第200話 【閑話】エドガルドの過去
本作をお読み頂きありがとうございます、200話に到達記念閑話となっております!
ちょっと暗めの話です、エドが組織に入った経緯。
子供の頃から1度見聞きしたものは殆ど忘れない、1番古い記憶は目線の高さから恐らく2、3歳。
酒で灼けた様なしゃがれた声の老人が私を指差して何かを側に居た男に言った、距離があったので何を言ったのかちゃんと聞こえなかったが、初めて得体の知れない怖さを感じた事を覚えいる。
「エド! エドガルドったら1人で行っちゃダメよ? 明日はあなたの誕生日だから今日の内に下拵えしておかないと、早くお買い物済ませてしまいましょ」
母親に抱き上げられてその2人は見えなくなったが、その晩は怖くて両親と一緒に寝ると駄々を捏ねた。
しかしそんな記憶はその晩から失う事になる、村が襲われて殺されてしまった両親と共に。
両親が殺された衝撃のせいか、次に意識がハッキリしたのはどこかの貧民街だった。
大人とはまだ呼べない子供達が入れ替わり立ち替わりでやって来ては私達の遊び相手をし、飢え死にそうになると食べ物を置いていった、その量はその場にいる子供全員が満腹になるには程遠く、強い者や素早い者でないと満足にありつけず死んでいった者も多い。
名前を忘れてしまった私は髪の色からシルバと呼ばれ、見目が良かった為実力のある年上の少女達に可愛がられ食料を分けて貰う事ができた。
しかし数年するとその少女達は大人に連れて行かれた、その頃には7歳くらいになっており同世代に比べて素早く動ける様にはなっていたが。
考えてみればあの食料をいつも真っ先に手に出来る者から大人に連れて行かれていたと後で気付いた。
そして私が10歳になる頃、毎年見掛ける大人がやって来て私と数人を貧民街から連れ出した。
そこには貧民街にいた者達が暮らしていた、2段ベッドが5つ置かれた10人部屋にその日から私も暮らし始める事になる。
最初は食料を持って来ていた年嵩の子供達との遊びの延長だった、それが次第にキツくなっていったが、成績が良ければ腹一杯食べられた。
彼らが遊んでくれていたのはこうした訓練の基礎を教える為だったのだろう。
そして食料となる生き物を殺して解体するのが仕事となり、命を奪う事に完全に躊躇いが無くなった頃大人の1人が下卑た笑みを浮かべながら言った。
「そろそろアッチの仕事も覚えて貰わないとな、特にお前は見た目が良いから忙しくなるぜ?」
その時は何の事か分からなかったがすぐにわからされた。
怖がらない様にか、恐らく軽い媚薬も使われていたと思う、大人の男を受けれる為の訓練が続いて心が壊れていくのを感じた。
「こんな目に遭って周りが憎いだろう? 殺してやりたいよな? だけど最初から殺そうとしてるのがわかったら逆にお前が殺されるだけだぞ? 感情をコントロールして相手を油断させるんだ」
最初は任務を失敗して使えなくなった奴らの始末で人の命を奪った、貧民街で人の死はすぐ隣にあった事だったし、言う事を聞けば空腹に泣く事も無い。
成長と共に何の疑問も抱かず人を殺せる様になっていた、精通を迎えると今度は女を悦ばせる技術と話術を学び、何人も暗殺した。
心が擦り切れ、感情らしい感情も無くしてはいたが、全て押し込んでにこやかに、穏やかな人物として振る舞う事など造作もない。
その頃唯一楽しいと思えたのがハニートラップの訓練を始めた子供達の相手だ、私の時は訓練より自分の欲を優先させる奴ばかりだったが、私はひたすら優しく気持ち良い思いをさせてやった。
まだ完全に擦れて無い子供達はそれだけで純粋に私を慕ってくれる様になったし、私も素直に子供達を可愛いと思えた。
私が相手をした子供達が成長した時、今度は教える立場になっても私がした様に優しく教えてやれるだろう。
そんな生活を15年程過ごし、名実共に殺し屋として組織のトップになった頃、ボスに紹介された。
