親の心子知らず、子の心。
美琴は、疲れきっていた。
これまでの疲れを、睡眠不足を解消するかのように、夕方から眠りについた美琴が目を覚ましたのは、次の日の朝だった。
日も高く上がり、外は明るい。
美琴は、バイトも休むと連絡していた。
今日はゆっくり休める。
そう思いながら、隣りに眠る詩音の寝顔を見つめていた。
(可愛い。詩音くんも私の事好きになってくれないかな。)
幸せいっぱいの気持ちで、美琴はスマホを手に取る。
「わぁー!」
「ん?どうした?」
美琴の叫び声に、詩音が目を覚ました。
「お母さんから着信が。」
「なんでそれで騒いでるんだ?」
「・・・32件。」
美琴は怯えるようにいった。
「それは・・・まずいな。」
「あっ!またかかってきた!」
「でなよ。」
「うん。・・・もしもし。」
「美琴!どこにいるの!?なんで電話出ないのよ!」
「ごめん・・・色々あって友達の家にいます。」
「友達って・・・まさか男の子じゃないわよね?」
「えっ?男の子・・・です。でもね、」
「すぐ帰ってきなさい!バカ!心配したのよ!今すぐ帰ってきなさい!
プー、プー。」
「・・・まずい。お母さんめっちゃ怒ってたよ。」
「俺も一緒に行く。説明するから。」
「・・・助かる。」
美琴は、幸せの絶頂から奈落の底へと突き落とされた気分だった。
美琴と詩音は身支度を整え、階段を下りる。
「あら、おはよう。朝ごはん食べるでしょ?」
「母さん!それどころじゃない!」
俯く美琴の隣りで、思い詰めた様に詩音が叫んだ。
・・・・・。
「なるほど。で、詩音も一緒に行くって事ね。」
「そう。」
「よし!お母さんも一緒に行くわ!」
「余計にややこしくならないか?」
「大丈夫、大丈夫。さっ、いきましょ!」
詩音の母は先陣を切る様に、玄関へ向かう。
「あの!」
美琴は、詩音の母に叫んだ。
「どうしたの?早く行かないと。」
「迷惑ばかりかけてごめんなさい。」
「いいのよ!さっ、いきましょ!」
「未来のお嫁さん。」
母は嬉しそうに呟いた。
楽しそうな母の後ろを、俯きながら二人は歩いていた。
「お母さん、あそこです。」
「よしっ!」
母は気合を入れる様に言った。
「美琴!」
アパートの前で美琴を待っていた美琴の母が駆け寄ってきた。
「なんなんですか!うちの子を!」
美琴の母は、美琴の友達が詩音で、その母親が一緒に来たのだと理解している様で、詩音の母に怒鳴る様に言った。
「ごめんなさい。私も、連絡しておく様に言っておくべきでした。
ただ。」
「ただ、何ですか?」
美琴の母は不機嫌そうに言う。
「美琴ちゃん、すごい熱で寝込んでたので。」
「美琴!だからって何でうちにいないの?」
美琴の母は、心配でおかしくなりそう。
そんな雰囲気だった。
黙って聞いていた詩音だったが、こらえきれずに前に出た。
「美琴のお母さん!」
「な、何?」
「説明する。
美琴は学校で倒れた。
俺が保健室まで運んだ。
美琴は少し寝たけど、よくならなくて、美琴を背負って家まで連れてきた。
そしたら家には誰もいないし、鍵は教室に忘れるし。
俺の家、近くだから俺が連れていった。
美琴は泥のように眠ったよ。
美琴は・・・美琴は疲れ切ってるんだ!電話なんかで目が覚めないくらい!
美琴のお母さん!美琴に甘えすぎだろ!俺、席隣りだけど、どんどん疲れていく美琴の事、もう見ていられない!」
「待って、詩音くん!もういい、いいから!私しかいないの・・・だから。」
美琴は詩音の服の裾をつかみ、訴えるように言うと、張りつめた糸が切れたかの様に、一粒の涙が頬をつたった。
「で、でも。こんなに頑張ってるのに、何も知らないのに、頭ごなしに叱って。
耐えられない!」
「もう、分かりました。
今日はお帰り下さい。」
美琴の母は、俯くとアパートへと歩いていった。
「ありがとうごさいました。
うちの母がすいません。
いつもは、優しくて、素敵なお母さんなんです。本当にごめんなさい。」
美琴は頭を下げると、母に駆け寄り腕を組んだ。
「美琴。」
母の頬には、涙がつたって流れて落ちていた。
「お母さん、ごめんね。
今度、詩音くんの家に謝りに行こうね。」
「そうね。ごめんね美琴。」
美琴の母は、自分も、美琴も限界だと感じていた。
実家に帰り、母親に相談したが、母親は歳を重ねていて、自分と暮らしたら余計に負担になるかもしれない。
今は入る施設を探し始めていると、期待には答えてもらえなかった。
美琴が心配でもあり、泊まるつもりだったが、その日のうちに帰ってきた。
美琴はいなくて、電話にも出ない。
母は頭がおかしくなりそうだった。
と、美琴に謝りながら、話したそうだ。
「詩音、やるじゃない!見直した。」
母は嬉しそうに歩き出した。
「別に。」
「出た、別に〜。」
「美琴と同じ事言うなよ。」
「美琴ちゃんにも別に、別にって言ってるの?嫌われるわよ〜。」
「何だよ。
・・・母さん、その。
色々、ありがとう。」
「いいわよ。私も、美琴ちゃんの力になれる事があれば何でもするから、言いなさいよ〜。」
「うん。ありがとう。」
美琴の事を心配しながらも、詩音は母と一緒に帰路についた。
詩音は、家につくなり、美琴にメッセージを送った。
「大丈夫だった?」
メッセージに既読は付かない。
「心配だな。お母さんと話してるのかな。」
ベッドに横たわり、詩音は天井を見上げた。
「慣れない事するもんじゃないな。
美琴のお母さんにひどい事言ったな・・・なんか疲れた。」
勉強する気にもなれず、詩音はぼーっとしていた。
まぶたが自然に重くなる。
そして、眠った。
ブーブー。
ブーブー。
ブーブー。
スマホが鳴り、詩音は目を覚ました。
外はもう暗い。
「寝てたのか。」
スマホを手に取り、メッセージを開いた。
(詩音くん、ありがとう!)
(お母さんと話した。また話すね。)
(元気になったから、明日からお仕事がんばります!)
「まったく。少しは休めばいいのに。」
(良かったな。あんまり無理するなよ)
っと。
ブーブー。
(ありがとう!明日に備えて寝るね。)
ブーブー。
(また月曜日!)
「寝るの早いな。やっぱり疲れてるんじゃ。」
(うん。おやすみ。)
ブーブー。
(おやすみなさい。)
「あぁ、この湧き上がる感情は何なんだ・・・明日、様子見に行くか。」
詩音は一人呟いた。




