第288話 鎖蛇
船を降りて2日目、御者をしながら森を切り拓いて作られた街道を進んでいた。
陽射しは強めだけど、木々の間を秋の涼しい風が通り抜けて心地良い。
そう思っていたらいきなり御者席の小窓がパシンと音がする程勢いよく開けられた。
「アイル、血の匂いがする」
「わかった、『探索』……魔物と交戦中みたい。アルフレド、悪いけど少しの間手綱よろしく」
「はいっ」
ホセの言葉に探索魔法を使うと、小さな池の近くに3匹の蛇型の魔物に囲まれた獣人を感知した。
「先に行くね! 『身体強化』」
走る馬車から飛び降り、探索魔法を展開したままそちらへ向かう、段々と囲まれてる人の動きが鈍くなっていくのがわかる。
毒を持つ魔物かもしれない、あと1分程で到着するけどそれまで凌げるか怪しいな…。
ストレージから久々に魔銀の棒手裏剣を取り出し魔力を通し、蛇達の脳天目掛けて投げつける。
魔力操作のお陰で木にぶつかる事無く、倒れてしまった獣人に飛び掛かる直前に蛇達を地面に縫い付ける事に成功した。
探索魔法頼りに見えない場所へ投げたのは初めてだったけど、中々有用な攻撃方法かもしれない。
魔物達は暫くウネウネと身体をくねらせていたけど、私が到着する頃には殆ど動かなくなっていた。
倒れていたのはホセと良く似た感じだったので狼獣人かと思ったが、鑑定すると犬獣人だった。
囲んでいたのは鎖蛇という毒持ちで、どうやら噛まれた後も痛みに耐えながら戦って倒れてしまった様だ。
「『解毒』『治癒』」
毒にやられたショックなのか、目を覚ます気配は無い。
右手にサバイバルナイフの様な武器、左手には薬草が握られていた、どうやらこの池の周りに生えるこの薬草を採りに来ていた様だ。
とりあえずナイフを腰につけていた鞘に納め、鎖蛇と薬草はストレージに収納し、ついでに同じ薬草をいくつか採取しておいた。
それでも犬獣人はまだ目を覚まさない、見た目年齢的には私と同じ歳くらいかな?
仕方がないのでお姫様抱っこで馬車へと戻る事にすると、馬車に向かっていたらホセとエリアスがこっちへ向かって来ているところだった。
「アイル、その子どうしたの? ダメだよ、モフりたいからって誘拐しちゃ」
「してないよ!? 鎖蛇に噛まれてたみたいで解毒して治癒魔法も掛けたけど目が覚めないから連れて来ただけだからね!? 他にも魔物が出たら大変だから放置も出来ないでしょ!?」
「あはは、やだなぁ、冗談だって。………ムキになったら怪しまれるよ?」
「エリアスが変な事言うからじゃない。とりあえずアルフレドが次の村までもう少しって言ってたからそこまで連れて行こうよ」
真顔でエリアスが言うから本気で言ってるのかと思ったよ…、ニッコリ微笑むその顔に生臭い鎖蛇の死骸をぶつけてやりたい。
ホセも無表情になっちゃってるじゃない、いくら私がケモナーだからって誰彼かまわず撫で回すと思ったら大間違いなんだから。
そりゃちょっと、ほんのすこーしだけ助けたお礼に獣化して触らせてくれたりしないかなぁって思わなくもなかったけど。
「ふ、ふふふ、良かったねホセ、アイルに浮気されると思って心配だったでしょ」
「人聞きの悪い事言わないで!? ホセとはモフモフするだけの関係じゃないんだから他の獣人をモフったところで私達の関係は変わらないよ」
「どんな関係だっての(ボソッ)」
「へぇ~、アイルが他の獣人モフったらホセの機嫌が悪くなると思うのは僕だけかなぁ?」
エリアスはニヤつきながら既に機嫌が悪くなっているホセをチラリと見た。
「ほらぁ、エリアスが変な事言うからホセの機嫌が悪くなっちゃたじゃない」
「え~? 僕のせい?」
「《《僕》》のせいでしょ!」
「んぅ…」
歩きながらも私とエリアスが言い合っていると、抱きかかえている犬獣人が身動ぎした。
「気が付いた? 倒れる前の事覚えてる?」
「えっ!? わぁっ、誰だ!?」
「ちょ…、暴れないで!」
「うわぁっ」
目を開けたので声を掛けると腕の中で暴れ出し、腕からドスンと地面に落ちてしまった。
「おい、落ち着け」
「へ!?」
ホセがしゃがんで声を掛けると、犬獣人はぱちくりと目を瞬いた。
「お前鎖蛇にやられたのは覚えてるか? 噛まれてたらしいぞ」
「あっ、そういえば…って、薬草!!」
犬獣人は慌てて辺りを見回すが、私のストレージに入れてあるので当然ある訳が無い。
「母ちゃん…!」
思い詰めた様に呟いて立ち上がったが、毒で死にかけたせいかすぐに尻餅をついた。
「落ち着いて、薬草なら預かってるから。近くまで馬車で来てるから送ってくよ、家はどこ?」
「あ…、ありがとう…。家は2キロ先の村だ」
ストレージから薬草を取り出して差し出すと、両手で恭しく受け取って頭を下げると、顔を上げて私達を見回す。
「あの、あんた達が助けてくれたんだよな? 俺確か鎖蛇に噛まれて…凄く痛くて、段々動けなくなってもうダメだって思ったところから覚えてなくて…」
「正確にはこのアイル1人で君を助けたんだけどね」
エリアスが私を指差して言うと、犬獣人は信じられないという目で私を見た。
「トドメ刺されそうになった時にギリギリ助けられたんだ、本当に危なかったんだよ? とりあえず馬車まで戻ろう」
また抱き上げ様としたけど凄く嫌がったので、結局ホセが背負って馬車まで戻る事になった。
この様子じゃあモフらせて貰える可能性は低そうだと内心ガッカリしたが、狼獣人が犬獣人を背負ってる絵面に癒されたので良しとしよう。




