第255話 追跡者の正体
エンリケ加入の翌朝、私はベッドの上で胸元を飾るネックレスに触れた。
これは自分で着けたのでは無く、途中でホセに着けられたものだったりする。
「く…っ、歓迎会みたいなものなんだからちょっとくらい大目に見てくれても良いのに…!」
ちゃんと3杯までだったし、ほろ酔い程度だったのに、エンリケにお願いして覚えてない鱗を見せて貰って「逆鱗じゃないから触っていいよね」なんてちょっとふざけて指先で撫でたりしてたら酔っ払いのジャッジが下されたのだ。
いや~、しかし昨日のギルドも結構大騒ぎだったよね、他所から来た冒険者がいきなり加入したんだもん。
私の時みたいに喧嘩売る奴が居なきゃ良いけど…。
しかしそうはいかないのがお約束というものだろう、朝食後ギルドへ向かうとまずは恒例の聞こえる程度のヒソヒソ話。
内容は「どうやって取り入ったんだ」「嬢ちゃん人が良いから泣き落としで騙されてるんじゃないのか」「貴族からのゴリ押しか」「金でも積んだんじゃないのか」などなど…。
依頼掲示板の前で依頼を探してる私達の耳にしっかり入って来る。
「そういえば私の時も貴族に押し付けられた説出てたねぇ」
「今は許可証があるからゴリ押しはあり得ないって…知らないのかしら?」
「大体王家からの褒賞やら大氾濫の報酬やらで儲けたオレらが今更金で動くと思ってんのかねぇ」
「おっ、ホセ、ダジャレってやつかい? 『金で動くと思ってんの《《かね》》ぇ』って…ふぷっ」
「くだらねぇ事言ってんじゃねぇよ!」
「イタッ」
ホセがエリアスの頭に手刀を叩き込み、エリアスが頭を押さえている。
「あはは、積もうと思ったら積めるけどね? キラキラした物とか好きだから結構溜め込んでるんだよねぇ。だからたまに金貨や宝石を床に敷いてその上でゴロゴロしてる」
口には出さなかったけど、『希望』の全員が「やっぱりその辺はドラゴンの習性が…」と思っただろう。
ドラゴンが財宝溜め込んで守ってるのは有名だもんね。
「あんまり五月蝿い様なら訓練所で相手してやればいいさ。実力を知ったら全員黙るしかないだろうからな。すまんが今日も大蜘蛛になった…、他の依頼を取ろうとするとバネッサの殺気が飛んで来るんだよ…」
受付嬢が依頼札を配置してるから手を伸ばした場所でわかるんだろうなぁ。
この大蜘蛛の素材不足は多分私も関係してるから出来るだけ受けるのが筋ってものだろう。
絶対アレだよね、下着。
私が提案した(58話参照)伸縮性を利用した寄せて上げる機能のやつ、しかもある程度のサイズの変動にも対応出来るから何気にジワジワと口コミで広がったらしく、今では予約待ちなんだとか。
大蜘蛛が絶滅したのは女性の下着が原因でした、とかシャレにならないよ。
魔物だから絶滅する事は無いと思うけど。
そしてリカルドが受付に登録して今日も森へと向かう、後方には恐らく昨日と同じ追跡者が。
「ったく、鬱陶いな…。どうする? 話つけてくるか?」
門前広場まで来た時、ホセが後方をチラリと見て言った、悪い笑みを浮かべているところを見ると肉体言語で話し合うつもりの様だ。
冒険者達で門が混み合う時間の為、列の最後尾に並んだ瞬間、後方の気配が近付いて来た。
「あっ、あのっ、『希望』の皆さんですよね!? 私達ずっと前から憧れてて…握手して下さい!!」
「あ? ああ…」
現れたのは4人組の女の子達、20歳より下だろうか。
さっきまでピリついていたクセに、ホセは毒気を抜かれて呆然としつつ握手していた。
女の子達は順番に皆に握手してもらうとキャッキャとお礼を言って立ち去った、そう、《《私以外の全員と》》。
この持ち上げた右手をどうしてくれよう。
「なるほどねぇ、アイルを貶めたい子達かぁ…」
エリアスが良い笑顔を浮かべた。
「何で今頃!? 私が『希望』のメンバーだって認めないって事なの!? 新入りのエンリケとも握手したくせに!!」
プリプリと怒っていたら珍しくエリアスが頭を撫でて宥めてきた。
「さっきの子達は僕達がどうこうじゃなく、賢者という特別な立場のアイルに嫉妬してるんだよ。その内悪い噂とかバラ撒き始めるんじゃないかなぁ、……身の程を知れば良いのに、馬鹿だよねぇ」
「一見好意的に近付いて来る辺りタチが悪いわよね、ちゃんと敵意を持って近付いて来たら対処もしやすいのに」
「見た事無い奴らだったから他所から来た冒険者か新人かもしれないな」
「昨日も森で感じた気配と同じだから新人じゃねぇだろ、新人ならもっと浅い場所にしか入らねぇからな」
「どこの国にも居たけど、あの手合いは結構厄介なんだよね、しかも全員女って事を思い切り武器にするタイプに見えたよ。こっちに男4人、あっちも女の子4人、次に会ったら食事かお酒の誘いがあると思うよ? ビビアナが婚約してるのは周知の事実だからアイルを弾き出す目的で…ね」
「私を孤立させる為のハニートラップかぁ。馬鹿だよねぇ、こんなモテ男達に仕掛けても逆に遊ばれて終わりってわかんないんだね。まぁ、それも人生勉強ってやつか」
うんうんと1人で納得して頷いていると頭を掴まれた。
「オイ、ちょっと待て、何でオレ達が弄ぶ前提で話してるんだ?」
じわり、と頭を掴んでいる手の指先に力が籠る、コレは答えを間違うと痛い目を見るやつだ。
「え、え~と…、私の国には『据え膳食わぬは男の恥』という言葉があってぇ…、用意された物は《《食べる》》的な? あはは…」
「オレ達にも選ぶ権利はあるんだよ!」
「痛い痛い痛い!! ごめんなさい!!」
結局アイアンクローを食らってしまったが、すぐに順番が来たお陰で解放された。
これであの子達に手を出したら指差して笑ってやるんだからね!!




