好き。
「なぁ、高倉。」
「何?」
「女子、遅くねーか?
早く来ないかなー。」
「浴衣着るって言ってたし、時間かかってんじゃないの?」
「分かるけどさー!」
神社の入り口で、詩音と安藤は待っていた。
神社の鳥居の向こう側には、夜店が立ち並び賑わっている。
「祭り、始まったとこなんだし、大丈夫だよ。」
「お前さ〜、たまに大人びてるよな〜。」
「それはどうも。」
詩音は、神社の石垣にもたれかかる。
「なぁ、高倉。」
「何?」
「俺、今日告白する。」
「はっー?だ!誰に?!告白ってあの告白か?」
「決まってるだろ?あ〜。堺さんじゃないから安心しろ。」
「い、いや、別に。
じぁ、佐藤さんか?」
「そうだ。なんかさ、好きとか分からなかったんだけどさ、最近、あいつといるとこう、胸の辺りが変な感じだってきづいたんだよ。でさ、気づいたんだ。これは好きって事なんじゃないかって。
渚、結構モテててさぁ。
気づいた以上は、誰にも渡したくない!だから俺は決意した!」
「そうか。頑張れ。」
「お前さぁ、ここはもっと盛り上がる所だろ?」
「じゃあもっと盛り上がってくれる相手に報告しろよ。」
「いや、なんでだろうな〜。他の奴らには言いたくなかったんだけど、お前には言いたくなった。」
「そ、そうか。まぁ、応援はしている。」
「ありがとよっ!」
安藤は、少し緊張が解れた表情をしていた。
(なるほどな。緊張してたからソワソワしてたんだな。好き・・・か。)
詩音は、自分の心の中をのぞいていた。
目を閉じると、美琴の笑顔、泣き顔、百貨店での水着姿。
「あー!いかん!これはダメだ!」
詩音は手で鼻を覆う。
(だ、大丈夫そうだ。)
「何がダメなの〜?」
声のする方を向くと、浴衣姿の美琴と、渚が立っていた。
「べ、別に。」
「今何か良からぬ事を思い出してたよね?鼻に手を当てて、あっ、大丈夫みたいな?」
「・・・。」
(美琴には敵わないな。見透かされているみたいだ。)
「おぃ。黙るなよ。」
美琴はふざけた様子で、ひじで詩音をつついた。
「それより、見てよ!浴衣どう?」
美琴と渚は、腕を広げて浴衣姿をお披露目する。
「・・・。」
「君たち、ダメだね〜。可愛いとか言えないの?」
渚は不満気に安藤を見つめる。
「あ、うん。」
「あぁーぁ。もういいや。行こっ!」
渚は、安藤の腕に絡むと、歩き出した。
「おっ、おい!渚?」
安藤は顔を赤くしながら引っ張られる様に歩き出した。
(わぁ〜!渚、積極的!)
