第337話 一部を知ってもそれは真実では無い
「お、居た。アイル、ちょっと来てくれ。マザー、ただいま」
「あら、ホセも来ていたのね、おかえりなさい」
孤児院側に移動しようとしたらホセが礼拝堂に顔を出し、マザーへの挨拶もそこそこに私を外に呼び出した。
外に出ると、呼ばれた理由がわかった、おじいちゃんの目が今まで泣いていたとすぐにわかる程赤く腫れていたのだ。
「『治癒』」
「ありがとうアイル、はは、情けないな」
「ううん、娘からしたら親を泣かせてしまって申し訳無いと思うけど、愛されていたのがわかって嬉しいものだよ」
「まるで…自分も経験あるみたいに言うのだな」
「私も父親を持つ娘だからね。………行こう、マザーが中で待ってるよ」
それだけ言うとおじいちゃんと腕を組んで中へと促した、詳しく話すと女神様の失態も話す事になっちゃうからね。
信仰の為にも余計な事は言わない方が良いだろう、それに話したら私も絶対泣いてしまう。
ホセが礼拝堂の扉を開けてくれたので後をついて行く、マザーはおじいちゃんを見ると、何度かホセと見比べて瞬きを繰り返した。
「ホセ、そちらは?」
「オレのじいさん」
「え!?」
「初めましてマザー殿、ホセ達から話を聞きました、我が娘ベアトリスを弔って下さった事、お礼を申し上げます。そして何よりホセをこんなに立派に育てて下さった事、感謝してもしきれません。これは些少ですがお納め下さい」
「え、あの、ホセの…!? あ、あ、ちょっと待って下さい…!」
おじいちゃんはそう言って戸惑うマザーに金貨の詰まった皮袋を手渡した。
大きさと重みで中身が金貨だとわかったのだろう、マザーは今まで見た事が無いくらい慌てている。
いつも泰然としているのでとても珍しい光景だ。
マザーには全て本当の事を話そうというのはホセとおじいちゃんが決めた事で、人格的にも話しても問題無いし、何より恩人には本当の事を話したいというおじいちゃんの希望だ。
そんな訳でおじいちゃんとマザーは2人で話してもらう事にして、私達3人は孤児院へお土産を渡しに行く事にした。
今から作っても夕食にはかなり早いけど、イカ料理をひと通り作って覚えてもらおう、レシピは他の材料でも応用出来るしね。
孤児院に行くと、冒険者登録出来ない年齢の子供達がワラワラと寄って来た。
「アイルだ!」
「ビビアナ姉ちゃん! いつ帰ってきたの!?」
「ホセ兄ちゃんもいる! おかえり!」
べ、べつに1人だけ呼び捨てにされたからって悔しくないもん…。
ここの子達は最初に歳が近いと思ってしまったせいか私の事をアイルと呼んでいる。
テディだけだよ、私の事をアイルさんって呼ぶの。
一瞬だけホセとビビアナの方に子供達が多く集まっていたけど、すぐに皆私のところに集まって来た。
知ってる、人気者なんじゃなくてストレージにお土産持ってるのが私だから寄って来てる事くらい。
実際子供達は期待した目で私を見ている、わかりやすいその態度に苦笑いするしかない。
「今回も食べ物だから厨房で出すよ、今日の料理のお手伝い当番は?」
「ハイハイ! わたし!」
元気良く手を挙げたのはビアンカだ、テディが大きくなった原因というか、初恋の相手だとホセが言っていた。
テディが好きになるだけあって面倒見が良くて明るい子だ、お土産を使った料理の時は味見として最初に食べられるのでとても張り切っている。
「アイル! 今回のお土産は何!? 美味しい!?」
まだ料理のお手伝いが出来ない小さい子がピョンピョン飛び跳ねながら聞いて来た。
「私が美味しくない物を持って来た時ある!? 今回も美味しいに決まってるでしょ! 今回は何と…海の魔物よ!」
「「「「海の魔物!?」」」」
男の子達の喰い付きがハンパない。
「大きな船も脚を絡めて海に沈めてしまう大きなイカの魔物よ、クラーケンっていう珍しくて凶悪な、ね」
「すっげぇ~! アイルが倒したのか!?」
「まぁね、他の人達が船の上に居る時に現れて、ビビアナ達が他のお客さんを避難させてくれたから魔法でズバズバっとね」
「「「「おお~!」」」」
子供達の純粋な尊敬の眼差しが心地良くて胸を張る私。
「そうそう、その後食材として魔物を回収してたせいで船に置いてかれて慌てて追いかけて来たんだったよなぁ? 護衛対象より食いモン優先したから説教もされたしよ」
ホセの発言のせいで尊敬の眼差しが一転、残念なモノを見る目に変わる。
「く…っ、だ、だけどそのお陰で皆も美味しい物が食べれるんだからね!」
開き直って胸を張ったが、残っている中でも年嵩の子達がヤレヤレと言わんばかりに首を振った。
「アイル…、仕事はキッチリしないと評価はして貰えないんだぜ? 冒険者登録してる兄ちゃん達はいつもそう言ってるからな」
「そうだぞ、そんな見た目でもアイルは大人なんだからしっかりしろよ」
そんな言葉と共に諭す様に肩に手を置かれた、ホセは背中を向けているがプルプルと震えているので笑っているのが丸わかりである。
ホセを睨んでいたら5歳に満たない年少組がわらわらと集まって来て私を見上げた。
「アイル、おなかすいた」
「おいしいの、ある?」
「アイルのお料理好き」
子供達の可愛さに胸を撃ち抜かれ、ズキューンとマグナムの発砲音が聞こえた気がした。
ちょうど3時になるところだし、小腹が減ってくるよね。
ビビアナに調理法教える為に作った分をおやつとして食べさせて良いかマザーに許可を取ってもらい、ビアンカを連れて張り切って厨房へ向かった。




