三の二(彩野)
再編しました。
奏多に連絡をしてから纏に連絡をする。
地の利を生かして、情報収集したものを伝えるためだ。
明日は私が影で采配を握ることになるが彼が表向き采配を取ることとなる。
表裏の采配者が同じPTにいたほうがいいだろうと思うのは私の考えからだ。
だが電話は通話状態だ。ずっと。
着信履歴には残るだろうから、その間は深く潜って待っていることにする。
西の属性魔術師と違って東の属性魔術師の尤も有利だと思える点は、属性を介した情報収集能力だ。
地属性は地面、土、鉱物などを媒体にしてその魔力を流し込むことが出来る。そのため、それを実際に攻撃に使うことは出来ないが
それを介して遠く離れた場所の状態がどうなっているかを知ることが出来る。
この複雑な人間関係と属性関係が役に立つなんて思っても見なかった。
けれど、周囲に恵まれたおかげで、私はこの力を役に立てる術を知った。
知人が用意してくれた部屋に寝転ぶ。地面を下に下に持っていって土壌を感じたところで一息吐く。
明日行くところはどの方角だったか。
この部屋がどの方角を向いていたのか。面倒だと思ったから、四方八方に意識を伸ばした。
魔力が通じる範囲で、分かればいい。それだけの意味だったけれど、何とかたどり着いた。
「水…見える」
霜月は氷の遺跡。
大地の上に存在し、氷に囲まれた場所。
「入って・・・来る。 そう、おとなしく…」
脳裏に伝わってくるのは、霜月の状態。
大地を通して地理感覚を得ながら、氷つまり、水の加工物として捉えてしまえば、それがどのような状態で成立しているのかが
わかる。
学院の檻から出ることが出来ないのなら、詳細はこうして掴まねばなるまい。
頭に小さな疼痛を覚える。けれどここまで来て引き返したのでは、どちらも同じことにしかならないと見えている。
「既に…避難しているの。そう。なら…誰にも被害を負うことはないってことね…」
少し離れたところにあるテーブルの上で携帯電話がなった。
ゆっくりと起き上がり、留守番電話の応答になっていたそれを拾い上げ、耳へと当てる。
「纏。こっそりと来て貰えない?」
こっそりでなくとも、彼は入れる。
けれど、入る場所が場所だから、こっそりとする必要がある。
「分かった。無茶すると怒るからね」
気づかれているなとは、分かっていたが。私が消耗しきる前に彼は合鍵を使って学院の檻の中に入ってきた。
「良いタイミング。纏、手を」
簡単に脱出できないところに私の部屋は設けてある。契約魔術師でありながら、学院唯一の回復特化となれば仕方のない処置だろう。
だが、ここに二度と人を入れてはならない。そう思うからこそ、明日はなんとしてでも守らねばならない。
私の重たくなった腕を纏は取って目を瞑る。
「ああ、霜月にもう何もいないんだね…」
守っていたはずの魔物も何もかもがいない。隅から隅まで見渡したところで空気がゆれるということがない。
つまりそこに生物はいない。
そこに明日いくのだ。罠は生きているだろうが、生物がいないのであればもとより壊してしまっても問題は無いということだ。
砂漠のように、ひび割れた大地の紅月でも確かに遠くに有刺鉄線で隔たれた中位危険地域を見えるほかは確かに何もいなかった。
土岐が襲われていたのはそのラインぎりぎりのところだ。
纏には見えている。私が地面に含まれている水を媒体に辿っているところに、風を送って水と風から氷を作り門の中へと入る。
罠はそうやってすべて突破する。
「罠だけはきちんと生きてるんだね。で、生物は一切消えているからそれは現象か引越しかで済む話で…
割り当てとしては渚に罠が多いほうをやってもらうか。時間稼ぎしてもらって…この洞窟の奥はどうなってる?空洞?それとも・・・」
「霊場」
地面に這わせている水を汚れぬように風を纏って保護してくれている。
その分、少ない術力で広く探索できるから助かっている。最後のトラップを越える前に答えが分かった。
「霜月は大きな墓碑。体はそれぞれ墓石に封じられていても、心は魂はここに眠っている」
それを今回の現象は踏み潰してしまいそうだということだろうか。
「それなら、徹達に引きずられないような装備をするように伝えて、学生のほうはムリだろうな。神楽は少し触れたほうが良いかもしれない」
「潰してはだめ。恐らく東西も同じようになっているはず。南はただ単に魂を守る祠がなかったからじゃない?地の奥底には何かいたようだけど」
「詳細を見れる?」
最後の罠を突破する。
開けた場所があった。そしてそこは確かに、霊場だった。それ以外に言い表せないほどの。
足元に人の魂がいくつも光っている。これは潰してはいけない。
「人の死が回転していない?」
「一部機能していない。凍結で眠らされた場合。ここの人たちは地殻変動で巻き込まれた人もいるらしい」
まだ完全に地殻変動は西には来ていないはずだった。けれども、かつての名残があるということは、祠が危ないのか
「奥は見れる?」
「無理。撤退する。引き上げて」
纏が細部に染み渡っていた水を風でもって吸水するよう風の流れを変えた。
幾らか残るものはあっても氷が溶け出す前に無事接点を切り離すことが出来た。そのまま、寝転んでいたのを上半身を起こす。
視界がくらくらする。時間をかけすぎたのかもしれない。
「大丈夫か?」
纏が後ろから柔らかく包み込んでくれている。それだけで不快感は軽減されていく。
「一応…踏み込みすぎると、きついわ。渚は良いかもしれないけれど、私達はどちらかに引きずられる可能性が高い」
対火は大丈夫だろう。そうなると土岐と徹は安全で、逆に危ないのが私、纏、奏多、恐らく属性が同一の渚は多少魔力を吸われるか干渉を受けるくらい。樒がどうなるかが不明。
纏は勝手知ったる他人の家よろしく、部屋の奥から大きな模造紙を取り出してきた。
そこにペンをざさっと走らせる。彼の脳内にイメージとして焼きついた霜月の内部構造がはっきりしてきた。
そして罠の種類と数も。
「やはり図書館の情報では古すぎたか。内部が多少なりとも変化してる」
先ほど明日のメンバーへ送ったFAXと纏が感じたものは細部で異なってきている。
それを事前に知ることが出来てよかったと、深い安堵の息が漏れた。
「これは渚と徹に渡しておいて…後は、いらないかな」
「それは明日にするよ。調子に乗って深く潜り過ぎたようだ、顔色が真っ青。一晩泊まってついているからゆっくり休め。いいな?」