「で、詩音くんは?どうですかこの浴衣。」
「か、可愛い。」
「ふふっ。無理やり言わせたみたいだけど、まっいいか。行こっ。」
美琴は照れくさそうに、詩音に腕を組むと、歩き出した。
(いつも以上に、距離が)
詩音も、顔を赤らめながら歩き始めた。
「なぁ!射的しようぜ!」
安藤は目を輝かせて振り向いた。
「いいね〜!」
美琴も射的の夜店を見て、嬉しそうだ。
4人は、順番に射的を楽しんだ。
「あーぁ。取れなかった〜!」
渚は、悔しそうに歩き出した。
「これ、やるよ。」
安藤は、打ち落としたぬいぐるみを渚に渡した。
「えっ!いいの?妹にあげたら?」
「な、渚にもらって欲しい。」
「そ、そう?ありがと。」
渚は嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめた。
「俺も、これ。」
詩音も、ぬいぐるみを美琴に渡した。
「いいの?」
「うん。」
「ありがとう!」
美琴は、犬のぬいぐるみを高く掲げて見つめた。
「可愛い。」
「な、何だが美琴に似てるな。」
「何?詩音くんは私が犬に見えてるの?」
美琴は、頬を膨らませてスネている。
「いや、その、何だ?外見とかじゃなくてさ。」
「いいですよ〜だ。」
美琴は、照れくさそうにぬいぐるみを抱きしめた。
「痛っ。」
少し歩くと渚がしゃがみ込んだ。
「大丈夫か?」
安藤は、しゃがみ込み渚を覗き込んだ。
「足から血が出てるぞ!」
安藤は騒ぎ出す。
「下駄、履きなれないから。ごめん。」
「安藤くん、あのベンチまで渚を運んで!お姫様抱っこで!」
美琴はニヤニヤしながら言う。
「分かった!」
「ちょ、ちょっと安藤!」
「暴れるな!いくぞ。」
「は、はい。」
渚を抱きかかえた安藤の後ろを、美琴はニヤニヤしながらついていく。
安藤の腕の隙間から顔を出した渚は、目を細めて美琴を睨んでいた。
「こわっ!」
美琴は、笑いながら渚にウインクした。
「大丈夫か?」
渚をベンチに座らせた安藤は、しゃがみ込むと渚の足を自分の腿にのせた。
「ちょっと安藤、いいよ。足汚いよ。」
黙って安藤は、渚の傷を見ている。
「痛そう。」
「渚、はい。」
美琴は、バンドエードを渚に手渡した。
「あ、ありがとう。美琴って女の子だね。私、ガサツだから。」
渚は少し悲しそうにする。
「俺が貼ってやるよ。」
「い、いいよ!自分でやるから。」
渚は顔を赤くしている。
「いいから。」
「いいから〜。」
美琴は、渚の肩を優しく叩いた。
「私達は、もう少し見てくるから、ごゆっくり〜。」
美琴は、詩音の手を掴むと歩き出した。
「美琴、いいのか?」
「いいの、いいの。」
美琴は、ニヤニヤしている。
(こんないい雰囲気、今二人きりにしないでいつするのよ〜!キャー!)
「美琴!」
渚が叫んだ。
美琴が振り向くと、渚は少し照れた様な顔をしている。
「ありがとう。」
渚は小さく呟いたが、美琴には伝わった。
美琴は、胸の前に腕を上げて手を握り、
頑張れ!と伝えた。
「あいつら白状だな!歩けない渚をおいてくなんて。どんなけ祭り楽しみたいんだよ。」
バンドエードを貼り終え、安藤は渚の隣りに座った。
「違うよ。バカ。」
「えっ?」
「いい雰囲気だから、気をつかってくれたんだよ。まぁ〜それは美琴だけだろうけど。」
「どういう事?」
安藤は首をかしげている。
「私ね、安藤の事がずっと前から、その・・・す」
「ちょ、ちょっと待て!」
安藤は、突然、渚の口を手で塞いだ。
渚は、安藤の腕を持って口から話した。
「な、何?今私、真剣な話しているんだけど?」
(もしかして、安藤・・・気づいてて聞きたくないとか?)
「渚、お前・・・今。」
「そうだよ。だから聞いて。」
「聞かない。」
「・・・。」
渚の目尻には涙がたまっている。
涙が俯くと、一粒の涙が頬をつたって浴衣に落ちた。
「聞くのも嫌?」
「ち、違う!ごめん。泣かせて・・・俺・・・俺は!渚が好きだ!大好きだ!・・・・って・・・俺から言いたかった。」
安藤は、恥ずかしそうに俯いた。
「うぇ~ん!」
渚は泣き出した。
「な、なんで泣くんだよ!」
「だって、だってー!片思いだと思ってたから〜。」
「俺、好きとか分からなかったけど、気づいたんだ。ずっと前から渚が好きだったんだって!渚を誰にも渡したくたい。
俺の、俺の彼女になってくれないか?」
「はい、喜んで!」
渚は、安藤の胸に飛び込み強く抱きしめた。
安藤も、恐る恐る腕を回し渚を優しく抱きしめた。
「と、言う展開だったんだけど〜。」
新学期初日、美琴は、渚と屋上にいる。
ベンチに座り渚からの報告を、美琴は聞いていた。
「キャー!いいな、いいなー!
