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壁の向こうの君が  作者: 蓮太郎


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7/19

家族。

「よし、美琴の様子を見に行くぞ!」

日曜日の昼、詩音は呑気に身支度を整えていた。



詩音は階段を下りると、リビングの扉を開けた。

「母さん、ちょっと行ってくる。」


「あら、珍しいわね。気をつけてね。」


「うん。」

バタン。

詩音がリビングの扉を閉めると、母はニヤニヤしていた。

「まったく。美琴ちゃんの事好きすぎね。唯一の取り柄の、成績が落ちないといいけど。」

美琴の事しか考えられなくなった息子を、少し心配しながらも、成長を喜んでいた。


詩音は、玄関を出て百貨店へと向かった。

自然と早足になる。

「美琴。」

名前を呟くほど、詩音は美琴の事で頭がいっぱいだった。


少し歩くと、小さな男の子が一人、道に立っていた。


「えっ?あの子・・・もしかして、一人か?」

詩音は辺りを見回すが、親とか保護者の様な人はいない。

「あー。美琴のとこに行きたいのに。」

呟きながらも、小さな男の子を放っておけず、詩音は話しかけた。

「どうしたんだ?迷子か?」


「・・・。」

小さな男の子は、黙っている。


「お〜ぃ。迷子なら、交番行くか?

おまわりさんとこ。」


「知らない人と話したらダメって言われてる。」

男の子は、俯きながら呟いた。


「う〜ん。でも迷子だろ?」


「うん。」


「お兄ちゃんが交番まで連れて行ってやるから。」

詩音は手を差し出した。


「うん。・・・グスン。」

男の子は、詩音の手を握りながら、涙を堪えている様子だ。


「名前は?」


「りん。」


「りんか〜。かっこいい名前だな。」

(漢字は凛かな?いい名前だ。)


「りんは、何で一人だったんだ?」


「一人で家をでたらダメって言われてたけど、出ちゃった。それでね、蝶々を追いかけたら、知らないとこにいて、帰ろうとしたけど、帰れなくなったの。」


「そうか〜。車とかも危ないから、もう一人で外にでるなよ〜。」


「うん。ごめんなさい。」


「宜しい。見たことある所あったら言えよ〜。交番より家に帰れるのが一番いいからな〜。」


「うん。」

詩音は、凛の手を握り、ゆっくりと歩幅を合わせて歩く。


「あっ、美琴の家だ。」

詩音は美琴の家が見え、小さく呟いた。


「お兄ちゃん!あそこ!」

凛は、美琴のアパートを指さした。


「えっ?あそこが凛の家か?」


「うん!」


「凛!」

美琴の家の前にいた人影が叫んだ。


「これ、昨日と同じだな。」

人影は、走って近づいて来る。


「あっ、美琴の。」


「凛!」

美琴の母は、詩音に気づいていない。

凛に駆け寄り、強く抱きしめた。

「凛〜。一人で家を出ちゃだめじゃない!」


「うぇーん!ごめんなさい。お兄ちゃんが助けてくれたよー。」

凛は、堪えていた涙がこぼれ落ち、母親に抱きついた。

「はぃはぃ、よしよし。」

少し凛をなだめると、美琴の母は、立ち上がり頭を下げた。

「ありがとうございます!

