心の中を少しだけ。
美琴。
君と出会わなければ、俺はきっと、ここにはいない。
いつもの試験終わりの様に、家で自己採点と復習をしていた。
この現実世界も、悪くはない。
君がいれば、むしろ楽しいとさえ感じる。
「みんな歌上手だね〜。」
美琴は詩音のとなりで楽しそうにしている。
「詩音くんは、カラオケ良く来るの?」
「いや、初めてだ。」
「そうなんだ〜。どう?」
「うん、楽しい。みんな楽しそうに歌うな。」
「そりゃあそうだよ〜。歌うと、楽しいし、ストレス発散にもなるよ?」
「そうなのか。」
二人が話していると、
「お〜ぃ。あと歌ってないのお前ら二人だけだぞ。」
安藤は、二人の前に選曲用のタブレットを置いた。
「あー!ありがとう!」
美琴は嬉しそうに受け取る。
(詩音くん歌うの嫌かな?助けてあげないと。)
「詩音くん、この曲知ってる?」
美琴が指さしたのは、男女二人のボーカルが二人で歌うラブソングだった。
「うん。勉強してるときに聞いた事がある。歌詞も音程も問題ない。」
「じゃあ、二人で歌お?」
「分かった。」
♪〜
「おー!クラス公認カップルが歌うぞー!」
安藤が叫び、詩音と美琴に注目が集まる。
少し前まで話しかけづらかった二人が曲を入れたものだから、クラスメイト達は、ワクワクした表情で、耳を傾けた。
歌い出しは、美琴のパートだ。
美琴がマイクを握り歌い始めると、場がざわつく。
「美琴ちゃん声綺麗〜。」
「ホントに。」
クラスメイト達は曲に聴き入る。
そして、詩音がマイクをにぎり、歌い始めた。
あまりの美しい声に、クラスメイト達は、言葉を発するのを忘れた。
となりで美琴は、歌う詩音を見つめた。
(カラオケ初めてなんだよね?かっこいい〜。こんなの他の女子に聞かせたくな〜い!)
美琴は、自分のパートがきても歌うのを忘れていた。
「おぃ、美琴?」
「あ、私の番だね。」
美琴は我に返り、歌い始めた。
二人の曲が終わると、一瞬静かになった。
「わぁー!めっちゃ良かったー!」
クラスメイト達は堰をきった様に、大盛りあがりだ。
「よーし!次は俺歌うー!」
楽しそうなクラスメイト達を見ながら、詩音は現実世界も悪くない。
そう思っていた。
「ねぇ、詩音くん。」
美琴は、他の女子の視線を感じながらわざと詩音との距離を詰めながら話しかけた。
「な、何?美琴、近すぎないか?」
「カラオケ初めてなのに、なんでそんなに歌うまいの?」
美琴は、無視して話を続ける。
「人体解剖学。」
「えっ?何?」
「人体の仕組みに興味があった時期があって、色々調べたんだ。その時に、声帯にも興味が出てさ、声について調べながら、色々試してたんだ。
だから、声に関しては大方の事は熟知している。今度本貸そうか?」
「ふふっ。結構です。詩音くんらしいね。」
(人体よりも、私はあなたの心を解剖して中身をしりたいよ。)
「らしいって?」
「何でもない。」
楽しそうに話す二人を、クラスの女子達は羨ましそうに見ていた。
(詩音くんの事、女子が見てるー!)
美琴は、ヤキモチをやいた。
(でも、私、ヤキモチやける立場じゃないんだよね・・・。)
美琴は、詩音を見つめて寂しい気持ちになった。
楽しい時間はあっと言う間に過ぎた。
暗くなった帰り道を、詩音と美琴は歩いていた。
「ねぇ、詩音くん。」
「何?」
「詩音くんの事、女子が見てた。」
「なんで?」
「なんでって〜、かっこいいから?」
「ははっ。それは無い。」
(やっぱり気づいてないんだ〜。
お母さんが言ってた。
詩音くんが自分がかっこいいとか、モテてるとか気づく前にモノにしなさいよ〜って。
でも、どうしたらいいんだろ。
そういえば!ネットで鈍感男には、ボディータッチって書いてな〜。)
「どうした?黙り込んで。
何か悩み事か?」
「まぁね。」
「相談にのるぞ?」
「相談ねぇ〜。えぃ!」
美琴は、腕を組む様に、詩音の腕に抱きついた。
「ど、どうしたんだ?
美琴、今日おかしくないか?
もしかして、俺にくっつきたくなるほど辛いことがあったのか?!」
詩音は、心配そうに問いかけた。
「大丈夫だよ。今は毎日楽しいよ!」
「ならいいけど。」
二人は腕を組んだままゆっくりと歩く。
「・・・なぁ、美琴。」
「何?」
「いつまでこれで歩くんだ?」
詩音は平然を装い、問いかけた。
(やばい!母さん!心臓が爆発しそうだ!)
「うちに着くまで。」
「そ、そう。」
(母さん、今日、俺の心臓は爆発します。)
「いや?」
(私だけこんなにドキドキして。なんだか寂しいな。でも・・・他の女子に取られたくない!詩音くん、どうですか?
少しはドキドキしてますか?)
「嫌じゃないけど。」
(嫌じゃない?嫌じゃない。じゃあ何で俺の心臓は爆発寸前なんだ。
少し前から俺、おかしいな。
何か病気なのか?!)
「どうしたの?なんだか浮かない顔だね〜。」
(本当は嫌なのかな?)
「いや、なんだか心臓が。」
「えっ?心臓が?」
「爆発しそうで・・・俺、病気かな?」
「・・・。」
(ドキドキしてんじゃーん!
こ、これは・・・期待してもいいんだよね?!)
「なんで黙るんだよ?」
「別に〜。病気じゃないと思うよ。」
「そうなの?」
「うん・・・私もだから。」
「美琴!」
「な、何?!」
「大丈夫なのか?!」
詩音は真剣に心配している様だ。
「大丈夫。」
(もうしらなーい!
これは・・・まだその時ではないよね。)
美琴は少しスネた様子で答えた。
「ん?なんで怒ってんの?」
「詩音くん。」
「何?」
「明日何時にする?」
「えっ?あぁ。突然だな。」
「忘れてたから。決めとかないと。」
「じゃあ、10時に迎えに行くのでいいか?」
「うん!」
美琴は嬉しそうに頷いた。
街灯が薄暗く照らす夜道を二人はゆっくりと歩く。
ずっとこうしていたいな。
と、思いながら。




