楽しい試験。
「いってきます。」
バタン。
詩音は、玄関を出て学校へと向かう。
「おっはよ〜!」
ドスッ。
後ろから走ってきた美琴は、詩音に抱きついた。
「お、お前、な、何を!」
詩音は照れるのを通り越して焦っている。
「だって〜!嬉しいんだもん!」
「と、とりあえず離れろよ!」
「ショックー。」
美琴は残念そうに腕をほどき、詩音の隣りに立った。
「で、何が嬉しいんだ?」
「もう嬉しい気持ちより悲しい気持ちが勝ちました。」
美琴は俯いて歩き出した。
「いや、あれはダメだろ!?」
詩音は焦っている。
「うっそ〜!ふふっ。」
「・・・騙された。」
詩音は悔しそうに美琴のとなりを歩く。
「嬉しいよ!だって、毎日朝早く起きて、お弁当作って、洗濯して、凛の保育園連れてって。学校着く頃にはクタクタだったもん。今日からこんなに楽しい毎日が、毎日だよ!」
「良かったな。」
「うん!詩音くんのお陰だよ。ありがとう。」
「俺は何もできなかった。」
「そんな事ない!詩音くんにすご〜く感謝してるよ。」
「そ、そうか?」
「そうなの!」
「楽しそうな所申し訳ないけどさ。」
「何?!」
美琴は、詩音の浮かない表情に不安を感じた。
「美琴、中間試験の勉強してる?」
「・・・私の楽しい毎日が、今終わりました。」
美琴は俯き、この世の終わりかと言うくらいに落ち込んでしまった。
「だろうな。」
「今日から頑張る!」
「バイトは?」
「平日は週2にしたし、なんとかなる!・・・と、思う。」
涙目で美琴は呟いた。
「あのさ、俺にできる事を昨日考えてたんだ。」
「えっ?突然話題かわるね〜。」
「変わってない。俺にできる事、見つけたんだ!」
「何?」
「今日から中間試験の日まで、
バイト無い日は、俺が美琴に勉強を教える。」
「えっ?いいの?」
「うん。」
「・・助かる。すごく。」
(地獄の試験勉強は、ご褒美に生まれ変わりました!今日は、なんていい日なんだろ〜!キャー!)
「学校終わったら、うちに来る?
美琴の家は弟達がいるだろうし。」
「そうだね〜。・・・お母さん手伝わなくて大丈夫かな。お母さんに聞いとくね。」
「美琴が勉強できるなら、美琴の家でもいいよ。」
「ありがとう。試験勉強がんばるぞ〜!」
「そうだな、がんばれ。」
「他人事みたいに言うよね〜。」
「まあ、俺は勉強くらいしか取り柄ないし。」
詩音は少し俯きながら言った。
「そんな事ないよ!いっーぱいいいとこあるよ!」
「そうかな?でも、ありがとう。」
「聞きたい?」
『別に。』
「あはははっ!」
美琴は楽しそうだ。
(マネされるの慣れたな。美琴、元気になって嬉しいな。)
「あ〜ぁ、着いちゃた。」
学校の校門をくぐると、美琴は残念そうにしている。
「学校嫌なのか?」
「違う、違う。詩音くんと一緒に歩くのが楽しかったから。」
美琴は笑顔で詩音を見つめた。
「そ、そう。」
(なんだろ?美琴の笑顔を見てると、心臓がドクドク早くなる。)
詩音は立ち止まり、戸惑っていた。
「詩音くん!どうしたの?行こっ!」
美琴が振り向いて手招きしている。
「う、うん。」
詩音は小走りで美琴を追いかけた。
キンコンカンコーン。
ガラガラ。
「みんな座れー!」
教卓に立つなり、先生は美琴を見ている。
「堺、今日は、元気そうだな?」
「はい!色々ありましたが、今日から私の青春が復活します!」
「良く分からんが、良かったな。
心配してたんだ。」
「もう大丈夫です!」
美琴はニコニコと答えた。
「良かったよ。」
先生は、ニヤニヤとしながら、視線を全体に移す。
「だ、が!青春もいいが、もうすぐ中間試験だ。みんな頑張るんだぞー!」
「えー!」
生徒達は、絶望した空気に包まれる。
「楽しいな。」
美琴は小さく呟くと、詩音を密かに見つめた。
「ゔー。」
(ご褒美だと思ってたけど、試験勉強は試験勉強でした。つらい〜。眠い〜。)
「美琴、分からない所があったら教えるぞ?」
「ゔ〜。詩音先生。何故人は勉強しないといけないのですか。」
美琴は頭を抱えながら詩音に助けを求める。
「それは、分からないな。とりあえず頑張れ。」
「はい〜。」
