(仮)の限界。
イルミネーションの輝く町中の公園。
「お待たせー!ごめん。待たせて。」
「大丈夫、大丈夫。イルミネーション綺麗だな。 行こうか。」
「うんっ!」
恋人達は待ち合わせて、イルミネーションの先に消えて行く。
「なぁ、安藤。」
「何だ〜?」
「今日、なんで4人なんだ?」
「二人が良かったのか?」
「いや、安藤が二人が良かったんじゃと思ったんだが。」
「まぁな。手間のかかる親友のためだ。我慢してやるよ。」
「親友か・・・ありがとう。」
詩音は嬉しそうにする。
「美琴ちゃんがな、(仮)なのに二人でイルミネーションなんて誘えな〜い!とか言うらしいからさ。」
「そ、そうか。」
(やっぱり美琴は優しいから俺の彼女を演じてくれてるだけなんだ。)
詩音と美琴の心は、中々交わる事が無かった。
「ごめーん!お待たせ!」
詩音と安藤に渚が声をかける。
「お待たせ。」
渚の後ろから、照れくさそうに美琴が顔をだす。
(か、可愛い。今まで気づかなかった。美琴・・・すごく可愛い。白いコートに金の長い髪が映えて、天使みたいだ。)
「何?」
美琴は、言葉を発する事を忘れ、自分を見つめてくる詩音に不思議そうに問いかけた。
「お〜ぃ!詩音く〜ん!」
「あっ!すまん。」
詩音は我に返った。
「二人行っちゃったよ?」
「えっ?あっ、行こうか。」
「うん!」
美琴は、詩音の腕を取り密着して歩き出す。
「今日もくっつくんだな。」
何気なく詩音が言うと、美琴は目を細めて詩音を睨んだ。
「嫌なの?」
「・・・う、嬉しい。」
「えっ?」
美琴は顔を赤くした。
「なぁ、美琴。」
「何?」
「俺、気づいたんだけどさ。」
(えっ?えっ?このタイミング?まだ心の準備ができてないですー!)
「な、何?」
「はぐれたみたいだ。」
美琴は、辺りを見回した。
「二人、いないね。」
(まただー!思わせぶり発言!わざとなの〜?!それはそうと・・・渚の奴、最初から私達といるつもり無かったなー!騙された・・・でも、渚。ありがとう。)
美琴は、渚に感謝する様に詩音の腕におでこを当てた。
「あっ、キッチンカーだ。」
「ほんとだ〜。公園デートを思いだすね。」
「うん。何か温かい飲み物でも買う?」
(で、で、デート?あれはデート?と言う認識でいいのか?!)
「詩音くん、何にする?」
『ホットレモンティー。』
美琴は、詩音の変事に被せてきた。
「ふふっ。正解だ〜。」
「正解だ。」
「すいませ〜ん!ホットレモンティーを2つ下さい!」
人気のないイルミネーションの裏のベンチに二人は座った。
「暖かい。」
美琴はレモンティーを両手で持ち、手を温めている。
「暖かいな。安藤達どこいったんだろうな〜。あいつらと出かけると、必ずはぐれるよな。」
「そうだね〜。」
(夏祭りの時と反対だな。今度は私が頑張らないとね。)
「ねぇ、詩音くん。」
「何?」
「彼女(仮)・・・いつまでする?」
「えっ?・・・もう嫌か?」
「嫌じゃないよ。」
「そ、そうか。良かった。」
「良かったんだ〜。」
「えっ?うん。美琴が彼女のふりしてくれる様になった日から告白されなくなったし、すごく助かってる。」
「そうですか〜。」
美琴は少し不満気に俯いた。
「俺何か気に障る事言った?」
詩音は、俯いた美琴の顔を覗き込んだ。
「別に。見ないで。」
美琴は、詩音の視線をそらす様に、前かがみになった詩音の背中に頬をのせた。
「美琴?」
詩音はどうしていいか分からず固まった。
「ね〜。詩音くん。」
「何?」
「そのカッコ、疲れない?」
「疲れてきた。」
「だよね〜。」
「起き上がっていいか?」
「問題です。例えばさ〜。こう言う時、本物の恋人だったらどうすると思う?」
「えっ?黙って起き上がる彼氏の動きに合わせて、彼女が体を起こして、起き上がった彼氏が彼女を抱きしめる?とか?」
「ふふっ。まじめに答えるなよ。」
「えっ?問題じゃなかったのか?」
