第175話 素材の違い
「あはは、アイルは相変わらず《《アレ》》が苦手なんだね、防具に加工してあってもダメなんだ?」
エリアスが気を遣って名前を出さずに話してくれた、そういうところが女性にモテるんだと納得できる。
「アレはもう本能が避けろと命令してくるの、私がアレを受け入れる日は永遠に来ないわ」
後にエリアスが言った、あの時程真剣な目をしたアイルは見た事が無かった…と。
「そういやアイル、お前昨夜酒飲んだな?」
隣に座ったホセがスンスンと私の匂いを嗅いで言ったのでドキリと心臓が跳ねた。
以前習性だと聞いて許可取らなくても嗅いで良いよと言って以来時々嗅がれていたが、許可した事を後悔してももう遅い。
大丈夫、エドと飲んだ事はバレてない、それだけは絶対秘密にしておかないと怒られる未来しか見えない。
「部屋で1人だけで飲む分には問題無いでしょ!? ちゃんと朝起きた時も鍵掛かってたから部屋から出てないよ!? そ、それよりあと1週間もすれば要塞都市だよね、ガブリエルはそこで戦況が悪化するまでは待機だから、そこからは全員ずっと馬車に乗りっぱなしになっちゃうんじゃない?」
「そうだな、後1週間も野営が続くのかよ…、悔しいがエドガルドの客間は居心地も寝心地も良かったから野営が辛く感じそうだぜ」
ふぅ、何とか話題が逸れた、内心ホッと息を吐く。
「あ、そういえばアイルが貰った夜着ってどんなの? 僕達も貰って来たけどデザインが違うみたいだし」
不意にエリアスが聞いてきた、あのナイトウェアを見せろ…と!?
しかもエド関係の話に戻ったし!
「そ、そんなの内緒だよ! 恥ずかしいもん」
「ちょっと待て、見られて恥ずかしい様な夜着貰ったのか!?」
「あ、えっと、私からしたら普通でも、皆からしたら下着みたいに見えると思うから…。それに置いてきたら置いてきたで使用済みの夜着をアルトゥロやエドが片付けると思うと貰ってきた方がいいかなぁって」
「そうね、ヘタしたら今夜はアイルが使ってた部屋でエドガルドが夜を過ごすかもしれないもの」
「「「「ッ!?」」」」
「やぁねぇ、あの男ならそれくらいしそうじゃない?」
ビビアナの言葉に息を飲む私達、あっさりと笑いながらビビアナは言ったが、確かにしないとは言い切れないものがある。
「今馬車にガブリエルが乗って無くて良かったな、アイルが夜着をプレゼントされたとか聞いたら張り合いそうじゃないか?」
リカルドの言葉に馬車の隣からカポカポと聞こえる蹄の音を聞きながら皆が頷いた。
今後ガブリエルに見せる事は無いからバレる事も無いもんね、ガブリエルは友人に対して小学生並みの独占欲を発揮するからヤキモチを焼くと面倒だ。
「わ、私のよりビビアナのやつ見せてよ、貰って来たんでしょ?」
「いいわよ、ちょっと待ってね」
そう言ってビビアナはリュックから白っぽい上下の襟付き夜着を取り出した。
艶やかな光沢があって凄く手触りが良いからシルクだ。
「やっぱりビビアナのもシルクだね、私のもそうだったけど肌触りが凄く良いよね!」
「「「…………」」」
キャッキャとビビアナの夜着について話していたが、男性陣のリアクションが変だ。
「どうかしたの?」
「いや…、俺の物も仕立ても着心地は良いが素材が違うな…と思って」
「だよね? ビビアナのやつはその光沢からして絹だよね? 僕達のは綿だと思う」
「ほれ」
ホセがリュックから出したのはデザインこそビビアナと同じだが、明らかに材質が違うとわかる物だった。
「綿ね」
「綿だね」
私とビビアナの意見も同じだった。
「チッ、エドガルドのやつ…、ビビアナの機嫌取っておけばアイルにとりなして貰えるって計算してやがるな…」
「ある意味人を見る目があると言うか…」
「下手に借りを大きくしなくて済んでると思えば良いじゃないか、シルクの夜着なんて王族や上級貴族、一部の富豪くらいしか使ってないだろう」
「え…、そうなの!?」
リカルドの言葉にギョッとする、日本だと庶民でも自分へのご褒美として買うくらいのイメージだったけど、異世界ではもっと価値があるらしい。
「ああ、実際実家で使ってたのは俺達が使った夜着より質が悪いくらいだったしな」
確かに今着てる服よりもホセが出した夜着の方が手触りが良いもんね。
そうして手に入れた夜着はテント生活では使う事も無く、1週間後にはエスポナに到着した。
何だか以前来た時より門の行列が長い、商人らしき人達が多い気がする。
「何かお祭りでもあるのかな? 商人が多いみたいだからトレラーガの大市みたいなのとか?」
「耳の早い商人はどこにでもいるからね、大氾濫の噂を聞きつけて物資を売り捌こうという者達が集まって来てるのさ。隣国に行くにはリスクが高いから、それより安全なエスポナで…ってね。それにしてもここで君達とお別れかぁ…、このまま一緒に行っちゃダメかなぁ」
大氾濫の戦況が不利にならない限りガブリエルはエスポナで待機の為、一緒に行きたいとゴネ始めた。
ガブリエルの馬には今後ずっと馬車移動になるからとホセが率先して乗っている。
「まぁまぁ、規模によっては早く終わって帰って来るかもよ? そしたらあとはのんびり帰るだけだし」
フォローするエリアスの言葉にガブリエルがため息を吐く。
「はぁ…、そうだと良いけど前回の大氾濫から妙に間が空いてるから嫌な予感がするんだよねぇ。もしもの時の為にコレ持って行って、アイルの事だから仲間に危険が迫ったら魔法使うでしょ? 魔力回復ポーションだよ、今回の為に久々に作ったよ」
「ありがとう…、そっか、ガブリエルってポーション作れるんだっけ」
妙なフラグを立てないで欲しい、でも何があるかわからないから有難く頂いておく。
それにしてもここからはガブリエルが魔法で~って言い訳が出来なくなるから洗浄魔法とか水出すのとか気をつけないと。
門を潜るとやけに兵士や騎士の姿が目に付く、ガブリエルと同じ理由で待機する為に王都から来ているのだろう。
幌から顔を出してキョロキョロしていると見た事のある一団が視界に入った。
そうだよね、魔物相手の為に訓練したから来ていてもおかしくないよね。
「あそこに居るの私達が指導した騎士達だよね」
「あらホント。……うふふ、確か宿は鷹の目亭だったわよね、出発までには戻るから」
そう言ってビビアナは馬車を飛び降りて騎士達の方へ走って行った、デスヨネー、だって一団の中にセシリオが居たもん。
そしてビビアナが戻って来たのは翌日の朝食前だった。




