第154話 好き嫌い
「ここまで来ると帰って来たって気になるよね~」
タリファスを出る船に乗って数日後、私達はトレラーガの外壁が見える場所まで帰って来た。
ハッ、テディがエドに目をつけられたりしないかな!?
テディは美少年とまでは言わないが、幼さが残る可愛らしい感じに加えて、その可愛らしい顔に似合う茶色い熊耳というオプションがある。
ちなみに普段はゆったりしたズボンに隠れているが短い尻尾もちゃんとある、お風呂の時に見たから知ってる。
いつもの定位置であるホセの前で馬に揺られながらテディをチラチラと見ていたらホセに怒られた。
「コラ、ちゃんと前向いて乗ってろ。どうせテディがエドガルドに目ぇつけられねぇか心配になったんだろうけど、アイツ今はお前に御執心じゃねぇか。少なくともお前の前で他の奴に色目使うってこたぁねぇだろ」
「そうかなぁ、テディ可愛いから心配だよ。よしっ、私頑張って防波堤になる!」
「やめろ、張り切るな。普通にしとけ普通に、ヘタにお前がエドガルドを構ったら調子に乗るかもしれねぇだろうが」
「そっか、それはそれで困る…」
「だろ?」
拳を握って気合いを入れたが、ホセに止められてしまった。
確かに積極的にエドを構ったら危険な気がする、しかし冷たくしたらしたで嫌な予感がするので匙加減が難しい。
「あはは、いっその事トレラーガを素通りしちゃうとか? だったら何の心配もないんじゃない?」
「でもお土産渡す約束してるからなぁ…、それに素通りしたら次に来た時に面倒くさい事になる予感しかしないし」
エリアスの提案はあまりにも危険な賭けだと思う、ストーカーとかって逃げれば逃げる程執着するイメージだし。
あ、いや、別にエドがストーカーとは思ってないけど…、予備軍くらいではあるかもしれない。
トレラーガに到着して月夜の雫亭に向かった、今回はいつもの4人部屋じゃベッドが足りないから私とビビアナが2人部屋を使う事に。
肌触りの良いシーツが使えなくて残念、そう思って部屋に入ると、いつもの4人部屋と同じシーツが使われていた。
どうしたのか聞くと、あの4人部屋の評判が良くて客が増えた為、他の部屋も奮発して取り替えたらしい。
お陰で客が居ない日は無いそうだ。
夕食までまだ時間があったので、そんな話を聞いてから私は1人でエドの屋敷に向かった…が、すぐにホセが追い掛けて来た。
「エドとミゲルにお土産渡したらすぐに戻るのに」
「お前は押しに弱いだろ、珍しい食材が手に入ったから是非って夕食に誘われて使いを出すからとか言われたら…」
「う…っ、確かに珍しい食材が気になるかも…」
「その時食事に合うからって酒を勧められたら?」
「うう…、我慢するもん…」
もしかしたら1杯だけって飲んじゃうかもしれないけど…、そう思いながらチラリとホセを盗み見たらバッチリ目が合った、その目は「絶対に飲むだろ」と如実に物語っている。
気不味くてそ~っと目を逸らし、てくてくと無言で歩く。
「それにしても本当に雰囲気良くなってるね」
「確かにな、それは認める」
もう以前の貧民街区域に入っているのにゴミも落ちて無いし、飲んだくれて死体の様に寝ている老人も居ない。
しかも以前は聞こえなかった子供の笑い声も時々聞こえて来るし、エドの努力が目に見えて思わず頬が緩む。
もうすぐエドの屋敷というところで私達の横を馬車が通り過ぎたと思ったら、馬が嘶いて急停車した。
「アイル!?」
停車した馬車からネクタイを緩めたエドと続いてアルトゥロが飛び出して来た、驚いているところを見ると、まだ私達が到着したという報せを受けてなかったのだろう。
それにしても…、仕事で疲れてネクタイ緩めて気を抜いてましたとわかるその姿…私の性癖を抉ってます。
どうして本来カッチリしているのを油断して少し崩れた状態って唆るんだろう。
思えば目覚めたのは学生時代に春の衣替え直前に暑くて学ランと中のシャツを2つくらい外して見えていた鎖骨にトゥンク…ってなった時だったなぁ。
そんな萌えを表面に出したら危険だと私の本能が訴えるので普通に笑顔で対応。
「エド、出掛けてたんだね、すれ違いにならなくて良かった。さっき到着したから約束通りお土産渡しに来たんだ」
「アイルから私に会いに来てくれるなんて嬉しいな、1人で来てくれたらもっと嬉しかったけれど」
エドは私に極上の笑顔を向けつつ、チラリとホセに視線を向ける、それを無表情で見返すホセ。
「あはは…、夕食までに戻らないといけないからお土産だけ渡しに来たの。ここで渡していい?」
これは早く引き離した方が良さそうだと思い、笑って誤魔化しながらお土産の赤鎧を渡そうとした。
「そんな…、折角だからお茶だけでも飲んで休憩していってくれないか。トレラーガに到着したばかりなら疲れてるだろう?」
「アイルは移動で疲れてるからサッサと宿に戻って休ませてやりてぇんだが?」
「ははは、休むなら私の屋敷の方が良い家具も揃っているから寛げるさ。何なら泊まっていってくれてもいいんだよ? 明日の朝に宿まで《《アイルを》》送って行くから」
言外にホセを泊める気は無いと言っている、本当に私1人で来なくて正解だったかも。
「あ、あのね、もう部屋もとってあるから泊まれないよ? ビビアナと2人部屋だし。それに他にもお土産持って行くからゆっくり出来ないの」
本当はお茶飲む時間くらいはあるけど、早くこの2人を引き離したい。
なのでサッサとアルトゥロに赤鎧を預けて退散しようと鞄から出すフリで取り出したらアルトゥロが短く悲鳴を上げた。
「ヒィ…ッ」
「おや、赤鎧じゃないか、懐かしいな」
アルトゥロと違ってエドは嬉しそうだ、そういえば蟹のフォルムを受け付けない人って居るよね、どうやらアルトゥロはそのタイプらしい。
一瞬赤鎧を持ってアルトゥロを追い掛けたい衝動に駆られたが自重しておいた、エドを抑えるのに今後も協力してもらいたいしね。
結局赤鎧を2体エドに渡しそのまま別れた、代わりに次にトレラーガに来た時パーティ全員で泊まる約束をさせられたけど。




