはとても見えない。 ぼんやりと少年を眺めていると、何の変哲もない丸パンを味わうように噛み締めていた少年の顔が彼に向けられた。
「ディアさん、食べないの?」
「・・・・・・・・もらう」
少年の指摘に溜息をつきながら、ディルアドラスは食事を始めた。目の前に用意されているのは素朴な味付けのスープと丸パンだけである。ディルアドラスは知らなかったが、これはかなり簡素な食事に入る。しかし、初めての「物を食べる」という行動に、ディルアドラスの心は少し躍った。
「・・・・・・・・ふむ」
初めて食べた食事は、何故か美味しいと感じられた。少年が美味しそうに食べていることから、自分も同じ感覚を共有しているのだと改めて実感させられる。
「美味いな」
「そう思う? やっぱり味覚も似るんだね」
どうやら同じことを考えていたらしく、楽しそうに笑う少年に、ディルアドラスも口元に笑みを浮かべた。
魔王の気まぐれも、なかなかに楽しい。
5000年来の相棒の食事を眺め、ディルアドラスは自分の食事を再開した。
読んでくださり、ありがとうございます。