家族。
「よし、美琴の様子を見に行くぞ!」
日曜日の昼、詩音は呑気に身支度を整えていた。
詩音は階段を下りると、リビングの扉を開けた。
「母さん、ちょっと行ってくる。」
「あら、珍しいわね。気をつけてね。」
「うん。」
バタン。
詩音がリビングの扉を閉めると、母はニヤニヤしていた。
「まったく。美琴ちゃんの事好きすぎね。唯一の取り柄の、成績が落ちないといいけど。」
美琴の事しか考えられなくなった息子を、少し心配しながらも、成長を喜んでいた。
詩音は、玄関を出て百貨店へと向かった。
自然と早足になる。
「美琴。」
名前を呟くほど、詩音は美琴の事で頭がいっぱいだった。
少し歩くと、小さな男の子が一人、道に立っていた。
「えっ?あの子・・・もしかして、一人か?」
詩音は辺りを見回すが、親とか保護者の様な人はいない。
「あー。美琴のとこに行きたいのに。」
呟きながらも、小さな男の子を放っておけず、詩音は話しかけた。
「どうしたんだ?迷子か?」
「・・・。」
小さな男の子は、黙っている。
「お〜ぃ。迷子なら、交番行くか?
おまわりさんとこ。」
「知らない人と話したらダメって言われてる。」
男の子は、俯きながら呟いた。
「う〜ん。でも迷子だろ?」
「うん。」
「お兄ちゃんが交番まで連れて行ってやるから。」
詩音は手を差し出した。
「うん。・・・グスン。」
男の子は、詩音の手を握りながら、涙を堪えている様子だ。
「名前は?」
「りん。」
「りんか〜。かっこいい名前だな。」
(漢字は凛かな?いい名前だ。)
「りんは、何で一人だったんだ?」
「一人で家をでたらダメって言われてたけど、出ちゃった。それでね、蝶々を追いかけたら、知らないとこにいて、帰ろうとしたけど、帰れなくなったの。」
「そうか〜。車とかも危ないから、もう一人で外にでるなよ〜。」
「うん。ごめんなさい。」
「宜しい。見たことある所あったら言えよ〜。交番より家に帰れるのが一番いいからな〜。」
「うん。」
詩音は、凛の手を握り、ゆっくりと歩幅を合わせて歩く。
「あっ、美琴の家だ。」
詩音は美琴の家が見え、小さく呟いた。
「お兄ちゃん!あそこ!」
凛は、美琴のアパートを指さした。
「えっ?あそこが凛の家か?」
「うん!」
「凛!」
美琴の家の前にいた人影が叫んだ。
「これ、昨日と同じだな。」
人影は、走って近づいて来る。
「あっ、美琴の。」
「凛!」
美琴の母は、詩音に気づいていない。
凛に駆け寄り、強く抱きしめた。
「凛〜。一人で家を出ちゃだめじゃない!」
「うぇーん!ごめんなさい。お兄ちゃんが助けてくれたよー。」
凛は、堪えていた涙がこぼれ落ち、母親に抱きついた。
「はぃはぃ、よしよし。」
少し凛をなだめると、美琴の母は、立ち上がり頭を下げた。
「ありがとうございます!
本当にありがとうございます!」
「いえ、偶然だったんで。でも、良かったです。」
美琴の母は、頭を上げ、詩音を見つめた。
「あっ、詩音くん?だよね?」
「はい。その・・・昨日はひどい事言ってごめんなさい!」
詩音は、美琴の母に謝りたいと昨日からずっと思っていた。
「こちらこそ。ごめんなさいね。」
美琴の母は、頭を下げる詩音の肩に触れ、申し訳無さそうにしている。
「いえ。」
「多分美琴ももうすぐ帰ってくると思うの。良かったら中で少し話しましょ?」
「えっ?はい。」
詩音は、恐る恐る美琴の母の後ろを歩き、美琴の家に上がった。
「おじゃまします。」
「どうぞ。今お茶いれるわね。」
「あっ、すいません。」
「詩音くんには感謝しきれないわ〜。
本当にありがとうね。」
「別に俺は。」
「ふふっ。別に・・・か。」
「えっ?」
「美琴がね、詩音くんの口癖は、別にだって言ってたの。」
「・・・あいつ。」
美琴の母は、コップをテーブルに置き、座った。
「ごめんね。大したおもてなしもできないけど。」
「いえ、お構いなく。
その・・・昨日は本当にすいません。
美琴も大変そうだけど、美琴のお母さんはもっと大変なんだろうなって昨日の夜思って、謝りたかったんです。
無神経な事を言ってごめんなさい。」
詩音は頭を下げた。
「ふふっ。もういいから。
私こそ、頭が混乱してて。
美琴の看病してくれたのに、ごめんなさい。」
「いえ。俺、美琴の事が心配で。
だから、その、俺に何かできる事ありますか?」
「いいのよ。詩音くんには迷惑かけられないから。
それにね、昨日、美琴と話し合ったの。」
「そ、そうですか。」
詩音は少し寂しそうにした。
自分には何もできないんだろうなと思っていたが、面と向かって言われて、現実感が増した。
「昨日ね、美琴と話し合って、夜の仕事は辞める事にしたの。
これからも美琴がアルバイトしてくれるから。
