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源頼朝の母、配信はじめました。〜投げ銭より先に飯を食え〜

掲載日:2026/09/05

 初めて五千円の投げ銭が届いたとき、私は配信を止めかけた。


『給料日前だけど、御前の声で元気出た! 晩飯抜いて応援します!』


 光る文字の横で、小判の絵が跳ねている。

 私は菜箸を置いた。


「そなた、何を言うておる」


 画面の外で、妹の真帆が両手を合わせる。ありがとうって言って、と口だけ動かしている。


「気持ちはありがたい。しかし、飯を抜くな。いま米はあるか」


『パックごはんなら』


「卵は」


『あります』


「よし。ひとまず温めよ。私はここにおる」


『投げ銭したら炊き出し始まった』

『お礼ボイスじゃなくて兵糧確認』

『この人ほんとに頼朝の母なの?』


「母じゃが」


『息子が幕府開いた方の?』


「そちらは、私の死後に勝手に」


 真帆が椅子から落ちた。


     ◆


 私の今世の名前は、早瀬ゆら。二十五歳。名古屋市在住。

 スーパーの総菜売場で働いている。


 前世では源義朝の妻で、頼朝の母だった。

 いわゆる由良御前である。


 前世を思い出したのは、小学六年生の社会の授業だった。

 教科書に載っていた息子の名を見て、いきなり、着物の袖をつかむ小さな手を思い出した。


 先生は「鎌倉幕府」と言っていた。

 私は、あの子は魚の骨を取るのが下手だった、と考えていた。


 その日は給食を残した。


 あとから、息子の生涯を調べた。

 伊豆。挙兵。鎌倉。弟との争い。

 知っている地名の間に、知らない息子がいた。


 私は平治の乱よりも前に死んだ。

 寝所で聞いた子供の声より先のことは、一つとして知らなかった。


 図書館から借りた本は、一度に読み切れなかった。

 返却期限を延ばしたのを覚えている。


 それから十年以上がたち、現代暮らしにも慣れた。スマートフォンは使えるし、電子レンジを陰陽術と思ったこともない。熱田神宮にお参りに行くと、少し実家に帰ったような気分になる程度だ。


