それでも、怒りは消えない
後日談
「それでも、怒りは消えない」
特集番組のタイトルは、こうだった。
「傷は、成功で消えるのか」
画面には、世界王者となった伊達理人、秋生光、そして伊達美羽の姿が映る。
華やかなリング。
歓声。
ベルト。
拍手。
けれど番組が本当に見つめていたのは、その光の奥にある、消えない影だった。
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最初にインタビューを受けたのは、光だった。
飯山のジム。
使い込まれたサンドバッグの前で、光は静かに座っていた。
「理人さんと美羽さんが飯山に来た日のことを、覚えていますか」
記者が尋ねる。
光は、少しだけ視線を落とした。
「忘れられるわけないです」
短い答えだった。
「理人は……本当に、顔が違ってました。目に力がなくて、声も小さくて。昔、電話で話していた理人とは別人みたいで」
光は拳を軽く握る。
「美羽ちゃんも明るく振る舞ってたけど、ずっと兄ちゃんの顔を見てたんです。自分が笑わないと、お兄ちゃんがもっと壊れるって、子どもながらに思ってたんじゃないかなって」
記者は、黙って聞いている。
「悔しかったです。なんでこの二人が、住んでた街を離れなきゃいけないんだって。悪いことしたのは理人じゃない。美羽ちゃんでもない。なのに、出ていくのは伊達家だった」
光の声は震えていなかった。
だが、その奥にある怒りははっきり伝わった。
「私は今でも思います。あれは“転居”じゃないです。追い出されたんです。学校と、教室の空気と、大人の不誠実さに」
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番組は次に、健斗と葵のインタビューへ移る。
教育問題を考えるテレビ企画。
スタジオではなく、飯山の自宅で収録された。
健斗は落ち着いた声で話し始める。
「学校には、最初は期待していました。まさか、ここまで守ってもらえないとは思っていなかった」
隣に座る葵は、唇を強く結んでいた。
「理人が壊れていくのを、毎日見ていました。朝、玄関で動けなくなる。夜、星の本にも触れなくなる。好きだったものを避けるようになる」
葵の声が少しだけ詰まる。
「親として、あれを見るのは……本当に地獄でした」
記者が静かに尋ねる。
「学校側への怒りは、今もありますか」
葵は、迷わず答えた。
「あります」
一言だった。
健斗も続ける。
「消えるわけがありません。理人は世界王者になりました。美羽も活躍しています。でも、それは学校が許された理由にはならない」
葵は顔を上げる。
「“今は幸せそうだからいいじゃないか”って思う人もいるかもしれません。でも違います。あの子たちは、自分で立ち直ったんです。学校に救われたんじゃない。あの学校から離れたから、生き延びられたんです」
健斗の声が、少し低くなる。
「子どもを守るべき場所が、子どもを壊した。そして責任を取るより先に、組織を守ろうとした。私は、それを一生忘れません」
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番組の終盤、光の言葉が再び流れる。
「理人は強くなりました。でも、強くなったからって、傷つけた側が軽くなるわけじゃないです」
光はカメラをまっすぐ見る。
「理人も、美羽ちゃんも、許してないと思います。私も許してません。だって、許す理由がないから」
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最後に、葵の言葉が残る。
「教育って、子どもに勉強を教えるだけじゃないと思います。生きていい場所を守ることだと思います」
少し間を置いて、葵は言った。
「それができないなら、学校は何のためにあるんですか」
画面は、飯山の夜空へ切り替わる。
ナレーションが入る。
「成功しても、消えない傷がある。
前へ進んでも、許せない過去がある。
それでも人は、生きる場所を選び直すことができる。」
そして番組は、静かに終わった。