詩音と美琴は、詩音の家のリビングで勉強していた。
二人をニヤニヤしながら、詩音の母は見つめている。
(美琴ちゃんは可愛いし、面白いな〜。ずっと見てられる〜。)
詩音の母は、娘ができた様な気持ちになり嬉しそうだった。
「詩音くん。」
「何?」
「ここが分からない。」
「あー、これは、この公式を使って、こう。」
「なるほど。」
「あと、この公式を応用して、この問題も解けるぞ!まぁ、他の知識も必要にはなるんだが。」
「詩音くん・・・それ、何?」
「東大試験の問題集なんだけどさ、楽しいぞ。見るか?」
「結構で〜す。」
「そ、そうか。」
「私は、この教科書でも頭がおかしくなりそう。」
「分からないとこはどんどん聞いてくれ!」
「うん、ありがとう。」
楽しい試験勉強の時間は、あっと言う間に過ぎた。
「詩音くん、ありがとう!すごくはかどったよ〜!」
「それは良かった。あっ、これ。」
詩音はノートを差し出した。
「何?」
美琴は、ノートをパラパラと開きながら見た。
「これ?もしかして!作ってくれたの?」
「うん。授業で先生がしつこめに説明してた所をまとめた。多分それを覚えたら、そこそこ良い点数取れると思う。」
「ありがとう!」
(あー!抱きつきたい!好きが溢れ出しそうです!)
「うん。頑張れよ。」
「はい!先生!」
「じゃあ、送るよ。」
「大丈夫だよ〜。って言っても無駄なんだよね?」
「そうだな。」
「お母さん、ありがとうございました。」
「また来てね〜。」
詩音の母は、ニヤニヤとしながら二人を見送った。
こんな感じで、試験勉強の1週間は過ぎていった。
ガサガサガサ。
静かな教室に、文字を書く音が鳴り響く。
試験開始から、20分。
スースースー。
教室に、寝息が響き出した。
「詩音くん、もう終わったの?やっぱりすごいな。」
美琴は、小さく呟いて詩音をチラッと見た。
気持ちよさそうに寝息をたてている。
(か、可愛い。ダメダメ!頑張らないとね!)
美琴は、詩音に報いるためにも必死で問題を解き進めた。
キーンコーンカーンコーン。
「終わったー!」
生徒達は、嬉しそうに騒ぎ出した。
「こらー!答案用紙を集めるまで我慢しろー!」
先生は、生徒達に叫んだ。
「よし、みんな良く頑張った!騒いでよし!」
「わぁー!」
先生の言葉で、教室は一気に明るい雰囲気になった。
「ねぇ、詩音くん、詩音くん。」
美琴は、嬉しそうに詩音に話しかけた。
「ん?どうした?」
「終わったね!」
「うん。楽しかったなー。」
「多分楽しかったのは詩音くんだけだよ?」
「えっ?なんで?」
「普通は試験とか嫌がる物だよ?」
「そうなの?」
「・・・うん。もう終わった試験の事は忘れよう!」
「復習しないのか?」
「・・・詩音くん、それは一人でお願いします。」
「そうか。楽しいのにな。
間違えた問題のどこをなんで間違えたかとか解明できると、興奮しないか?」
「・・・しないです。」
(詩音く〜ん!これ以上私に変態な部分を見せないで〜!・・・でもこれはこれで何だか・・・私も変態かも。)
「それより!」
「何?」
「明日、バイトはお休みとってるんだ。
土曜日だから、約束の公園行かない?」
「いいけど。」
「やった。あっ!明日は勉強禁止ね。」
「わ、分かった。」
「あ〜!楽しみ。」
「なぁなぁ!お前ら二人も今から打ち上げ行かない?クラスほぼ全員くるんだけど?」
クラスの学級委員の安藤が話しかけてきた。
「詩音くん、行かない?」
「美琴が行くなら行くけど。」
「じゃあ行くー!」
「おっ、いいねー!」
安藤は、あまり話した事のない二人が来ると言ってくれて、すごく嬉しそうだ。
「じゃあ、カラオケ行くぞー!」
「おー!」
クラスは大盛りあがりだった。
「・・・カラオケか。」
詩音は、行ったことがないカラオケと言う歌を歌う謎の空間に不安を覚えた。
「大丈夫、歌うの嫌なら歌わないでも大丈夫だよ。今日は、私が守ってあげる。」
「う、歌くらい歌える。」
「へ〜。じゃあ聞かせてもらいましょうか〜。」
(詩音くん、歌えるの?聞きたい!聞かせて!)
美琴は、ワクワクしながら詩音のとなりを歩きながらカラオケに向かった。