 ただ、動揺すると昔の口調が出る。

 総菜の棚の前で「揚げたてじゃ」と言ってしまい、店長に妙な販売戦略だと思われている。


「それ、配信でやったら絶対おもしろいよ」


 そう言い出したのは、四つ下の妹、真帆だった。


 真帆は映像の編集会社を辞めたばかりで、夜ごと自分の貯金通帳を見ては、電卓を無言でたたいていた。私はその横で、売れ残りを買って帰ったコロッケを分けた。


「姉ちゃん、どの歴史ドラマにも文句言ってるじゃん」

「夫の美化が目に余る」

「ほら。その本人にしか言えないやつ」


 今世の家族に前世の話はしてある。

 母は「そうなの。じゃあ米といどいて」と言った。父は大河ドラマの質問をするようになった。真帆だけは、もっと変なものを拾った顔をした。


「『源頼朝の母が現代で生配信』。名前は、ゆら御前」

「私を見る人などおるか」

「やってみなきゃわからない」


 真帆はコロッケを半分、私の皿に戻した。


「私、編集は好きだったんだ。会社は無理だったけど」


 そこだけ、ふざけていなかった。


 私は自分のスマートフォンを手に取った。

 配信者の名前を登録する欄が出てきた。


 ゆら御前。


 前世の私がどんな声で笑ったか、本にはなかった。何を好きで、何を嫌いだったかも。

 長い長い息子の物語の脇に、母、という字で座っていた。


 登録ボタンを押すと、私の名前が画面に現れた。


     ◆


 初配信の視聴者は四人だった。

 一人は真帆。一人は母。一人は母と同じ部屋にいる父。


 残る一人の名前は、『たまご特売』。


『初見です。何の配信ですか?』


「晩飯を作る」


『普通だ』


「今日は小松菜が安かった」


『現代に適応してる』


 その日は、小松菜と厚揚げを煮た。

 真帆が借りてきた照明は眩しく、鍋の湯気でレンズが曇り、途中から私の顔が完全に見えなくなった。


『降霊中?』


「すでに済んでおる」


 翌日も『たまご特売』は来た。

 翌々日には、七人になった。


 歴史の質問も届いた。


『源義朝ってイケメンでしたか』


「顔はよかった」


『結婚したい』


「顔は、よかった」


『二回言った』

『やめとけってことか』


 知らないことは、知らないと言った。

 私が死んだあとの政治については、本を読む皆のほうが詳しかった。


 流鏑馬をやれと言われたときには、断った。


「武家に嫁いだ女が全員、馬上から的を射ると思うな。そなたの母は、そなたの父の仕事をすべてできるのか」


『うちの母、父の会社の経理やってる』


「それは、できる側の母じゃ」


 真帆はこのやり取りを短い動画にした。

 翌週、視聴者が百人を超えた。


 私は浮かれた。

 配信のために買った木の盆を、意味もなく三度拭いた。


 平安時代を舞台にした恋愛ゲームをやった晩には、さらに人が増えた。

 美しい男が画面いっぱいに現れて、『今宵は必ず、お前のもとへ』と言った。


「来ぬ」


『まだわからないでしょw』


「この言い方は来ぬ。先に寝よ」


 男は来なかった。


『経験者つよすぎる』

『攻略サイトより御前』


 私はその男の絵を指でたたいた。


「文だけ美しくても、腹は立つからな」


 真帆は声を殺して笑いながら、切り抜く場所に印をつけていた。


 五千円の投げ銭を叱ったのは、配信を始めて二か月目のことだ。

 パックごはんを温めた視聴者は、卵も食べたと報告してくれた。

 私はようやく礼を言えた。


 その日の動画に、真帆はこう題をつけた。


『源頼朝の母、五千円より卵を優先する』


 朝起きると、知らない人たちが、私の台詞を真似していた。


     ◆


 半年で登録者が五万人になった。


 配信の名前は『ゆら御前の夕餉どき』。

 火曜と金曜の夜七時から、料理、ゲーム、ときどき雑談。


 私は総菜売場の仕事を続け、真帆には収益から編集代を払った。明細を渡したら、真帆はしばらく数字を見つめていた。


「私の仕事で入ったお金だ」


「そうじゃ」


「姉ちゃんの妹代じゃなくて」


「妹に金を払うなら、ずいぶん滞納しておる」


 真帆はその晩、いいアイスを買って帰った。


 常連たちのことも、少しずつ覚えた。

