act3
翌朝。
小鳥のさえずりで目が覚めると綾花は既に朝食の準備をしていた。
「………手伝いが必要か?」
「大丈夫だよ。 とりあえず出来上がるまではシャワーでも浴びてたらどうかな?」
オレの質問にそう言われたので風呂場でシャワーを浴び、学校指定の黒色のブレザーに着替えた。
再びリビングに入る頃にはいい香りを漂わせるベーコンエッグ、サラダ、香ばしく焼けたトーストが既に机の上に置かれていた。
綾花と向かいの椅子に座り、会話も交えつつ朝食を楽しむ。
寮から学園までも会話を楽しみながら登校しようと思ったがどうした訳か綾花は時々しか口を開いてくれなかった。
八時を少し過ぎた頃に学園に着くなり、綾花と別れ、オレのみ職員室へ向かう。
2-B担任の尾代先生と合流し、朝のHRの時間に教室の前まで移動する。
先生が「今日は転校生を紹介する、オイ。 早く入って来い」とこちらに言う。
女教師の癖に言葉が荒い、等と考えながら教室のスライドドアを開けるとクラスの男女が一斉にこちらに注目していた。
「成瀬 統軌です。 これからよろしく」
それだけ言うと尾代先生は、
「それだけかよ、つまらないな。 まあいい、お前の席は窓際の空いている所だ。 分かったら早く座れ」
と言われたので空いている席に座る。すぐに少々適当なHRが終わり、オレの周りには人集りができた。
質問等が数多く飛んでくるが、それらを適当にあしらい綾花の方へ向かう。
「綾花、オレのことを運んでくれたヤツは誰なんだ?」
「統軌君の後ろにいる学ランを着てる子だよ、ほら」
綾花が指を差す方を見ると、そこには赤髪の少し背の高い男がいた。
「よっ、転校生君。 俺の名前は高原 優だ、よろしくな」
「昨日は助かった、礼を言うよ。 ありがとな」
………見てくれは不良の様だが、綾花とも良好な関係のようだし案外良いヤツなのか?
すぐにチャイムが鳴り、教室のスライドドアから先生(確か木山…だったか?)が入ってきて授業が始まった。
午前中の授業が終わり、昼は食堂ではなく屋上で綾花の手作り弁当を堪能し、教室に戻りクラスメイトと談笑したりして昼休みを終える。
五時間目の授業中、外を見てみると桜の花びらが飛んでいた。
その景色に見とれていると、突如花弁の動きが止まる。
気が付くと教室の中にいる先生・生徒は、全員石像みたいに固まっていた。
教室を舞う埃の一つも何もかもが止まっていた。
その光景に呆気に取られていると外からとんでもない音が聞こえてきた。
獣の唸りの様なその声は明らかに人間の物ではないと分かる。
オレは昨日寮に届けられた刀を腰に下げる(確か名前はムラマサだった)。 それとS&W M3566自動拳銃をホルスターに入れ、ベランダから地上へと飛び降りた。
声の発生源である校庭には、立方体型の物体が五体程フワフワと浮かんでいた。
何故オレはコイツらに対して窓から飛び降りてまで急ぐ必要があったのだろうか、そんな事を考えていると立方体の一体がオレに体当たりを仕掛けてきた。
突然の攻撃?に避けきれずそのキューブが腕にぶつかる。
少々痛かったが平気だと思い、体制を整えようとした時、横からもう一体の追撃が来た。
「ガハッ!」
見事に鳩尾に入ってよろけた所をすかさず他のキューブが襲い掛かってきた。
あっという間に三体に袋叩きにされる。オレはそれに対して蹲り、急所を守るしかなかった。
何も出来ない自分にはイライラするが、無理に暴れた所でこの状況から抜け出す良い方法も思い付かない。 ここは敵の動きの隙を見出ださなければ。
そう考えていると、突然横からの声。
「あの子たちはファントム。 名前はキュービーライトよ。 そして、貴方はマインドコネクター」
いつの間に。
隣に少女がいた。
周りからキュービーライトも離れている。 いや、今そんな事はどうでも良い。 少女の言った言葉が気になった。
ファントム。
そしてマインドコネクター。
「マインドコネクターは自身の心を纏い、自在に操る事が出来る人のことを言うの。 まずは、自分の本当の心を解放するイメージをして」
少女に言われた通りにイメージをする。
すると体の周りから、昨日の白昼夢に出て来た淡い光が再び現れたのだ。
「それから、胸の前に集めるイメージをして」
また言われるままにイメージをすると光が集まり、所謂六方晶型の結晶と化してきた。
もしかしてこれは夢で見たあの結晶か?
ならば、このまま砕いてもまた体の中に戻るだけだと思った。
「その結晶を砕く時、“マインド”と念じて。 そうすれば貴方は変われる………」
それだけ言うと、少女は何処かへと歩いて行ってしまった。
目の前にある結晶を静かに右手に収めると同時に強く握り締め、砕く。
その時発する言葉は、
「マインドッ!!」
砕け散った結晶はまた淡い光となり、身体全体を覆う様に広がる。
一瞬、突風が身を包んだと思うと。 自分で見えはしないが、ここには今さっき迄とは違う自分が立っていた。
頭に触れてみれば狼の様な耳。
体にはブレザーの代わりに金属の鱗で張られた鱗鎧。
手には鋭く銀色に光る爪があった。
ふと頭の中にはある名前が浮かんだ。
「これが、マインド………? 名前は...」
『「オルトロス」』
頭の中に響くオレの声がギリシャ神話に出てくる双頭の番犬の名を呟くと、キュービーライトと呼ばれた立方体が一斉にこちらへと向き直る。
オレは地面に落ちた刀を片手に、腰にM3566自動拳銃を入れたホルスターを着け、こう言い放つ。
「今さっきのヤツ、倍返しにしてやる...掛かって来いッ!!」
キュービーライトはその言葉に反応した様に唸り声を上げ此方へと飛び掛かり、リターン・マッチが幕を開けた………