第151話 胸のモヤモヤ [side ホセ]
クソッ、つい焦っちまって余計な事言っちまった!
待て、焦るって何だ、ベッドの数の関係でテディとアイルが寝るだけだってのに、何でこんなにモヤモヤするんだ!?
アイルの奴…既に港町のある領内には入ってるし、あと少しだってのに態々リカルドの馬に乗りやがって…。
そりゃちょっとイラついてたせいでいつもよりキツく言っちまったって自覚はあるけどよ。
恋人出来たら育つって何だよ、毎日ヤりまくるってか!?
お前みたいなちんちくりんを相手にする様な奇特なヤツ……は何人か居るな…。
チッ、何でオレがこんな事で悶々としなきゃなんねぇんだ!
チラリとアイルを見ると目が合ったが、アイルはすぐにフンッとそっぽ向いてしまった。
ガキかよ! 異世界で大人だったんじゃないのか!?
リカルドも苦笑いしてるじゃねぇか、全く…お前がそこに居たらいざと言う時にリカルドが剣を振るえないだろうが。
「やぁね~、デリカシーの無い単純おバカは…。テディ、あんな大人になっちゃダメよ?」
「え、あの、アイルさん凄く怒ってましたけど…大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ、テディ《《には》》怒って無いもの、アイルは関係無い子供に八つ当たりする様な子じゃないわ。怒らせた原因の誰かさんはともかく…ね、うふふ」
ビビアナのヤツ、オレに聞こえてるって分かってて言ってやがる。
大体アイルの胸なんかどうでもいいんだよ、本人が気にしてるからこっちも何となく気になるってだけなんだよ。
酔っ払うと半々の確率でビビアナの胸で遊んでるしよ、最初の頃はすぐにオレの尻尾や耳撫で回して空、空って死んだ犬の名前呼びながら泣いてたクセして。
きっとこのモヤモヤはアレだな、オレの事慕ってた癖にいきなり他のヤツの事慕って近付かなくなった孤児院のガキに対するやつと同じだ。
胸がスースーするのは普段風除けが前に座ってるのに今は直接風が当たるせいだろう。
今まで当たり前だと思ってた事と違う事が起きてるせいで違和感を覚えてるだけだ、そうに違いない。
宿屋に到着してからもアイルはオレと目を合わそうともしねぇ、今日と明日は船が無いからこの状態で過ごすのか…。
今日は1人で外で食べて来るか…、ついでに娼館に行ってスッキリすりゃ気分も落ち着くだろ。
リカルドに言って宿屋を出て街中をブラついた、美味そうな匂いをさせている店を適当に選んで入り肉とパンと酒を注文する。
先にビールとパンがテーブルに置かれてジョッキを煽る、エールに比べて喉越しとキレが段違いって言ったのはアイルだったか。
すぐにビールを飲み干したので、肉が届くと同時におかわりを注文した。
テーブルに置かれた肉は骨付きの噛み応えのありそうな塊だった、アイルが見たらテンション上げそうだ、アイツは何故か骨付きの塊肉を見ると「まんが肉」とか言って喜ぶからな。
齧りつくと肉汁が溢れて口の端を伝って流れる程だ、しかしひと味足りない気がする。
昔のオレならガッついたであろう味付けなのに、アイルの美味い飯に慣れたせいだな。
顎を伝う肉汁を指で拭って舐めとると頭の中でアイルがいつもの様に「ハンカチくらい持ち歩きなよ」って言いながらハンカチを差し出す姿が浮かんだ。
「ケッ、獣のクセに人間と同じ店に入りやがって。しかも俺達より良い肉食ってるじゃねぇか、生意気なんだよ」
「バカっ、聞こえたらどうするんだ、アイツ明らかに冒険者の格好してるだろうが」
「へっ、あっちが先に手を出したら牢にぶち込んでやるさ、やっぱり獣人は乱暴で危険だっつってな」
店内に入った時から鬱陶しい視線は感じていたが、他の客のそんな会話が聞こえて来た。
店内はザワいついているから本人達はオレに聞こえてるとは思っていない様だった、獣人の耳の良さを知らないんだろう。
考えてみればここはタリファス国内だったな、今回は如何にパルテナの居心地が良いかっていうのを改めて知る事になった旅だった。
昔のオレならこんなムシャクシャした時にあんな言葉を聞いたら喧嘩に発展してただろう。
今は仲間に迷惑が掛かるとか自然と考えちまうもんな、それにしても獣人は乱暴…か、そういやアイルのヤツ初めて獣人差別の事聞いた時「確かにホセって乱暴じゃないけど粗野っちゃあ粗野だもんね」なんてふざけた事言ってやがったな。
パンを手に取り気付いた、アイルの手作りパンじゃないから硬いと言う事に。
しかもパルテナで売られているパンよりも黒くて硬い、パンだけでも食えなくは無いがスープも一緒に頼めば良かった。
丁度ジョッキが空になったのでビールの追加と一緒にスープを注文した。
食事を済ませて花街へと向かうと、窓から娼婦達が行き交う男達に愛想を振り撒き客寄せをしている。
愛想良くしていた娼婦達がオレの耳や尻尾を見て顔を顰めたり窓から顔を引っ込めたりした、パルテナと比べて妙に香水がキツいしヤる気が失せた。
もしかして獣人が嫌がって来ない様にする為に態と香水を多くつけているんじゃないかと思うくらいだ。
「はぁ…、宿に戻るか…」
宿屋で部屋に向かおうとしたら、食堂からアイル達の気配がして思わず受付カウンターの陰に隠れた。
クソッ、何でオレが隠れなきゃなんねぇんだ、そして客室へ向かうアイル達の会話が聞こえて来た。
「やっぱり大人気無かったかなぁ、何かホセがピリピリしてていつもより言葉に棘があったからムキになっちゃったし…」
「いいわよぅ、デリカシーの無いホセが悪いんだから。アイルは悪く無いわ」
「ははっ、ホセも今頃落ち込んでお姐さんに慰めて貰ってるかもね」
「……………」
「エリアスッ、余計な事を言うんじゃ無い、アイルの機嫌が悪化したじゃないか! それに娼館に行かずに戻ってくるかもしれないだろう」
「あれぇ~? 僕は娼館だなんてひと言も言って無いよ? 飲んでくるのかなぁって思っただけなんだけど、ホセってば娼館に行くって言ってたの?」
「あ、いや、その、……まぁ」
アイツら~! 余計な事言いやがって!!
声が通り過ぎたのでカウンターの陰から顔を出したらテディと目が合った。
コイツも獣人だもんな、オレの気配に気付いてたんだろう。
言うなという意味を込めて人差し指を口に当てると頷いて皆を追いかけて行った。
これでエリアスをシメたらここで聞いてた事がバレちまう、暫くカウンターの陰で気持ちを落ち着けて部屋へと向かう。
「戻ったぜ」
隣のアイル達の部屋にも聞こえる様にドアを開けながら少し大きめに声を掛けた。