 遅番の日にはアーカイブを見る人。料理のできない父親。試験の前だけ来なくなる学生。


 最古参の『たまご特売』は、いつも「今日はこれ作った」と短い報告をくれた。

 目玉焼きが焦げなくなり、みそ汁に具が二種類入り、とうとう休日に煮物を作った。


『来週、遅番になります。生では見られなくなります』


「勤めを果たして参れ。鍋は逃げぬ」


 そう言ったくせに、次の配信で、私は何度もコメント欄にその名前を探した。

 五万人もいるのに、一人が来ないのがわかった。


 そのころ、新人配信者の大会から招待が届いた。


 配信サイト『ヨナギ』主催。

 新人王決定戦、『天下取りライブ』。


 予選を勝ち抜いた四人が決勝に進み、二時間の特別配信で競う。

 順位は、一分ごとに数えた視聴者数の合計で決まる。大勢に長く見てもらうほど、有利になる仕組みだった。


 優勝者には賞金百万円と、半年間の公式番組。


 真帆は応募要項を、画面がすり減りそうなほど読み返した。

 私は公式番組の文字を見ていた。


 自分の名が番組表に載る。

 小さな「母」の字だけではなく。


「やろう」


 私が言うと、真帆の顔が明るくなった。


「母子二代で天下取り、いける?」


「息子にできて、母にできぬ道理があるか」


 言ってみると、ひどくよい響きだった。


     ◆


 決勝に残った。


 予選では、平安恋愛ゲームの男を全員ふって一位になった。

 真帆は「攻略の概念がおかしい」と言ったが、勝ちは勝ちである。


 私たちは、決勝用に新しいマイクを買った。

 鍋の中を映すカメラも買った。

 公式番組が始まったら使えるから、と、二人で何度も言い合った。


 決勝の相手には、『カジ丸』という若者がいた。

 ゲームがうまく、よく笑い、負けると誰より悔しがる。事前の合同配信では、私のマイクの音が割れているのを教えてくれた。


「御前、決勝は勝たせてもらいますよ」


「こちらも、そのつもりじゃ」


 画面の向こうの若者が笑った。

 私は笑い返しながら、彼の視聴者数を見ていた。


 決勝までの二週間、私たちは配信を増やした。

 真帆は昼から編集し、私が総菜売場から帰ると打ち合わせをした。夕飯は画面映りのよいものになった。冷めても、撮り直しがあるうちは食べられなかった。


「ここの間、もう少し短くできる?」

「うん」

「冒頭で落ちる人が多いから、最初に笑いどころを」

「うん」


 真帆の返事は、いつのまにか「うん」だけになっていた。


 ある晩、机の脇に置いたおにぎりに、朝になっても手がついていなかった。


「真帆。これ、食べてない」


「姉ちゃんだって昨日、お弁当半分残したじゃん」


 私は何か言おうとして、先に鳴ったスマートフォンを見た。

 決勝の告知動画が、これまでで一番伸びていた。


 真帆にも見せた。

 二人で喜んだ。


 おにぎりは、冷蔵庫に入れた。


     ◆


 決勝当日。


 私たちの企画は『前世に置いてきた夕餉を、今夜』だった。


 古い料理を再現するのではない。

 もしも私が、あの家族にもう一度飯を作れるなら、何を作るか。

 子供たちの思い出を話しながら、現代の食材で一膳を仕上げる。


 最後は、頼朝の話をして、炊き上がったごはんをよそう。

 真帆の進行表には、そこが赤い枠で囲まれていた。


 時間は午後六時から八時。

 始まると同時に、見たことのない数のコメントが流れ出した。


 魚を焼けば、『頼朝も食べた?』。

 みそを溶けば、『これは泣くやつ』。


 笑ってもらおうと話した子供の失敗に、泣き顔の印が並んだ。

 私は包丁を持ち直した。


 右上の順位は、一位と二位を行ったり来たりしていた。


『カジ丸のとこ、いま何人?』

『御前が上がった!』

『ここから一人も抜けるなよ!』


 私は三つ目のコメントを読み上げた。


「うむ。最後まで、ともに戦うてくれ」


 真帆が小さくガッツポーズをした。


 午後七時二十分。

 長く画面を見ていたせいか、目が乾いた。横を向くと、真帆がペットボトルの水を飲んでいた。その手が細く見えた。


 気づかないふりをして、私は息子の話を始めた。


「あの子は、人前ではよく背を伸ばしていてな。まだ小さいのに、皆が見ておると思うと――」


