第83話 港町へ行こう
夜会の翌日、無いとは思うけど事情聴取という理由で拘束されては堪らないと早朝から港町目指して出発した。
ラファエルも誘ったけど、ガブリエルの無言で訴える瞳に負けたらしく行かないとの事だった。
昨夜は帰ってすぐ今日の為に早く寝たのでゆっくり話すのは移動中の今である。
「へぇ~、じゃあアイルは王様ともお話したってワケ? 凄いじゃないの!」
「ん…、でもやっぱり気をつかうからもう会いたくないな」
「だよなぁ、オレも王族なんざ会いたかねぇな」
「その刺客の雇い主にアイルが目をつけられてなければ良いが…」
呑気な事を言っていたビビアナやホセと違い、リカルドは眉間にシワを寄せて真剣な顔をしている。
「別にアイルが標的だった訳じゃないし、王都に居なければ大丈夫なんじゃない? 王都に居る間に貴族からの依頼があってもアイルが頼んでくれた許可証があれば断れるんでしょ? だったら僕達がこれ以上関わる事も無いって!」
「だよね! そんな事より私は港町でどんな魚が食べられるかって事で頭がいっぱいなの! 寒いから鰤とか美味しいよね~、伊勢海老も身が引き締まって美味しいだろうし…何が獲れるのかなぁ…うふふふふ」
「お前…王族の暗殺未遂事件をそんな事って…」
ガクリと肩を落としたホセの頭が肩に乗せられた、耳が頬に当たって擽ったい。
だって今後の護衛は近衛騎士達がするんだろうし、もう関わる事も無いでしょ。
途中の村で1泊して翌日の昼頃、ホセがクンクンと空気の匂いを嗅いだ。
「ん、潮のニオイがするな、もうすぐ港町に着くんじゃねぇか?」
道がゆるやかな上り坂になっているせいでまだ町は見えないが、湿度なのか気温なのか私では潮のニオイはわからないけど風が変わったのはわかった。
坂を登りきると港町が一望でき、その向こうに太陽を反射しながら瑠璃色に輝く海が見えた。
「うわぁ…、海だ! 綺麗だね! おっ魚おっ魚~♪」
「ぶはっ、なんだそりゃ」
「嬉しくって歌いたくもなるよ、そういえばこっちに来てから歌なんて歌って無かったなぁ」
「ほぅ、アイルは歌が歌えるのか、凄いな」
「へ? 歌えるのが凄いの? 別に舞台に立てる程の歌じゃないからね?」
リカルドの言葉に首を傾げる、もしかしてプロレベルの歌唱力があるって思われてたらどうしよう。
「あはは、リカルドが言ってるのはそう言う意味じゃないよ。歌っていうのは吟遊詩人か貴族に専属で雇われている者くらいしか歌わないからね。僕達が知ってるのは精々子守唄くらいなんだ、覚える程吟遊詩人の歌を何回も聞く事は殆ど無いから歌自体を知らないんだよ」
「そっか、学校で音楽の授業受けたり、テレビもラジオとかそもそも生演奏以外に音楽を聞く道具自体無いのか…。ハッ、もしかして私吟遊詩人デビューできちゃう!?」
「あら、アイルったら楽器まで弾けるの? だったら酒場で一儲け出来るんじゃない? うふふ、そしたらお客として聞きに行くわよ?」
「あ~…、そっか、楽器が出来ないと吟遊詩人にはなれないかぁ…」
私に出来る楽器なんてリコーダーとか運指がめちゃくちゃなピアノくらいだもんね、吟遊詩人って弦楽器なイメージだし、耳コピで演奏も出来ないから無理だ。
カラオケの採点は大体90点代だったから結構歌には自信あったのにな、残念。
「あはは、流石のアイルも楽器は出来ないんだね。聞けなくてちょっと残念だよ」
「アカペラなら…音楽無しで歌うなら聞かせられるよ!」
そして息を吸い込み歌い始めた私は思い切り舌を噛んだ、馬上で歌うのは危険行為だった様だ。
口を押さえて涙目になる私をホセとエリアスが笑い、ビビアナとリカルドが心配してくれた。
「普通に話してたくせに何で歌った途端に舌噛んでんだよ、はははは! 睨むな睨むな、港町に着いてから改めて聞かせてくれよ」
「何笑ってんのよ、アイル大丈夫? 到着したらお昼だけど食事は出来そう?」
ビビアナがホセの後頭部をペシリと叩いて嗜める、私は心の友の称号をビビアナに送りたい。
ヒリヒリしている舌を動かすと微かに血の味がするけど大丈夫だろう。
「うん、大丈夫。でもお醤油がしみるかもしれないなぁ、お刺身は夕食まで我慢…だけどここに居られる時間は限られてるし早い時間の方が魚の鮮度が…」
ぶつぶつと真剣に悩み始めた私に皆は肩を竦めたが、それに気付かず港町に到着するまで真剣に悩み続けた。
港町は外壁では無くちょっと丈夫そうな柵で囲われていて、出入り口に衛兵らしき人が立っている。
「身分証を提示してくれ」
言われて私達は首から下げている冒険者証を見せた。
「ほぅ、Bランクの冒険者か! 港町モリルトへようこそ、宿は山側に集まってるからそこの角を左へ行けばすぐに見つかるぞ」
「ありがとう、行ってみる」
リカルドが代表してお礼を言い、言われた通り角を曲がって進んで行くと高級宿から素泊まりの宿まで10軒程並んでいた。
どうやら素泊まり宿は釣り人が自分で釣った魚を場所をレンタルして自分で捌いたり、持ち込みオッケーな食堂で捌いて貰う人に人気らしい。
「釣り竿持ってる泊まり客が多いね、僕達はどうする?」
「ちょっと良い宿! お風呂があるところが良い!! 食事はその都度食べるところを決めよう! 漁師の為の食堂が港にあるはずだから朝から新鮮な魚も食べられるよきっと!」
まだ少し痺れている舌の痛みも忘れて捲し立てる私の勢いに飲まれたのか、皆ちょっと引きながらも頷く。
部屋割りは男女で分けて2部屋にし、宿が決まったので早速美味しいお昼ご飯を求めて町へ繰り出した。