美琴には申し訳無いんだけど、そうする事にしたの。
アルバイトのシフトは減らすのを約束してくれたし、美琴も少しは楽になると思う。」
「そうですか。」
「私は、沢山お金を稼ぐ事ばっかり考えてたんだけどね、美琴に言われたわ。
お金は生活できるだけあればいいって。
美琴がアルバイトのお給料を家に入れてくれる変わりに、今まで美琴がしてくれてた家事とか、弟達のお世話は私がするわ。
美琴は、将来のためになる仕事が出来て、友達とも遊んだりできるって、喜んでくれた・・・情けない親だと思うよね。」
美琴の母は涙を堪えている。
「いえ。俺はすごいと思う。美琴の力になりたい。俺にできる事があれば何でもします。」
「ありがとう。
じゃあこれからも美琴の事よろしくね。」
「は、はい。
でも何で俺にこんな話を?」
「昨日の事もあるし、詩音くんには、沢山助けてもらったって、色々と聞いたの。だから、ちゃんと話しておきたかったの。」
「そうですか。美琴が元気になってくれたら嬉しいです。話てくれてありがとうございます。」
「本当は、美琴から話すって言われてたんだけどね。どこか行こうとしてたのよね?引き留めてごめんね。」
「いえ、美琴が帰ってくるなら、もう行かないので。」
「あ〜、百貨店に行こうとしてたの?」
「はい。美琴、元気だって嘘つくから、確かめに行こうと。」
「ふふっ。じゃあゆっくりして行って〜。」
美琴の母は立ち上がり、キッチンへ向かった。
「お兄ちゃん!終わった?遊ぼ!」
凛がニコニコしなが、詩音のズボンを引っ張っている。
「いいぞー。何して遊ぶ?」
「お馬さんして!」
「ま、マジか。」
詩音は、体力系は・・・と思いながらも、凛を背中にのせて、四つん這いでぐるぐると周る。
「どうだ?楽しいか?」
「うん!」
凛はニコニコと楽しそうに答えた。
「お兄ちゃん!ゲームもしよ!」
「私も!私はオセロ!」
凛は、美琴の兄弟達に囲まれ満更でもなさそうはしゃいでいる。
「へぇ〜。詩音くんって子供好きなんだ?」
「ん?」
詩音は、聞き覚えのある声に、四つん這いで振り向いた。
「ふふっ。楽しい?」
「美琴、帰ってきてたんだ。」
「うん、今帰ってきた。ごめんね。」
「別に。」
「ありがとう。」
「お母さんから、話聞いた。」
「うん。私、ちょっとは余裕できると思うよ。今度、一緒に遊びに行ったりしない?お礼もしたいし。」
「別にいいよ、お礼とか。」
「・・・そう。」
美琴は寂しそうに俯いた。
「遊びに行くだけならいいぞ?」
「いいの?やったー!」
(やっぱり美琴は、喜怒哀楽が忙しい奴だな。)
「ところで、凛の事、ありがとう。
お母さんから連絡もらってバイト抜けてさせてもらって、急いで帰ってきたんだけど、詩音くんが連れて帰ってきてくれたって聞いて、安心した。」
「偶然だし。」
「それでも、ありがとう。」
「うん。」
「お兄ちゃん!進んでよー!」
「はいはい。」
詩音は、美琴の兄弟達とクタクタになるまで遊んだ。
あっと言う間に時間は過ぎた。
夕日が照らす道を、詩音と美琴は歩いている。
「今日はごめんね。」
「いや、俺も以外と楽しんでた。」
「ふふっ。そうなんだ〜。」
「うん。」
「詩音くんは、小さい子供とか苦手そうだなって思ってたんだけど。」
「俺もそう思ってた。」
「そっか〜。でも良かった。」
「何で?」
「ふふっ。べっつに〜!」
「何だよそれ〜。」
「ねぇ、詩音くん。」
「何だよ。」
「今度さ、公園に行かない?」
「いいけど。」
「お礼に、お弁当作る!それくらいならいいでしょ?」
「うん。料理できるんだ?」
「できるよ〜。できなさそうに見える?」
「うん。」
「傷ついた〜。」
「すまん。」
「いいですよ〜だ。」
詩音は、元気を取り戻した美琴を見て嬉しい気持ちになった。
夕日が沈み、辺りは暗くなり始めてていた。
カチカチ。
街灯が音をたてながら、光出す。
「なぁ、美琴。」
「何?」
「美琴の家に行こう。」
「なんで?」
「暗くなったし、心配だから送りたい。」
「いいよ。心配症だな〜。」
「いいから。」
詩音は、美琴の手を取るとそのまま美琴の家に向かって歩き出した。
「ちょ、ちょっと〜。」
美琴は、詩音に手を引かれながら、嬉しそうにしている。
(詩音くん。この手をできれば離さないで下さい。この先もできればあなたとずっと、こうして歩きたい。)
美琴は、詩音の手を握り返し、隣りをあるいた。
「あっ、ごめん。」
詩音は無意識に握った手を離そうとした。
「このまま。手を離したら、どこかに行っちゃうかもよ?」
「何だよそれ。」
急に照れくさくなり、詩音は顔を赤らめた。
「いいから、いいから。」
二人は手をつないだまま、美琴の家に向かった。




