第239話 エドガルドの戦略
「あれ…? ホセが居ない」
目を擦りながら起きると、昨夜モフり倒して寝落ちするまで一緒に居たホセが居なくなっていた。
しかし…、久々のもふもふタイムは至福のひと時だったなぁ、思い出しただけで手がワキワキと動いてしまう。
着替えて部屋を整えていると朝食の時間になり、呼ばれてビビアナ達と食堂へ向かった。
そして何故か機嫌の悪いガブリエル、何か私に言いたい事でもあるのかジッと見て来る、ここ数日放置してたからかな?
食堂で皆と挨拶を交わして席に着くと使用人達が給仕してくれ、次々に料理が運ばれて来る。
今朝は和食の様で味噌汁の香りが漂って来た、そして次に運ばれて来たのは…鶏の照り焼き…だと…!?
揚げ物は朝に出すには重いとは言ったが、照り焼きは確かに言わなかった、しかしちょっぴり重いんじゃないかな。
しかし他の皆は気にして無い様だ、恐らくソーセージやベーコンと同じ扱いなのだろう。
「今日のはアイルは手伝ってねぇんだろ? けどアイルが作ったやつと変わらねぇな、美味ぇ」
「さすがプロなだけあってすぐに覚えてくれたからね、道中で食べた殆どの物は作れる様になってるよ。だし巻き玉子やおひたしは賢者サブローが既に伝えてたから元々知ってたみたいだし」
「………やっぱり仲直りしたんだね」
「へ? 何が? 喧嘩なんてしてないよ?」
ホセと料理について話してただけなのに、ガブリエルがジトリとした目を向けて来た。
「昨夜遅くにホセがアイルの部屋から出て来るのを見たよ、最近何だか様子がおかしかったし、2人だけでお酒でも飲んで仲直りしてたんじゃないの? 私も誘ってくれたらいいのに…」
「何…!? 今日の為に計画していた事が仇になったか…!? あの酔って無防備になったアイルを独占していただなんて…クソッ、最近よそよそしくなっていたから油断していた…」
なにやら隣でエドがプルプルしながらブツブツ言っているは気にしたら負けだ。
「お酒は飲んで無いよ、頑張ったご褒美にホセがモフらせてくれただけだよ。私が寝たからホセが部屋に戻るところをガブリエルが見たんじゃない? プフッ、パンツ姿じゃなかった?」
「パンツ姿…!?」
昨夜のパンイチ獣化姿を思い出して思わず小さく吹き出し、エドがその言葉を聞いて殺気立つ。
「そんな訳ねぇだろ、お前が寝てからちゃんと夜着を着直したに決まってんだろうが。人型じゃないとドアも開けられねぇし」
「ふぅん…」
そんな遣り取りをしている私達を見てエリアスがニコニコしている、アレは心情的にニヤニヤと表現すべき笑顔なのだけれど。
きっと後でホセを揶揄おうとしているのだろう。
エリアスに気を取られていたら、不意に私の手にエドの手が重ねられた。
「アイル、昨夜はゆっくり休める様に部屋に行くのを我慢したというのに、君はホセと過ごしていたのかい?」
「へ!? あ、ま、まぁ、一応そういう事になるかな…?」
言い方!! ただモフってただけなのに、その言い方だと私が男をたらし込む悪女みたいなんだけど!?
「それじゃあ明日帰ってしまう事だし、今日は私にアイルの時間をくれないか? ちゃんとのんびり過ごせる様に昨日計画を立てたんだ」
「う、うん、わかった…」
懇願する様に言われて思わず了承すると、エリアスが呆れた様な眼差しを向けて来た。
だってわざわざ昨日からゆっくり出来る様に計画立ててくれてたって言われたら断れないよ!
[side エドガルド]
朝食の席でアイルが夜にホセと2人きりで過ごしたと聞いて動揺したが、どうやら毛並みを触っていただけの様で安心した。
それにしても獣化した姿を撫で回す事が褒美になるなんて…、そんなに獣人の毛並みが好きなのであれば私も獣人だったら良かった、そうであればアイルが自ら私の身体に触れてくれたのかと思うだけで身体が熱くなりそうだ。
狼や犬の獣人であれば少しくらい舐めてもアイルは気にしないだろう、ハッ、まさかホセはそれを狙って…!?
2人きりで居たというのにアイルは眠った様だし、無防備にも程があるだろう。
もちろん私と2人きりの時に無防備になってくれるのは歓迎だが。
とりあえず昨夜計画した作戦を実行しよう、罪悪感を煽る様な言い方をするとアイルは高確率で譲歩してくれる、例え自分に非がなくても。
それに加えて裏の無い善意にも弱いという事は一緒に過ごしてよくわかった、自分にとって必要でなくても自分の為に頑張ってくれたという気持ちに応えようとしてくれる。
ホセの事を利用して合わせ技で押せば……予想通りアイルは私と過ごしてくれる事になった。
エリアスは私がわざとアイルが頷く様な言い方をしていると気付いてはいたが何も言わなかった、実際のんびり過ごして貰う為の計画で悪意が無いとわかっているのだろう。
最近の私はアイルに夢中になるあまり余裕が無かったが、古巣に行った事により昔を思い出して少し冷静になって考える事が出来、《《昔の仕事》》と同じ様にターゲットの信頼を得る事から始める事にした。
何があってもアイルの不利益になる様な事はしないと完全に信用して貰えるまで従順な忠犬となろう、私が居ると快適だと、アイルから側に居て欲しいと言って貰える様に。
欲望は笑顔で隠し、今日1日を純粋に楽しんで過ごせる様に振舞わねば。
暗殺者時代はいつもやっていた事だから私にとっては簡単な事だ。