『でも頼朝って身内に冷たいじゃん。母親なら何とかしてよ』


 言葉が止まった。


 すぐに別のコメントが流れた。


『母は先に亡くなってるよ』

『設定にガチで突っ込むな』

『アンチ構うな、順位落ちる』


 知っていた。

 いつか、そう言われるのは知っていた。


 私は本を何冊も読んだ。違う見方も、時代が違うという説明も、覚えた。うまく話せば、いまの場を切り抜けることはできる気がした。


「私が知っているのは」


 けれど、出てきた言葉は別のものだった。


「私が知っているのは、私より先に眠くなる子じゃ」


 台所の換気扇が、ごうごうと鳴っていた。


「そのあと、あの子がしたことを、母だからというだけで、よいとは言えぬ。何を考えておったかも、本人に聞けん」


 私は指先についた水を、布巾で拭いた。


「私は、そこにおらなんだ」


 コメントの速さが、わずかに落ちた。

 真帆が、頼朝の話を終える予定の時刻を指した。


 私はうなずき、鍋の蓋に手をかけた。


 そのとき、見覚えのある名前が目に入った。


『たまご特売:休憩です。十五分だけ応援しに来ました』


 ああ、来てくれた。


 その下に、別の人が書いた。


『大接戦だよ。飯より御前、あと少し!』


『たまご特売:おにぎり後で食べます。画面つけて戻ります』


 おにぎり。


 私は横を見た。


 真帆の足元に、買い物袋があった。昼、配信前に食べようと買ってきたおにぎりが、透明な包みの中に二つ。

 私たちは昼も食べていなかった。


 カメラの前では、魚がきれいに焼けていた。

 みそ汁の湯気が、照明を受けて白く輝いていた。


 画面の中にだけ、立派な夕飯があった。


 私は進行表を見た。

 赤い枠に、『頼朝への言葉→配膳→感動の締め』と書いてある。


 真帆一人が考えたのではない。

 二人で考えた。


 私は前世の息子に飯を食わせる話をしながら、目の前の妹を空腹のまま働かせていた。


「真帆」


「あと三十分。大丈夫、いける」


 彼女の目が順位を追っていた。

 私も、まだ見たかった。


 百万円。公式番組。私の名前。

 冷蔵庫に入れたおにぎり。


 私はコンロの火を止めた。


「そなたは、何を食べたい」


 真帆がこちらを向いた。


「いま?」


「いま」


「……あったかいやつ」


 小さな声だった。


     ◆


 私はカメラを見た。


「これより、夕飯にする」


『きた!』

『頼朝御膳完成?』


「その前に。たまご特売どの。休憩なら、いま食べよ。仕事に戻るなら、配信は閉じてよい」


 今度は、コメントが止まらなかった。


『いや負けるぞ』

『視聴者帰したらポイント減る』

『公式番組どうするんだよ』


「欲しい」


 私は正直に言った。


「百万円も欲しい。マイクを新しくしたゆえ、かなり欲しい」


 真帆が、変な声で笑った。


「ゆえに、腹が減っておらず、用事もない者は残ってくれ。おもしろくするつもりはある」


 私は炊飯器を開けた。


「ただし、飯を抜いてまで見よとは、言えぬ。さっきの『最後まで戦え』は取り消す。すまん」


 茶碗を二つ出した。

 カメラに映らないほうの椅子を引き寄せる。


「真帆、食べてから、また手伝って」


 彼女はしばらく、マウスに手を置いたままだった。


「ほんとに、いまから逆転するところだったんだよ」


「うん」


「すごく考えたのに」


「うん。あの動画、私も好きじゃ」


 真帆は下を向き、それからヘッドホンを外した。


「私、大盛り」


 私は真帆の茶碗に、飯を足した。


『たまご特売:じゃあ食ってきます』


「うむ。よく噛め」


『子供迎えに行かなきゃだった。帰ってから続き見る』


「待たせるな。参れ」


『カジ丸にも挨拶してきていい?』


「そ、それは」


 真帆が、みそ汁を持ったまま私を見た。


「……よい。あの若者にも、飯は食うたかと聞いてくれ」


『今すごい葛藤したな』

『天下取りの欲がまだある』


「あるに決まっておろう」


 画面の右上で、順位が二位になった。

 私は痛むような思いでそれを見て、焼き魚の皿を真帆に渡した。


「骨に気をつけよ」


