私は忘れたいつかの思い出
帰りの通勤電車。
満席につき立ち乗り。
目的の駅までは、あと四十分ほど。
目の前には二人の青年が立っている。
ひとりは薄手のニット帽を、耳たぶが隠れない程度に深く被った金髪の青年。
もうひとりは両耳にピアスをつけ、ワックスで髪をきっちり整えている黒髪の青年。
第一印象は、どこか遊び慣れていそうな二人だった。
距離が近いのもあって、自然と会話が耳に入ってくる。
聞き耳を立てるつもりはなかったのに、つい聞いてしまい、少し後ろめたさを覚えた。
何処ぞの植物園が綺麗だとか、
今は南禅寺が綺麗だとか、
東寺のライトアップも綺麗だとか。
あそこはもう紅葉が始まっていた、
この写真は四日前だから今が一番綺麗かも、とか。
終いには「ここも綺麗やで」と写真を見せた金髪の青年に対し、
黒髪の青年が画像をスクロールしながら、
「居酒屋やん」
と即ツッコミを入れる。
実際にその二人がどんな人間かなんて知る由もないけど、
見た目で判断してしまった自分の浅はかさを少し反省した。
そして、肌寒くなってきた時期でありながらも、
そこだけ温かい春を感じた。
次の駅まであと半分と言ったところで、二人は突然じゃんけんを始める。
何を賭けているのかと思えば、
負けた方がペットボトルの水を飲むだけ。
三回連続チョキを出して負けた黒髪の青年は、
電車の窓に映る自分の顔を見て、水を飲んだことによる浮腫みを気にし始めた。
ペットボトルの水が残り三分の一を切った頃、電車は駅へ到着する。
人はあまり降りず、僕と二人との距離はそのままだ。
すると、ひとりの青年がスマホを取り出し、
ストップウォッチのようなアプリを起動する。
所謂、体内時計ゲームというやつか。
交互に挑戦し、五秒ピッタリとの差を競っていた。
二人の青年は、端から見ればくだらない
コンマ数秒の争いに、本気で時間を費やしていた。
電車はついに目的の駅に到着する。
ドアが開き、僕は二人とは逆方向へ歩みを進めた。
くだらないことで白熱し合える友達の大切さ。
そして、若さ。
そんな二人を見て、私の心はじんわりと温もりを感じた。
赤の他人から見ても宝物のような、その小さな空間と時間に、一体どれほどの価値があるのか、
二人の青年は知る由もないのだろう。
どうか、二人の歩む世界がこれからも色鮮やかでありますように。
初めまして。作者の芝生ななです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
この作品は、僕自身の心が動いた出来事をもとに書いたものです。
そのため、更新は不定期になると思います。
書けるときに書き、続けられるところまで続けたいと思っていますが、もしかしたらこれが最初で最後の投稿になるかもしれません。
拙い文章ではありますが、
皆さまの心に少しでも響くものがあれば幸いです。
ありがとうございました。




