恋。
美琴は、いつもの通学路をトボトボと歩いていた。
「足が重い。」
通学路の途中に詩音の家はある。
「詩音くん。」
美琴は、詩音の家を見て小さく呟いた。
詩音の家を見ながら歩いていると、ドアが空いた。
「チャンス!」
美琴が走り出そうとした時、隣りの家から理乃が出て来た。
理乃は、詩音に飛びついて引っ張る様に歩き出す。
「家隣りとかあり?しかも、絶対あの子、詩音くんが出てくるの待ってたよね?あー!もう!」
美琴は走り出した。
「詩音くん!おはよう!」
美琴は、沈んでしまっている心を隠す様に、声をかけながら、理乃の反対側の腕に絡みついた。
「美琴、おはよう。」
詩音は照れくさそうにする。
(顔赤い。まだ私にも・・・?)
「一緒に学校行こっ?」
美琴は、理乃を無視する様に詩音に話しかけた。
「うん。」
詩音は、嬉しそうだ。
(何よ!詩音!嬉しそうにしちゃって!宣戦布告はミスったかな。)
「詩音、今日も一緒に帰ろうよ〜。」
理乃も負けじと、詩音に話しかける。
「別にいいけど。」
詩音は両腕に美琴と理乃がくっついた状態で登校する。
その日中に、詩音争奪戦が始まったと、面白おかしく学校では噂がひろがった。
「おはよう渚。」
教室に着くと、美琴は疲れた表情で席に座った。
「美琴、おはよう。どうしたの?えらく疲れたご様子で。」
「登校の時、理乃と詩音くんを取り合う感じになってさ〜。疲れた。」
「まだ授業始まらないし、高倉くんの所いってきたら?」
「無理ー!疲れました。私、争い事とか向いてないんだよね〜。」
「あの子、まだまだ元気よ。」
渚は、理乃を見て呆れる。
「頑張れー。」
渚は美琴の耳元で、小さく呟く。
「とりあえず、昼休みくらいまで充電させて〜。」
美琴は机に伏せながら、渚を見つめた。
「はいはい。
私も安藤も協力するからね〜。
幸い、高倉くんの反対の隣は安藤だし。」
「ありがとう〜。」
美琴は、力無く答えた。
美琴が詩音をチラッと見ると、勝ち誇る様に理乃がこちらを見ていた。
「ムカつく〜。」
「めっちゃこっち見てるね。」
「あ〜ぁ。所でさ。」
「何?」
「渚は、ずっと安藤って呼んでるの?」
「えっ?安藤で慣れてるから。」
「二人きりの時に、蓮くんって呼んだら燃え上がるかもよ?」
美琴は、机にふせながらニヤニヤしている。
「い、いいよ安藤で。」
「たまに顔を出す女の子な渚、たまりませんな〜。」
「美琴ー。」
渚は冗談まじりに怒っている。
「ふふっ。でも、安藤くんは渚って呼んでるんだし、呼んでみたら?」
「か、考えとく。」
「あー!いいな〜。」
美琴は、机に伏せて視界を遮った。
「まぁ、がんばりましょ。」
渚はもう一度、美琴の肩を叩いた。
美琴のがんばったり、がんばらなかったりそんな日常がしばらく続いた。
ずっと理乃がベタベタくっついているのもあったが、詩音からは、美琴の所に来たりしたない。美琴は戦意を失い始めていた。
「美琴、大丈夫?」
「渚〜。私はもう疲れたよ。」
いつもの様に机に顔を伏せた。
「そうだね。諦める?」
ガラ。
美琴は体を起こした。
「やだ。諦めるのは。」
「なら、いっそう告白したら?」
「う〜ん。今の状態じゃきっとうまく行かないよ。」
「・・・確かに。理乃恐るべしだわ。」
「理乃は疲れないのかな。」
「あの子、メンタル強そうよね〜。」
渚は、楽しそうに詩音と話す理乃を見つめていた。
「こんな毎日がダラダラと過ぎてくのやだ〜。詩音くんはどう思ってんだろ〜。」
「ホントにね。美琴も他の男の子と仲良くしてみたら?」
「それはいい。興味無いし。」
「あら〜、バッサリと。」
「うん。でも、渚、ありがとう。」
それから美琴は、しばらく詩音に近づくのをやめた。
学校では、詩音争奪戦の勝者は理乃だとか、詩音と理乃が付き合ったとか、噂が飛び交った。
「ねー!詩音。」
「何だ?」
「ちょっと寄り道したい。」
「別にいいけど。」
いつもの学校帰り、理乃は詩音を公園に連れて行った。
(詩音、最近元気ないな。)
理乃は、わざと明るく演じていたが、詩音の心の中に美琴がいる事は分かっていた。
「ベンチ座ろっ!」
理乃は詩音の腕を引く。
二人はベンチに座った。
理乃は、詩音を見つめている。
「何だ?顔に何か付いてるか?」
「何も。」
「そう。・・・見すぎじゃない?」
「詩音。私達が付き合ってるって噂になってるの知ってる?」
「えっ?」
詩音は困った表情をする。
(あからさまにそんか顔しないでよ。)
理乃は、涙がこぼれそうなのを堪えていた。
「詩音、私ね、詩音が好き。付き合って下さい。」
理乃は詩音を、顔を赤くして見つめる。
「・・・ごめん。それはできない。」
「何で?私の事嫌い?」
理乃は、詩音の腕を掴んだ。
詩音は、理乃の腕をつかんで優しく払いのけた。
「俺、好きとか分からないし、ずっと分からないままでいいと思ってたんだ。でも、俺・・・人を好きになったみたいだ。」
「あ〜ぁ。どうせ美琴ちゃんでしょ?」
「えっ!?」
詩音は顔を赤くした。
「ふふっ。分かりやす。」
「すまん。だから付き合えない。」
「じゃあ、私の事ふったんだから、ちゃんと美琴ちゃんに気持ち伝えなさいよ!」
理乃は立ち上がり、少し離れると、手を振った。
「邪魔してごめんね。」
理乃は小さく呟くと、走り去って行った。
理乃の頬を、涙が絶え間なく濡らしていた。
「理乃・・・ごめん。
でも俺、緊張して美琴に近づけなくなった。どうしたらいいんだろう。
恋なんてしたくなかったな・・・苦しい。」
詩音は立ち上がり、トボトボと家に向かって歩き出した。