「じゃぁ、それやってみよ〜。」
「いや、俺達は。」
「いいから。早く。」
美琴は、詩音を遮る様に言う。
「分かった。」
詩音は体を起こし、それに合わせて美琴は体を起こした。
詩音は、美琴の肩に腕を回し、抱き寄せた。
顔が近い。
二人の心臓の鼓動は、全力疾走をした後の様に、ドキドキと音をたてている。
「ふふ。これは・・・正解だね。」
「多分正解だな。」
美琴は、恥ずかしそうに詩音の胸に顔を埋めた。
しばらく離れていた時間を埋める様に、二人はしばらくそのまま動かなかった。
動きたく無かった。
ふと、美琴が顔を上げ、詩音を見つめた。
口を閉じ、美琴は少し顔を上に向けながら、ゆっくりと目を閉じた。
「えっ?美琴?」
詩音は戸惑っている。
美琴は黙って、動かない。
数秒の沈黙の後、詩音は抱きしめていた腕をほどき、美琴の両肩を持ち、少し体を離した。
「美琴?」
美琴はゆっくりと目を開けると、不満気にしている。
「俺達、ホントの恋人じゃないのにキスはダメだろ?」
「いいよ。私は。今・・・したい。」
「そ、それは俺だから?それとも・・・」
「それとも?」
「クリスマスだから、相手が仮の彼氏でもいいからキスしてみたいとか?」
美琴はしばらく黙り、俯いている。
「・・・詩音くんだからに決まってる。」
美琴は小さく呟いた。
「えっ?何?」
「詩音のバカ!アホ!大っきらい!」
立ち上がった美琴の頬には涙が流れている。
「ご、ごめん。俺、何か」
「うるさい!うるさい!うるさーい!意気地なし!ヘタレ!もう知らない!」
美琴はそう言い放つと、人混みの中に走って消えて行った。
「美琴?・・・大嫌いって・・・嫌われた。」
詩音は俯きながら立ち上がり、トボトボと家に帰ろうと歩き出した。
「あれっ?高倉くん?」
詩音が振り向くと、安藤と渚が立っていた。
「高倉どうしたんだよ?ゾンビみたいな顔してるぞ?と、いうか美琴ちゃんは?」
「俺、嫌われた。美琴、怒って帰った。
・・・あんな美琴、初めて見た。」
詩音が事の真相を語ると。
「ばっかじゃない!」
渚は怒り狂っている!
「安藤!私、美琴のとこ行くから!」
「高倉ー!この仮はデカいぞ!」
安藤も珍しく怒っている。
「渚、気をつけてな。」
「うん。ごめんね。」
「お互い親友のためだしな。」
「安藤・・・そう言うとこ。」
「俺も。」
二人は微笑み合った。
「さー!高倉!説教だ!」
詩音は、石畳の上に正座している。
渚を見送ると、安藤の説教が始まった。
通り過ぎるカップルは、正座する詩音を見てクスクスと笑いながら通り過ぎる。
「分かったか!お前は頑張った美琴ちゃんにひどい事言ったの!」
「美琴・・・俺の事。俺・・・嫌われた。」
「何だよ!初めて人と話した魔獣みたいなしゃべり方しやがって。ほんとに重症だわお前。」
「すまん。安藤。色々すまん。俺・・・今日は帰る。」
「何でそうなるんだよ!これから美琴ちゃんとこ行って謝るんだよ!」
「俺、もう嫌われたから。」
「そ、それは言葉のあやってやつだよ。いいから行くぞ!」
「いや、帰る。」
詩音は正座で痺れた足でヨレヨレとゆっくり歩き、人混みに消えた。
「はぁ。ダメかもな、あの二人。」
安藤は、頭を抱えて渚に連絡しながら、合流しようと歩き出した。
この日、美琴もひどい落ち込み様で、詩音を待たず、すぐに帰ってしまったと、安藤は渚から報告を受けた。
縮まっては離れる二人の距離に安藤と渚はガッカリして、イルミネーションの美しさも半減した感覚を覚えた。
「この仮、いつか恋人になった二人に返してもらおうね。」
「当たり前だ!次は、初日の出と初詣か〜。渚、あいつらうまくおびき出すぞ!」
「ほんと安藤はおせっかいだね〜。
私もだけど。
いつか4人でちゃんとデートしたいね。」
「うん。楽しみだな。」
二人は、人の少し少なくなったイルミネーションの中、ベンチに座り励まし合う様に寄り添った。