渚!おめでとう!」
「ありがとう。」
渚は珍しく照れている。
「照れちゃって!可愛いー!」
「もぅ!やめてよ。で?そっちは?」
「こっちはね〜。」
美琴は俯いて立ち上がった。
屋上の手摺に手をかけた。
「詩音のバカー!」
「・・・あースッキリ!」
「始業式終わって生徒ほとんどいないと思うけど、大丈夫?誰かに聞かれたんじゃない?」
「いいの、いいの。私はどうせ嫌われ者ですから。」
美琴は、ベンチに座り口を開いた。
「あの日ね、あー!あの思わせぶりな態度、今思い出してもムカつくー!」
「どこ行くんだ?」
「そうだね〜。あの階段の上のベンチから星が綺麗に見えるらしいよ。」
「そこに行きたいのか?」
「そうだね〜。行ってみよ?」
「うん。」
二人は神社の階段を登る。
「ハァハァハァ。結構きついね。」
「あぁ。きつい。美琴は足大丈夫か?」
「私は大丈夫。」
「痛くなったら言えよ?」
「痛くなったらどうするの?」
「おんぶしてやる。」
「あれは恥ずかしいからもう嫌で〜す。」
「そ、そうか。」
「着いたー!」
美琴は、ベンチに向かって走り出した。
「転ぶぞー。」
詩音は、美琴を心配そうに追いかけた。
「キャッ。」
美琴は石に躓いて、体制をくずした。
「ほら、言っただろ。」
転びそうになった美琴を詩音は受け止めた。
(まただ。心臓が。)
(ドキドキする。このまま時間が止まればいいのに。)
「ご、ごめん。ありがとう。」
美琴は詩音から離れると、空をみた。
「詩音くん!空見て!綺麗だよ。」
「本当だ。ベンチ、座るか?」
「うん。誰もいないね〜。」
「そうだな。」
詩音はベンチに座り、のけぞる様に空を見上げた。
「あっ!あれ北斗七星!」
「詳しいのか?」
「全然。北斗七星だけ知ってる。」
「そっか。」
美琴も空を見上げながらベンチに手をつく様に座った。
「あっ。」
「ごめん。」
美琴の手が、詩音の手に触れた。
「・・・。」
二人は見つめ合ったまま、しばらく沈黙が流れた。
詩音は、目をそらして俯いた。
「美琴、好き・・・。」
「えっ?」
美琴は聞き間違えたのかと思いながらも、顔を赤くした。
涙腺が熱くなるのを感じて、今すぐ詩音の胸に飛び込みたい気持ちを抑えて、次の言葉を待った。
「好きってさ、どういう感じか分かるか?」
「はぁ。」
美琴は、夢から覚めた様にため息をついた。
「好きはね。この人とずっと一緒にいたいとか、会いたいとか、会えない時にずっとその人の事考えたりとか。とりあえず、胸の中が、その人でいっぱいになる。そんな感じじゃない?」
(私に聞くなー!)
「そうか。」
(そして今考え込むなー!)
美琴は、スネた。
「美琴?」
「何よ。」
「なんか怒った?」
「知らない。」
「・・・。」
「そこからは当たり障りの無い会話して、帰りましたー。」
美琴は珍しくイライラした様子だ。
「ふふっ。高倉くん、重症ね。」
「笑い事じゃないよー!乙女の心をもて遊ぶ鈍感男よ!」
「そうね。でも、あと一息じゃない?好きって感情に気づき始めてないと、そんな事聞かないよね?」
「だといいけど。」
美琴は不満気にスマホをみた。
「まずい!バイト行かないと!」
「忙しいのにごめんね。」
「全然!いい話聞けたし、愚痴もきいてもらえたし!」
「なら、良かった。気をつけてね。」
「うん!ありがとー!」
美琴は、早足で百貨店へ向かった。




