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壁の向こうの君が  作者: 蓮太郎


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3/19

心配なだけ。

カチカチカチカチ。

時計の音さえも耳障りだ。


俺は、眠れずにいた。

時計の針は一時半を指していて、

真夜中だ。


静寂の中、俺の脳裏からはあの子の泣いている姿が離れてくれない。

泣いている姿・・・だけじゃない。

笑顔や、落ち込む姿。

寝息。

頭の中にあの子が居座る。

眠れない。


俺は暗闇の中、スマホを手に取った。

大丈夫・・・かな?


こんな時間にメッセージ送ったら迷惑だよな。

そう思いながら、俺の指先は文章を入力していた。


大丈夫か?


と。


仰向けに寝転びながらメッセージを送った俺は、スマホを持ったまま枕に顔を埋めた。

あ〜。送ってしまった。

寝てるの起こしたりしたら申し訳ないな。


俺は何故?何故メッセージを送ってしまったんだ?


自分の心の中が初めて分からない。


ブーブー。


「起きてたのかな。メッセージかえってきた。」

詩音がスマホに目を移すと、メッセージでは無かった。

「えっ?電話?!」


詩音は恐る恐る、電話に出た。


「もしもし?」


「詩音くん。ごめん。ちょっとだけ声が聞きたいなって思ってたら、メッセージきたから電話しちゃった。」

美琴は周りを気にしている様な様子で、小声で話している。


『別に。』

詩音を真似た美琴と、詩音は同じ言葉をハモった。

「ふふっ。」


「何だよ。マネすんなよ。」


「だって、絶対、別にって言うと思ったんだもん。」


「そうかよ。」


「ねぇ、詩音くんは何でメッセージくれたの?」


「・・・大丈夫かなと思って。お前が頭の中に居座るんだよ。眠れなかった。」


「心配してくれたのね。うれしい!けど・・・お前って言わないで。美琴って呼んで。」


「べ、別に何でもいいだろ?」


「良くないの!早く呼んで。私、明日お仕事だけど、このままじゃ眠れないよ?」


「脅すのか?・・・もう寝ろよ。」


「無理。美琴、おやすみ。って言って。」


「意味分からん・・・。」


「・・・。」



「黙るなよ・・・

あー、分かったよ!

・・・美琴、おやすみ。」


「うん、おやすみ、詩音くん。

ありがとう。」


「うん。じゃあまた。」


「うん。」


プープープー。


電話を切ると少し安心した。

俺はようやく眠る事ができた。

この日は。



ガサガサガサ。

詩音は髪を手でグチャグチャにしながら、机に向かい勉強をしていた。

「ダメだ。集中できない!

数式も言語も何も浮かばない!

あー!俺の頭の中を占領するなー!」

詩音は苛立ちで一人叫んでいた。


ドタドタドタドタドタ。

詩音の大声が聞こえたのか、母親が走って上がって来た。

ガチャ。

ドアが開くと同時に母親が部屋に飛び込んできた。

「どうしたの詩音!珍しく大声なんて出して!」


「あーごめん。うるさかった?」


「別に大丈夫だけど・・・あなたは大丈夫なの?」


「俺、頭の中がおかしい。」


「何?!病院行く?」


「病院は行かないけど・・・俺の頭の中が占領されていて、勉強が手につかないんだ。」


「占領?誰に?何に?」

母親は不思議そうに聞いてくる。


「金髪で喜怒哀楽の激しい女子。俺の頭の中で、泣いたり笑ったり、居眠りしたりして、その子が俺の頭の中を占領してるんだ!」


「何でその子が頭の中を占領してるの?」


「・・・分からん。でも・・・心配なんだ。」


「そう。じゃぁ、いっそう会いに行けば?」

母親は、詩音の背中を叩いた。


「そうか!心配なら、心配じゃない様にすればいいんだ!何で気づかなかったんだ!俺ちょっと出てくる!」


詩音は、勉強道具をカバンに詰め、足早に部屋から出て行った。


詩音の母は、ニヤニヤしていた。

「そっか〜。詩音が初恋かぁ〜。金髪って言う所が少し不安だけど・・・いい子だといいな〜。まぁ、詩音の選ぶ子だし、大丈夫か!」

嬉しくもあり、寂しくもあったが、詩音の母は心の中で詩音を応援した。



「ハァハァハァ。」

詩音は、昨日座ったベンチの前に立ち、店の中を見回した。


「いた!元気そう・・・だよな?」

詩音は美琴を見つけると、元気そうに頑張る姿を見て安心し、ベンチに座った。


そして、参考書を開き勉強を始めた。

(少し安心したら、問題が解ける!)

詩音は、夢中で参考書の問題を解き続けた。


「詩音くん?お〜ぃ。お〜ぃ!」


「わぁ!びっくりした!」

詩音は集中していて、呼ばれた事に気づいていなかった。


「詩音くんはそこで何を?」


「えっ?勉強だけど?」


「何でそこで?」


「・・・美琴が・・・美琴が俺の頭を占領するんだよ!心配で心配で、集中できなかった。で、簡単な事に気づいたんだ。美琴が見える所なら心配しなくて済むって。だからここで勉強する事にした。」


「ふふっ。何それ。一歩間違えたらストーカーだよ。」


「・・・帰る。」

詩音は教科書を閉じ立ち上がり、帰ろうとする。


「待ってよ。」

美琴は集中の腕をの裾を掴んだ。


「俺・・・ストーカーみたいなのか?ごめん。ただ、心配だったんだ。」


「ストーカーだなんて思ってないよ。」


「でもさっき。」


「大丈夫。座って。」


「うん。」

詩音はまたベンチに座り、美琴を見上げた。


「詩音くん。今日は朝から出勤だったから17時までなんだ。家、多分近いよね?一緒に帰らない?」


「いいけど。」


「ふふっ。別にじゃなかった〜。

じゃあ、お仕事頑張ってくるね!」


「うん。無理しすぎるなよ。」


「ありがとう!」

美琴は小さく手を振りながら、店の中に入って行った。



詩音は、集中力を完全に取り戻した。

ベンチに座り、参考書に集中し続ける。

「なるほど!ようやく理解できた!面白い!この数式を解明した奴は天才だ!」


「ふふっ。何それ?魔法の呪文?」


視界に突然現れ、参考書を遮る金色。

いい匂いがする。

落ち着く匂い。

美琴が参考書を覗き込んでいた。

「って!声かけろよ!」


「かけたよ?ずっと無視されてた。

傷つきました。」


「それは・・・すまん。いつからいたんだ?」

ベンチの隣りに座る美琴に、詩音は問いかける。


「5分くらい前からかな。」


「そうか。」


「ねぇ、ちょっと見せて。」

詩音の参考書を美琴は奪いとり、見つめている。


「分かるか!?この数式のすごさ!」


「ごめん・・・返す。」


「えっ?」


「これって、何年で習うの?」


「多分、数学を専攻する大学とかじゃない?」


「あー!良かったー!これを高校で習うなら私の卒業は永遠に来ないと思ったよ。」


「なんだそれ。俺が教えてやろうか?」


「結構!でも・・・試験勉強の時は勉強教えて欲しい。」


「分かった。」


「ふふっ。ありがとう。

じゃあ、帰ろ!」


「仕事終わったの?」


「うん。さっき終わったよ〜!って言いましたけど。」


「悪い。」

詩音は参考書をカバンにしまうと、立ち上がった。


「じゃ、帰ろうか。」


「うん!」


二人は微妙な距離感で、並んで歩き始めた。

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