「二十一歳です」


「承知した」


 自分の箸を取ると、画面に新しいコメントが流れてきた。


『一緒に食べていい?』


「無論じゃ」


『今日カップ麺』

『おれ昼の残りのカレー』

『こっちは時差で朝ごはん』


 さっきまで順位の話ばかりだった画面に、他人の食卓がぽつぽつと現れた。

 豚汁。冷凍餃子。トースト。コンビニのおでん。


『御前、そのみそ汁、具は何?』


「小松菜と厚揚げ」


『初回と一緒じゃん』


「うむ。今日も安かった」


 真帆がとうとう、口を押さえて笑った。

 私はその顔を見てから、カメラへ向き直った。


「では、手を合わせて」


 いただきます、と言った。


 昔の息子が、向かいにいるわけではない。

 これで昔の何かが、やり直せるわけでもない。


 真帆が魚をほぐしていた。

 自分の茶碗から、湯気が上がっていた。


 私はその晩、初めて、自分がひどく腹をすかせていることに気がついた。


 最後の三十分は、食べながら話した。

 私が総菜売場で、コロッケの入った箱を「兵糧」と呼んでいること。真帆が編集会社を辞めた日に、アイスを二個食べたこと。今世の父が、私の配信に一度も投げ銭をせず、代わりに米を送ってくること。


『お父さん正しい』


「まことに」


 食べ終わるころ、別の配信画面を撮った短い映像が、運営から届いた。

 カジ丸がゲームの合間にバナナを食べていた。


『御前が飯食えってうるさいらしいんで!』


「素直でよろしい」


 こちらのコメント欄にも、笑う顔が並んだ。


     ◆


 新人王には、カジ丸がなった。

 私は二位だった。


 公式番組も、百万円も、手に入らなかった。

 カメラの支払いは残った。


 真帆は、配信が終わると泣いた。


「悔しい」


「私もじゃ」


「次は途中で方針変えないでね」


「約束する。先に飯の時間を入れよう」


 彼女はうなずいて、私の肩に額をつけた。

 私はその背中をたたいた。


 泣きやむまで待ってから、冷めたおにぎりを二人で冷凍した。


 翌日、私は総菜売場に立った。

 店長に「おしかったね」と言われた。


「次は優勝です」


 言ってから、真帆に叱られそうだと思った。


 大会のあと、登録者は増えた。

 しかし、全員が毎回来るわけではなかった。晩飯を食べに去る人も、別の配信に遊びに行く人もいる。

 私は見送る台詞だけ、ずいぶんうまくなった。


 カジ丸とは月に一度、ゲームをするようになった。

 私が負けると、彼は必ず「息子さんのほうが天下取りうまいっすね」と言う。

 私は毎回、本気で腹を立てる。


 八か月後、小さな調理器具の会社から、定期番組の依頼が来た。

 大会のあとも続けていた夕飯配信を、担当者が見ていたらしい。


 真帆は今度も契約書を何度も読み、私たちは番組の名前を相談した。


 打ち合わせで、担当者が言った。


「『源頼朝のお母さんの台所』という案もあるのですが」


 悪い名前ではなかった。

 目に留まる理由も、よくわかった。


「『ゆらの台所』にできませんか」


 私は言った。


「それでも来てくださる方が、いまはおりますので」


 隣で真帆が、私の好きな青色の表紙の企画書を開いた。


     ◆


 新番組の初回。

 画面に出た『ゆらの台所』という文字を、私は少し長く見ていた。


 調理台の下で、真帆が親指を立てる。

 私は同じしぐさを返した。


『たまご特売:今日は休みなので最初から。小松菜買ってあります』


「よし。今日は卵も使うぞ」


 いつもの名前の間に、初めての人がいた。


『初見です。この人、誰のお母さん?』


 私は袖をまくり、包丁を取った。


「頼朝の」


 それから、カメラを見て笑った。


「あと、ゆらという配信者じゃ。よろしくな」


 挨拶の文字がいくつも流れた。

 その中に、金色の小判が一枚跳ねた。


『カジ丸:番組開始おめでとうございます! 五千円!』


「飯は」


『食いました!!』


「よろしい。ありがとう」


 私はようやく、安心して投げ銭を受け取った。


 ――了――

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