本当にありがとうございます!」


「いえ、偶然だったんで。でも、良かったです。」


美琴の母は、頭を上げ、詩音を見つめた。

「あっ、詩音くん?だよね?」


「はい。その・・・昨日はひどい事言ってごめんなさい!」

詩音は、美琴の母に謝りたいと昨日からずっと思っていた。


「こちらこそ。ごめんなさいね。」

美琴の母は、頭を下げる詩音の肩に触れ、申し訳無さそうにしている。


「いえ。」


「多分美琴ももうすぐ帰ってくると思うの。良かったら中で少し話しましょ?」


「えっ?はい。」

詩音は、恐る恐る美琴の母の後ろを歩き、美琴の家に上がった。

「おじゃまします。」


「どうぞ。今お茶いれるわね。」


「あっ、すいません。」


「詩音くんには感謝しきれないわ〜。

本当にありがとうね。」


「別に俺は。」


「ふふっ。別に・・・か。」


「えっ?」


「美琴がね、詩音くんの口癖は、別にだって言ってたの。」


「・・・あいつ。」


美琴の母は、コップをテーブルに置き、座った。

「ごめんね。大したおもてなしもできないけど。」


「いえ、お構いなく。

その・・・昨日は本当にすいません。

美琴も大変そうだけど、美琴のお母さんはもっと大変なんだろうなって昨日の夜思って、謝りたかったんです。

無神経な事を言ってごめんなさい。」

詩音は頭を下げた。


「ふふっ。もういいから。

私こそ、頭が混乱してて。

美琴の看病してくれたのに、ごめんなさい。」


「いえ。俺、美琴の事が心配で。

だから、その、俺に何かできる事ありますか?」


「いいのよ。詩音くんには迷惑かけられないから。

それにね、昨日、美琴と話し合ったの。」


「そ、そうですか。」

詩音は少し寂しそうにした。

自分には何もできないんだろうなと思っていたが、面と向かって言われて、現実感が増した。


「昨日ね、美琴と話し合って、夜の仕事は辞める事にしたの。

これからも美琴がアルバイトしてくれるから。

美琴には申し訳無いんだけど、そうする事にしたの。

アルバイトのシフトは減らすのを約束してくれたし、美琴も少しは楽になると思う。」


「そうですか。」


「私は、沢山お金を稼ぐ事ばっかり考えてたんだけどね、美琴に言われたわ。

お金は生活できるだけあればいいって。

美琴がアルバイトのお給料を家に入れてくれる変わりに、今まで美琴がしてくれてた家事とか、弟達のお世話は私がするわ。

美琴は、将来のためになる仕事が出来て、友達とも遊んだりできるって、喜んでくれた・・・情けない親だと思うよね。」

美琴の母は涙を堪えている。


「いえ。俺はすごいと思う。美琴の力になりたい。俺にできる事があれば何でもします。」


「ありがとう。

じゃあこれからも美琴の事よろしくね。」


「は、はい。

でも何で俺にこんな話を?」


「昨日の事もあるし、詩音くんには、沢山助けてもらったって、色々と聞いたの。だから、ちゃんと話しておきたかったの。」


「そうですか。美琴が元気になってくれたら嬉しいです。話てくれてありがとうございます。」


「本当は、美琴から話すって言われてたんだけどね。どこか行こうとしてたのよね?引き留めてごめんね。」


「いえ、美琴が帰ってくるなら、もう行かないので。」


「あ〜、百貨店に行こうとしてたの?」


「はい。美琴、元気だって嘘つくから、確かめに行こうと。」


「ふふっ。じゃあゆっくりして行って〜。」

美琴の母は立ち上がり、キッチンへ向かった。


「お兄ちゃん!終わった?遊ぼ!」

凛がニコニコしなが、詩音のズボンを引っ張っている。


「いいぞー。何して遊ぶ?」


「お馬さんして!」


「ま、マジか。」

詩音は、体力系は・・・と思いながらも、凛を背中にのせて、四つん這いでぐるぐると周る。

「どうだ?楽しいか?」


「うん!」

凛はニコニコと楽しそうに答えた。


「お兄ちゃん!ゲームもしよ!」


「私も!私はオセロ!」


凛は、美琴の兄弟達に囲まれ満更でもなさそうはしゃいでいる。


「へぇ〜。詩音くんって子供好きなんだ?」


「ん?」

詩音は、聞き覚えのある声に、四つん這いで振り向いた。


「ふふっ。楽しい?」


「美琴、帰ってきてたんだ。」


「うん、今帰ってきた。ごめんね。」


「別に。」


「ありがとう。」


「お母さんから、話聞いた。」


「うん。私、ちょっとは余裕できると思うよ。今度、一緒に遊びに行ったりしない?お礼もしたいし。」


「別にいいよ、お礼とか。」


「・・・そう。」

美琴は寂しそうに俯いた。


「遊びに行くだけならいいぞ?」


「いいの?やったー!」


(やっぱり美琴は、喜怒哀楽が忙しい奴だな。)


「ところで、凛の事、ありがとう。

お母さんから連絡もらってバイト抜けてさせてもらって、急いで帰ってきたんだけど、詩音くんが連れて帰ってきてくれたって聞いて、安心した。」


「偶然だし。」


「それでも、ありがとう。」


「うん。」


「お兄ちゃん!進んでよー!」


「はいはい。」

詩音は、美琴の兄弟達とクタクタになるまで遊んだ。

あっと言う間に時間は過ぎた。



夕日が照らす道を、詩音と美琴は歩いている。

「今日はごめんね。」


「いや、俺も以外と楽しんでた。」


「ふふっ。そうなんだ〜。」


「うん。」


「詩音くんは、小さい子供とか苦手そうだなって思ってたんだけど。」


「俺もそう思ってた。」


「そっか〜。でも良かった。」


「何で?」


「ふふっ。べっつに〜!」


「何だよそれ〜。」


「ねぇ、詩音くん。」


「何だよ。」


「今度さ、公園に行かない?」


「いいけど。」


「お礼に、お弁当作る!それくらいならいいでしょ?」


「うん。料理できるんだ?」


「できるよ〜。できなさそうに見える?」


「うん。」


「傷ついた〜。」


「すまん。」


「いいですよ〜だ。」


詩音は、元気を取り戻した美琴を見て嬉しい気持ちになった。


夕日が沈み、辺りは暗くなり始めてていた。

カチカチ。

街灯が音をたてながら、光出す。


「なぁ、美琴。」


「何?」


「美琴の家に行こう。」


「なんで?」


「暗くなったし、心配だから送りたい。」


「いいよ。心配症だな〜。」


「いいから。」

詩音は、美琴の手を取るとそのまま美琴の家に向かって歩き出した。


「ちょ、ちょっと〜。」

美琴は、詩音に手を引かれながら、嬉しそうにしている。

(詩音くん。この手をできれば離さないで下さい。この先もできればあなたとずっと、こうして歩きたい。)

美琴は、詩音の手を握り返し、隣りをあるいた。


「あっ、ごめん。」

詩音は無意識に握った手を離そうとした。


「このまま。手を離したら、どこかに行っちゃうかもよ?」


「何だよそれ。」

急に照れくさくなり、詩音は顔を赤らめた。


「いいから、いいから。」


二人は手をつないだまま、美琴の家に向かった。


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