第185話 噂の真偽
「…ル、アイル!」
「へぁっ!? あ、ビビアナ…おはよう」
「ふふっ、おはよう、よく眠ってたわね。体調はどう? 魔力は回復した?」
言われて手をニギニギと動かし、身体の隅々まで魔力が満ちている事を確認する。
昨日ポーション飲んだ後は半分くらいまでしか回復してなかったもんね。
「…うん、完全回復してるみたい。朝の洗浄魔法掛けるね『洗浄』」
「ん、ありがと。3人共もう起きてるから朝食にしましょ、あと1時間もすれば残りの魔物殲滅開始するみたいよ」
そういえば昨夜はホセに運んで貰ってる途中で寝ちゃったんだっけ、子供の頃冬にコタツで寝ちゃってお父さんにベッドまで運んで貰った時みたいに心地良かったせいだね。
元彼達と違ってしがみついて無くても絶対落とされないってわかる安定感と安心感というか。
3人と挨拶を交わしてホセに移動中に寝ちゃった事を謝った、そしたら「孤児院のチビ達と変わんねぇから気にすんな」ってニヤニヤ笑われたからお礼は言わないもんね!
門前広場に皆で行くと、ギルド職員達が朝食を冒険者達に配っていた。
その近くには物足りない人達用に屋台が便乗して並んでいる。
列に並ぼうとしたら周りが騒ついた、この騒つきは何が原因だろう、昨日のカレー?
それとも戦闘で私が魔法使うところ見た人がいるのか、治癒関連か。
考えてみたら1日で結構やらかしてるなぁ、戸惑っていたら私を隠す様に仲間達が四方に立って周りの視線を遮ってくれた。
身長差のお陰で私の姿は周りからほぼ見えなくなった、悔しくなんかないもん。
「あ~ぁ、アイル、お前スゲェ事になってんぞ? とりあえず賢者だって事は確実にバレてるだろ、あと飯に惹かれただけで賢者だって知らない奴らは引き抜きしてぇって意見も多いな。エドガルドの同類も何人か居るから1人にはなるなよ」
ホセのケモ耳が周りの会話を拾ってピクピクと動いている、最期の言葉に高い所に登ったみたいにお尻がヒュンとなって思わず左右に居るホセとビビアナの手をギュッと握った。
変態は1人で手一杯なのでこれ以上は無理です。
「アイルはテントで待機させておいた方が良かったか…、しかしそれはそれで俺達が居ない間に妙な奴らが来ても心配だしな」
「食事の件はともかく、賢者に関しては直接見てない限りあくまで噂の範疇を出ないから確証が持てない人達が殆どだろうね。アイルもあんまり気にしない様に「アイル~! おっはよ~!」
「うわっ」
私の後ろで話していたエリアスが体当たりで突き飛ばされ、次の瞬間にはパメラの腕の中に居た。
「パメラ…、おはよう。元気になったみたいだね?」
「アイルのお陰だよ~、アイルがアタイの喰われた手を元通りにしてくれたからさ! じゃなきゃ絶望して今頃命を絶ってたかもしれないよ、アイルにはどれだけお礼を言っても足りないくらいさ、アタイの恩人だよ!」
パメラは私を抱き締めたまま頭に頬擦りをしてチュッチュとキスを落とす、獣人の甘やかし方をしているって事は最大限の親愛表現なんだろう。
そしてパメラの無駄に大きな声は当然様子を伺っていた周りの人達にも聞こえた訳で…。
「おい、喰われた手を元通りにしたって言ったぞ」
「あの嬢ちゃん本当に賢者らしいぞ!」
「どういう事だ!? 料理上手な子なんじゃなかったのか!?」
「やっぱり昨日の攻撃魔法はあの子だったんだ!」
ホセじゃなくても周りの声が聞こえるくらい騒がしくなってしまった。
仲間達もあーあ、って顔してるし…。
「お前ら! まだ大氾濫は終わっちゃいねぇんだぞ! サッサと飯食って準備しろよ!」
私達の周りの人の輪がジリジリと縮まって来てどうしようかと思った瞬間、ガスパルのドスの効いた声が広場に響く。
流石ダンジョン都市のギルマス、一瞬で場の空気を変えてくれた。
「噂の真偽が気になってるかもしれねぇが、全部大氾濫が終わってからでも遅くねぇだろ! なぁ、嬢ちゃん?」
含みを持たせた顔で私を見てニヤリと笑うと、パンパンと手を叩きながら指示を出す。
「飯を食ったら奇数の班はこっちの門、偶数の班は向こうの北門の広場に集合する様に! 残ってるのはお前らにとっちゃ雑魚ばかりだが油断はするなよ、7時になったら1班から12班は戦闘開始だからな!」
ガスパルの言葉で皆移動を開始し、私達も無事に食事にありつけた。
食後、広場に集まって後半の班である私達がビビアナと分かれて待機場所へ移動しようとしたら肩を掴まれた。
「嬢ちゃん、攻撃魔法使えるんだってなぁ? だったら弓使いやエルフと一緒に外壁の上から攻撃した方が良いだろ?」
振り向くまでも無くガスパルにヒョイと小脇に抱えられ、荷物の様に連行された。
「上からちゃんと援護するからね~」
3人は心配そうに見ていたが、元々魔導師は後衛職である事は知っているので何も言わず連行される私を見送っていた。
私のフォローがあるのと無いのでは連携も変わってくるのでいつも通り動いても大丈夫だと言ったつもりだけど、ちゃんと伝わっただろうか。
しかし、小柄とはいえ人1人を小脇に抱えたまま階段をスタスタ上れるガスパルって凄いかも。
筋肉もしっかりついてるからまだ身体を鍛え続けているのかもしれない。
苦しく無い様に肋骨の上から抱えてる辺り、普段からこうやって人を抱えて運んでたりして。
「一応確認するが…、嬢ちゃんは賢者なのか?」
階段を上りながら酷く真剣な声で問いかけられた。
「………自分が賢者と言われる程賢いとは思わないけど、賢者サブローと同郷な事で賢者と呼ばれるならそうだね」
「…ッ!! はは…、そうか…サブロー様と同郷なのか。サブロー様には親父が助けられた事があったらしくてな、じゃなきゃ今頃俺は居なかったらしいんだ。サブロー様に恩を返せなかった分は嬢ちゃんの力にならなきゃなんねぇよなぁ…。ホレ、到着、交代の時間になったら頼むぜ」
妙にスッキリした顔をしてガスパルは先行する他の冒険者達の方へ歩いて行った。




