心配なだけ。
カチカチカチカチ。
時計の音さえも耳障りだ。
俺は、眠れずにいた。
時計の針は一時半を指していて、
真夜中だ。
静寂の中、俺の脳裏からはあの子の泣いている姿が離れてくれない。
泣いている姿・・・だけじゃない。
笑顔や、落ち込む姿。
寝息。
頭の中にあの子が居座る。
眠れない。
俺は暗闇の中、スマホを手に取った。
大丈夫・・・かな?
こんな時間にメッセージ送ったら迷惑だよな。
そう思いながら、俺の指先は文章を入力していた。
大丈夫か?
と。
仰向けに寝転びながらメッセージを送った俺は、スマホを持ったまま枕に顔を埋めた。
あ〜。送ってしまった。
寝てるの起こしたりしたら申し訳ないな。
俺は何故?何故メッセージを送ってしまったんだ?
自分の心の中が初めて分からない。
ブーブー。
「起きてたのかな。メッセージかえってきた。」
詩音がスマホに目を移すと、メッセージでは無かった。
「えっ?電話?!」
詩音は恐る恐る、電話に出た。
「もしもし?」
「詩音くん。ごめん。ちょっとだけ声が聞きたいなって思ってたら、メッセージきたから電話しちゃった。」
美琴は周りを気にしている様な様子で、小声で話している。
『別に。』
詩音を真似た美琴と、詩音は同じ言葉をハモった。
「ふふっ。」
「何だよ。マネすんなよ。」
「だって、絶対、別にって言うと思ったんだもん。」
「そうかよ。」
「ねぇ、詩音くんは何でメッセージくれたの?」
「・・・大丈夫かなと思って。お前が頭の中に居座るんだよ。眠れなかった。」
「心配してくれたのね。うれしい!けど・・・お前って言わないで。美琴って呼んで。」
「べ、別に何でもいいだろ?」
「良くないの!早く呼んで。私、明日お仕事だけど、このままじゃ眠れないよ?」
「脅すのか?・・・もう寝ろよ。」
「無理。美琴、おやすみ。って言って。」
「意味分からん・・・。」
「・・・。」
「黙るなよ・・・
あー、分かったよ!
・・・美琴、おやすみ。」
「うん、おやすみ、詩音くん。
ありがとう。」
「うん。じゃあまた。」
「うん。」
プープープー。
電話を切ると少し安心した。
俺はようやく眠る事ができた。
この日は。
ガサガサガサ。
詩音は髪を手でグチャグチャにしながら、机に向かい勉強をしていた。
「ダメだ。集中できない!
数式も言語も何も浮かばない!
あー!俺の頭の中を占領するなー!」
詩音は苛立ちで一人叫んでいた。
ドタドタドタドタドタ。
詩音の大声が聞こえたのか、母親が走って上がって来た。
ガチャ。
ドアが開くと同時に母親が部屋に飛び込んできた。
「どうしたの詩音!珍しく大声なんて出して!」
「あーごめん。うるさかった?」
「別に大丈夫だけど・・・あなたは大丈夫なの?」
「俺、頭の中がおかしい。」
「何?!病院行く?」
「病院は行かないけど・・・俺の頭の中が占領されていて、勉強が手につかないんだ。」
「占領?誰に?何に?」
母親は不思議そうに聞いてくる。
「金髪で喜怒哀楽の激しい女子。俺の頭の中で、泣いたり笑ったり、居眠りしたりして、その子が俺の頭の中を占領してるんだ!」
「何でその子が頭の中を占領してるの?」
「・・・分からん。でも・・・心配なんだ。」
「そう。じゃぁ、いっそう会いに行けば?」
母親は、詩音の背中を叩いた。
「そうか!心配なら、心配じゃない様にすればいいんだ!何で気づかなかったんだ!俺ちょっと出てくる!」
詩音は、勉強道具をカバンに詰め、足早に部屋から出て行った。
詩音の母は、ニヤニヤしていた。
「そっか〜。詩音が初恋かぁ〜。金髪って言う所が少し不安だけど・・・いい子だといいな〜。まぁ、詩音の選ぶ子だし、大丈夫か!」
嬉しくもあり、寂しくもあったが、詩音の母は心の中で詩音を応援した。
「ハァハァハァ。」
詩音は、昨日座ったベンチの前に立ち、店の中を見回した。
「いた!元気そう・・・だよな?」
詩音は美琴を見つけると、元気そうに頑張る姿を見て安心し、ベンチに座った。
そして、参考書を開き勉強を始めた。
(少し安心したら、問題が解ける!)
詩音は、夢中で参考書の問題を解き続けた。
「詩音くん?お〜ぃ。お〜ぃ!」
「わぁ!びっくりした!」
詩音は集中していて、呼ばれた事に気づいていなかった。
「詩音くんはそこで何を?」
「えっ?勉強だけど?」
「何でそこで?」
「・・・美琴が・・・美琴が俺の頭を占領するんだよ!心配で心配で、集中できなかった。で、簡単な事に気づいたんだ。美琴が見える所なら心配しなくて済むって。だからここで勉強する事にした。」
「ふふっ。何それ。一歩間違えたらストーカーだよ。」
「・・・帰る。」
詩音は教科書を閉じ立ち上がり、帰ろうとする。
「待ってよ。」
美琴は集中の腕をの裾を掴んだ。
「俺・・・ストーカーみたいなのか?ごめん。ただ、心配だったんだ。」
「ストーカーだなんて思ってないよ。」
「でもさっき。」
「大丈夫。座って。」
「うん。」
詩音はまたベンチに座り、美琴を見上げた。
「詩音くん。今日は朝から出勤だったから17時までなんだ。家、多分近いよね?一緒に帰らない?」
「いいけど。」
「ふふっ。別にじゃなかった〜。
じゃあ、お仕事頑張ってくるね!」
「うん。無理しすぎるなよ。」
「ありがとう!」
美琴は小さく手を振りながら、店の中に入って行った。
詩音は、集中力を完全に取り戻した。
ベンチに座り、参考書に集中し続ける。
「なるほど!ようやく理解できた!面白い!この数式を解明した奴は天才だ!」
「ふふっ。何それ?魔法の呪文?」
視界に突然現れ、参考書を遮る金色。
いい匂いがする。
落ち着く匂い。
美琴が参考書を覗き込んでいた。
「って!声かけろよ!」
「かけたよ?ずっと無視されてた。
傷つきました。」
「それは・・・すまん。いつからいたんだ?」
ベンチの隣りに座る美琴に、詩音は問いかける。
「5分くらい前からかな。」
「そうか。」
「ねぇ、ちょっと見せて。」
詩音の参考書を美琴は奪いとり、見つめている。
「分かるか!?この数式のすごさ!」
「ごめん・・・返す。」
「えっ?」
「これって、何年で習うの?」
「多分、数学を専攻する大学とかじゃない?」
「あー!良かったー!これを高校で習うなら私の卒業は永遠に来ないと思ったよ。」
「なんだそれ。俺が教えてやろうか?」
「結構!でも・・・試験勉強の時は勉強教えて欲しい。」
「分かった。」
「ふふっ。ありがとう。
じゃあ、帰ろ!」
「仕事終わったの?」
「うん。さっき終わったよ〜!って言いましたけど。」
「悪い。」
詩音は参考書をカバンにしまうと、立ち上がった。
「じゃ、帰ろうか。」
「うん!」
二人は微妙な距離感で、並んで歩き始めた。




