第339話 店主バレリオ誕生!?
「ただいま~!」
「待ってたぜアイル! ラーメン用の麺買って来たんだろうな!?」
イカ料理のレクチャーも終わり、家に帰るとバレリオが出迎えてくれた。
開口1番に中華麺を要求するとは…、これはスープに期待が持てるというやつだね!
「愚問だよ、買い占める勢いで買って来たに決まってるじゃない! そっちこそスープは順調!?」
「ハッ、それこそ愚問だな、お前らがそろそろ帰って来ると思って作った最新作はガブリエルに食わせるからって頼んで一気に凍らせて貰って冷凍庫に寝かせてあるからいつでも食えるぜ!」
「え…? ガブリエルに頼んで?」
「ああ、お前あいつと仲が良いだろ? だからアイルに食わせる為にも保存したいからって頼んだら聞いてくれたんだ、なんか顔色悪くなってたから凍らせるの大変だったかもしれねぇし、アイルからもちゃんとお礼言ってやってくれよ?」
ニカッと笑うバレリオとは反対に、私は青褪めた。
「あ~あ、こりゃあバレたな。さぞかしショックだったんじゃねぇか?」
頭の後ろでホセが手を組んでニヤニヤと笑いながら言った。
「そうねぇ、あの時完成させたら1番に食べさせるって…まるでアイルが自分でスープの研究してるみたいな言い方をガブリエルにしていたものね。それが実はバレリオが完成させてたんだって知ったら騙されたと思ってショック受けたかもしれないわ」
ビビアナも頬に手を当て、ため息を吐きながら追い討ちを掛けて来た。
「だ、だけど元々のレシピ提供とか、最後に醤油で風味付けするのとかやってるから合作って言えるもん!」
詭弁だとわかっているが、建前だけでも整えないと悪女の烙印が押されてしまう。
「アイルは意外にも男心を弄ぶ悪女だったのか?」
「違う! 違うよおじいちゃん! 私悪女なんかじゃないもん!!」
揶揄う様なおじいちゃんの言葉を即座に否定していたら、バレリオが首を傾げた。
「アイル、その人はお前の爺さん…な訳ねぇよな? ホセの爺さんならわかるが…」
そう言ってバレリオは私とホセとおじいちゃんを見比べた。
「ああ、オレの身内だ、隠居して暇なんで遊びに来たのさ」
「へぇ、身内が見つかったのか、良かったな。俺は冒険者やってるバレリオだ、時々ここには飯を食いに来るからよろしくな」
「ブラウリオだ、ホセの母方の親族でな、ホセ達の旅の途中で偶然が重なって会えたのだ、よろしく」
ホセとビビアナが孤児院出身だという事はウルスカ出身の冒険者であればそれなりに知られている。
本来なら10歳から冒険者登録は可能だが、町中の雑用依頼を受けるには責任を取ってくれる後見人が必要だった。
成人であれば大きな被害を出した場合、本人が一定期間ギルドや国に最低限の生活保証付きで無料奉仕して損害金を補填できるが、未成年はそのシステムが使えないという法律がある。
それ故登録してすぐに森での討伐や採取系を受けていたビビアナとホセはそれなりに知られた存在だったのだ。
当然今の孤児達はホセとビビアナが後見人になっているので雑用依頼を受ける事が出来ているらしい。
実際孤児達は自分達が孤児院の評判を落とすと今後冒険者登録する子達が苦労するとわかっているので真面目に信用第一で頑張っている。
それもあったから孤児院で子供達から諭されちゃってたんだけどね。
バレリオはずっとウルスカを拠点にしているので当然ホセとビビアナの事も孤児院出身だと知っているという訳だ。
バレリオとおじいちゃんが握手を交わした後、私はバレリオに台所へと連行された。
台所には既に豚骨スープの香りが充満している。
「ギルドでちょうどリカルド達に会ってよぅ、今日帰って来たって言うじゃねぇか、だったらこれから夕飯作るのは疲れてるし大変だろうと思ってな。家から運んで来て凍ったスープを温めてたんだ、前にアイルが果物を入れる事もあるって言ってただろ? だから色々試してこの時期出回る林檎を入れてみたら大正解でよ! コッテリの中にも爽やかな風味が感じられてコレだって思ったんだよなぁ。もちろん骨の部位を変えたり混ぜたり煮込み時間を…」
「どれどれ…」
説明が止まらないバレリオを置いといて、少しだけ小皿に取り分けてスープの味見をした。
以前は醤油を入れないと物足りない感じがしたけど、今回はしっかりガツンと旨味が感じられる。
大蒜も効いてコッテリしてるのに、飲み干せそうな爽やかな感じがするのが林檎だろうか。
「凄い…! 凄いよバレリオ!! 今すぐにでもお店が開けるんじゃない!?」
「そ、そうか? いやぁ…、アイルが認めてくれるのは嬉しいけどよぅ、まだ冒険者を引退するには早ぇしなぁ」
「冬季限定…、そうだよ、冬季限定でお店をするのはどう!? 屋台とか! 雪や寒さで森に行くのは段々大変になって来るでしょ? その間仲間達とラーメン屋やればいいんじゃない!? 林檎を仕入れられる間だけって感じで」
「それは…悪くねぇな…」
「お店をするというのなら、私の豚肩ロースの塊肉で作るじっくり煮込んだ蕩ける染み染み焼豚を伝授してあげよう…。仲間の説得も手伝うよ?」
「乗った!」
こうして成立した私とバレリオの約束は、夕食で改良版豚骨ラーメンを食べた『希望』のメンバー+おじいちゃんにより開店に向けて加速するのであった。




