第85話 さらばモリルト
あっという間にお刺身最終日…じゃなくて港町モリルトの滞在最終日になってしまった。
しかしこの数日の間に地元民に迷惑が掛からない程度に鮮魚を買い漁った、そりゃもうマジックバッグがあるアピールをしつつ鱗と内臓を取る下処理とか魚によっては3枚おろしをお願いした店主達の顔が引き攣るくらい連日。
昨日行った時に全ての店で明日帰ると言ったらホッとしていた様だった、今度はいつ来れるかわからなかったからとはいえ、申し訳ない…。
しかしお陰で暫くはお魚に困る事はないだろう、今日は少しまわり道をして塩も買い付けてから帰る。
「はぁ…、これで漸く魚三昧から解放されるな…。魚も美味ぇけどやっぱ肉の方がオレはいいぜ」
モリルトを出てため息と共にホセがボヤいた、こんな事を言っているが3日目から殆ど食事時は同行せずに肉料理を食べていた事を私は知っている。
寧ろ皆途中で飽きたのか私を1人にしない為に交代で魚料理に付き合ってくれていた、というのが現実だ。
何故1人にしない為かと言うと、1度昼間なら大丈夫だろうと1人で食堂に行った時、帰って来ない私をホセが探していたら漁の終わった漁師のお兄さんの膝の上でお酌をしている酔っ払いが発見されたらしい。
その日は凄く怒られた…、あんなに怒った皆を見たのは初めてで泣きながら震えて反省させられた、いや、反省した。
しかし言い訳させて欲しい、何と日本酒が見つかったのだ、刺身に合う酒を飲んでみるかと言われて匂いを嗅いだら日本酒。
王都で探そうと思ってたけど、忙しくてすっかり忘れていた物を偶然発見したら確認の為にも飲むのが当然というもの。
口当たりも良く、スッと入って鼻から抜ける香りが刺身とマリアージュ♡
…と、思って何杯か勧められるままに飲んだところまでは覚えている。
それからは1人の外出禁止になってしまった、しかしちゃんと日本酒は買い付けたので良しとしよう。
冒険者を引退したらモリルトに移住したいと密かに考えるくらい気に入ったので是非ともまた来たい。
「今日は来る時に泊まった村の宿? あそこの食事も美味しかったもんね、お昼は塩を作ってる集落になるかな?」
「ああ、しかし昼はどうかな? 集落に食堂は無いかもしれないぞ」
「塩作ってる集落だったらまた魚だろ? アイルが作った飯を久しぶりに食いてぇよ、コッテリ系のやつ」
「「「賛成!」」」
「えぇ~? まぁそう言ってくれるのは嬉しいけど…えへへ」
モリルトに居る間は1度もストレージにある私の料理は出していなかった、ウルスカ出発前に作った分は殆ど王都への移動中に食べてしまったので残り少ない、ガブリエルの屋敷に帰ったらまた厨房を借りて作り置きしなきゃ。
「コッテリなら角煮かなぁ、丼にしたいところだけどもうお米はおにぎりしか残って無いからなぁ…。半端に残ってる唐揚げも出して~、甘辛と塩っぱいおかずだからサラダはアッサリな大根サラダがいいかなぁ、それともコッテリ被せで刻んだ茹で卵とマヨネーズで和えた千切りキャベツ…」
「おい、アイルやめろ! すぐに食いたくなるだろうが!」
お昼に何を出すか考えてたら口からまた漏れていた様だ、朝食から2時間くらいしか経ってないのに既にホセのお腹は受け入れ可能らしい。
「そこまでよ、もう集落が見えたから塩の買い付けが終わってからね」
「チッ。アイル、さっき言ったの昼に全部出せよ」
「はぁい」
不機嫌になってしまったホセに肩を竦めて返事した、集落に到着して思った事は何だか活気が無い。
塩って需要があるから儲かってウハウハだと思ってたけど、どうやらそうでは無い様だ。
ここの塩はニガリが含まれている分苦味があるせいで質が悪いと買い叩かれているそうだ。
岩塩も国内で採れるので強くも出れなくて、その為女性は海女をしている人が多く、とはいっても自分達で食べる分しか獲って無いから現金収入は塩に頼っているらしい。
真冬の海に入る時は焚き火に2時間程当たって身体の芯まで温めてから潜るんだとか、旦那さんが塩を作っているという海女の女性が案内がてら色々教えてくれた。
なので詳しくは知らないけど、と前置きしてからニガリの分離方法を教えておいた、どのくらいの湿度や時間が必要かは自分達で試行錯誤してもらうしかないけど。
お陰ですんなり、しかもお安く塩を売って貰えた。
商人よりもちょっと高めに、だけど店で買うよりうんと安く買えたので満足。
集落を出て宿の村へ向かう途中でシートを広げて昼食を食べる事にした。
「1週間も経ってないけど、アイルのご飯が凄く久しぶりに感じるよ」
「そうだな、王都に来るまでは殆ど毎日食べていたから当たり前になっていたんだと気付かされたな」
「そうね、アイルのご飯食べるとホッとしちゃうわ、うふふ」
「そりゃあオレ達の好みに合わせて味の濃さとか変えてくれてるからだろ、な?」
「う、うん」
びっくりした、1番手伝ってくれてるとはいえホセがその事に気付いてくれてたなんて。
好きな味付けは皆の食べっぷりを見れば一目瞭然なので密かに調整していたのだ。
食事を済ませて宿泊する村に向かいながら、暫くは魚を出すのは止めてお肉三昧にしてあげようと心に決めた。