その傍らには小汚いフードを被った爺が居て私を見るとニヤリといやらしく嗤った。
「ヒヒッ、あの時のガキか、ワシの鑑定通り一流になっただろう?」
そう言ってボスに目配せした、私はその酒で灼けた様なしゃがれた声を聞いた瞬間、それまで忘れていた幼い日に聞いた声を思い出した。
『あのガキは成長したらかなり使えるぞ、この村は使えそうなガキが多いな。今夜やるか、ヒヒッ』
『エド! エドガルドったら1人で行っちゃダメよ?』
特徴的な声が鍵となり、忘れていた記憶が蘇り、ずっと助けてくれたと思っていた組織が自分の両親どころか村ごと滅ぼし私達を集めたんだと気付いた。
頭が割れそうな程痛かったが平静を装いボスに挨拶をするとフードの爺を紹介された。
そのいつ死んでもおかしくない様な爺は魔導期の生まれで鑑定魔法が使えるらしい、そして組織に役立ちそうな奴を見つけては報告しているとか。
この日から私の復讐計画が始まった、ただ爺は翌年老衰で死んだせいで私の手で殺す事が出来なかったが。
これまでに私に懐いた者達を始めに少しずつ反組織の意識を植え付け、組織が無くなったらどんな風に生きるのか遊びで想像させたりした。
色々な所に入り込む為に私達はそれぞれ技能を持っている、計算が得意な者は商家に、閨が得意な者は娼館に、隠密行動が得意な者は王家の影、貴族の中に紛れる為に行儀作法も覚えた、唯一共通して得意なものが暗殺というだけだ。
10年掛けて古株以外の殆どを仲間に引き入れる事に成功し、幹部会が開かれたその日に組織壊滅を実行した。
幹部の殆どは元凄腕暗殺者だったせいで無傷とはいかなかったが、潜ませていた精鋭のお陰で比較的楽に壊滅させられた。
その後、私は単身当時即位したばかりの王の元へ忍び込み、これまでの暗殺依頼書や貴族の不正の証拠と引き換えに後始末と、王家の影になりたい者の引き取りを願った。
実際暗殺組織には王も頭を抱えていたらしく、その時点で実質ボスの私が王都から姿を消す事を条件に部下達のこれまでの罪は不問にすると約束してくれた。
その後《《セゴニア》》を出てパルテナに移り住み、シルバという名を思い出した元のエドガルドという名に戻し、これまで蓄えた財産で小さな商会を立ち上げた。
情報収集や先読み、人心掌握といったこれまでの技術と知識が役立ち、あっという間に大きくなった商会の本拠地として交易都市トレラーガを選んだ。
新参者に対する嫌がらせも当然あったが、私からすれば子供が戯れている様なモノである。
軽く返り討ちにしていたら、いつの間にかトレラーガの裏社会を取り纏める立場になっていた。
貧民街の救済ついでに私好みの子供達を侍らし、少々悪どい事もしていたが昔の組織に比べたら可愛いものだ。
しかしあの日、どこから見ても子供の愛らしい姿なのに母の愛情を思い出す優しい眼差しをしたアイルに出会ってしまった。
あの時は己の欲のみでアイルを側に置きたい余り、先走った行動をとったと反省している。
初めてエドと愛称で呼ばれた時は甘い痺れを感じた程だ、辛辣な態度と寛容な態度、蔑む眼差しと無防備な笑顔、アイル以上に私を狂わせる人はいないと本能が告げていた。
そんなアイルが賢者でセゴニア王宮へ連れて行かれたと知らせが入った、鈍らない様に時々訓練はしていたが、全盛期に比べたら落ちるだろう。
実際若い頃と違って全力で馬を走らせるだけで体力が削られていく、もうすぐ要塞都市に到着するが、あのエルフは無事に使者の名目を手に入れたのだろうか。
王との約束で私がセゴニアに住む事は出来ない、もしもアイルがセゴニアに住むとなったら今までの様に会う事も出来なくなってしまう。
あの笑顔で再びエドと呼んでもらう為にも、既に何頭目だかわからない馬を交換して私は馬を走らせる。
エドガルドを見る目が少しでも変わりましたでしょうか(*´∇`*)
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