キスって何?
ピンポーン。
「はぁーい!」
ガチャ。
「おはよう。」
美琴は、照れくさそうに詩音を見つめる。
「な、なんかいつもと違うな。」
「可愛い?気合入れてみた。」
「う、うん。」
(ダメだ。また心臓が。)
「言って。」
美琴は、頬を膨らませた。
「えっ?何を?」
「可愛いって、ちゃんと。」
「か、可愛い。」
詩音は、顔を赤らめて、目をそらした。
「ありがとう。」
美琴は嬉しそうに笑った。
「で、文乃、晴、凛。君たちは何をしてるのかな〜。」
美琴の後ろには、美琴がついでだからと作った、お弁当を入れたカバンと、水筒をぶら下げた弟達が立っている。
「いっしょにいく!」
三人は声を揃えて言う。
「今日はダメっていったでしょ〜。
あら、詩音くんおはよう。」
美琴の母は、三人をなだめるように、部屋の奥に引っ張る。
「おはようございます。
良かったら、連れて行きますよ?」
詩音は、美琴の兄弟達を見てニコニコしている。
「ダメダメ、この子達は私が連れて行くから、二人で行ってきて!」
バタン。
駄々をこねる弟達を引き留めながら美琴の母はドアを閉めた。
「良かったのか?俺は大丈夫だぞ?前に遊んだとき、結構楽しかったし。」
「詩音くんのバカ。そう言う問題じゃないの。」
美琴は、スネた様子で呟いた。
「えっ?なんて言った?」
「何でもない!行こっ!」
美琴は詩音の手をとり、歩き出した。
公園まで、二人はゆっくりと歩く。
(今日は、手をつないでいる。
そしてまた、心臓が。)
詩音は、心臓の音が気になり、黙って歩いている。
(詩音くん、またドキドキしてるのかな?何も話さないな〜。
私も、ドキドキしてる。
話したい事いっぱいあったのに、なんだっけ?)
「おー!お二人さん!相変わらず仲いいね〜!」
突然後ろから声をかけてきたのは、安藤だった。
「やっぱりお前ら付き合ってんの?
いいな〜。俺も手を繫いで歩く相手欲しいわ〜!」
「付き合ってないけど?」
詩音は平然と答える。
「えっ?それで?マジで?」
安藤は、頭の整理が付かない様子で、
美琴を見た。
「付き合ってないよ。」
「そ、そう。」
(この二人は何なんだ!意味が分からない!)
「あっ!そうだ!もうすぐ夏休みだろ?」
「そうだな。」
「そうだね〜。」
「クラスの奴らと、海行く計画たててんだけど、お前らも行く?」
詩音は、美琴を見た。
「詩音くん行く?」
「美琴が行くなら。」
「じゃあ行く!」
「了解!じゃあ、詳細決まったらまた言うわ!じゃあなー!」
(美琴が行くなら?ますます分からん。複雑な関係なのか?)
安藤は、首をかしげながらどこかへ行った。
「海かぁ〜!楽しみ!」
「俺は、小さい頃以来だ。」
「あっ!詩音くん、水着持ってる?」
「あっ。持ってない。」
「私も無い。今度一緒に買いに行こうよ!」
「うん。」
「海かぁ。楽しみだな〜。」
(ちゃっかり水着買いに行く約束しちゃった〜・・・水着試着してどう?とか聞くの?まずかったかな。詩音くんの心臓が爆発するかもー!どうしよ?
まっ、いっか。)
美琴は一人、盛り上がっていた。
「着いたな。」
「うん。」
「あそこにキッチンカー来てるぞ!
何か飲み物でも買うか?」
「本当だ〜!行ってみよ!」
美琴は、詩音を引っ張る様に駆け出した。
「わぁ〜!色々あるね〜。」
「そうだな。俺はアイスレモンティー。」
「詩音くんレモンティー好きなんだ。
じゃぁ私も同じの下さい!」
「かしこまりました〜。」
店員は、手際良くレモンティーを準備すると差し出した。
「ありがとうございます。」
二人は、レモンティーを手に持ち、公園を歩く。
(レモンティーのお陰で、手を離せた。心臓がおさまった。やっぱり、美琴が原因なんだな。何でだ?)
詩音は戸惑いながら、ゆっくりと歩く。
「ねぇ、詩音くん!あそこのベンチ座ろ?」
美琴は空いているベンチを指さした。
「うん。」
二人はベンチに座り、空を見上げた。
「いい天気だね〜。」
「そうだな。」
「私ね、夏の空好き。青が濃くて、真っ白い雲が映えて、綺麗じゃない?」
「うん。確かに綺麗だな。
俺、暑いの苦手だからこんなゆっくり空を見たの初めてだ。」
「そっか。私は、弟達と良くお散歩してたからな〜。」
「弟達良かったの?」
「いいの〜。それにこの公園、遊具無いし。」
「あ~、確かに遊具は必須だな。」
「うん。すっごい元気に、ず〜っと遊ぶんだよ!すべり台なんてすべり出すと、終わりが来ないんだから。」
「大変そうだな。」
「大変だよ〜。あっ。」
「・・・。」
「・・・。」
二人は、胸の鼓動が周りの人達に聞こえるんじゃないかと言うくらいに、ドキドキして俯いた。
美琴は、詩音に近づき耳元で囁いた。
「あの人達すごいね。」
「あ、あぁ。」
向かいのベンチのカップルが突然いちゃつき出したのを見て、二人は急に胸の鼓動が高鳴った。
「あっ、キスした。」
「あ、あぁ。」
「いいな〜。私もしてみたいな〜。」
美琴は、わざと詩音の耳にギリギリまで近づいて囁いた。
「えっ?」
(まずい!心臓がもう、なんだ、口から出そうだ!)
「お、俺、ちょっとトイレ!」
詩音は立ち上がり、走り出した。
「詩音くん!」
美琴の呼び止められ、詩音は振り向いた。
顔がとても赤い。
「トイレは〜、あっち!」
美琴は、詩音が照れてくれたのだろうと思い、嬉しそうにトイレを指さした。
「あ、あ、ありがとう。」
詩音はトイレに逃げ込む様に走っていった。
(かっわいぃ〜!・・・でも、逃げられたな。あわよくばと思ったのに。)
美琴は、チラチラと向かいのベンチを見ている。
(いいな〜。幸せそう。
私もいつか・・・先は長そうだけど。)
詩音は逃げ込んだトイレの洗面台の前で項垂れていた。
「まずい。まずいぞ!キスしたいって、俺と?イヤイヤ、それは無い!そもそもキスって何だ!何でするんだ?今度調べよう。違う、違う!今はこの心臓をどうにかしないと!美琴を待たせるんだ!落ち着け俺の心臓!」
詩音は、不審者と思われそうなくらい、トイレで一人騒いでいた。
「ごめん、お待たせ。」
「大丈夫?」
「大丈夫だ。」
詩音は、向かいのベンチをチラッと見た。
(良かった、どこかに行ってくれたみたいだ。)
「ふふっ。カップルさん達、どこかにいったみたいだね。」
「そ、そうだな。」
(気にしてたのバレてたのか。恥ずかしい。)
「詩音くん、少し早いけど、お弁当食べない?」
「うん。いいぞ。」
(美琴の作った弁当、楽しみだな。)
「レジャーシート持ってきたから、芝生に移動しよ〜?」
「うん。あの辺りが空いているな。」
「うん!行こ!」
「あぁ。」
二人は、芝生に移動してレジャーシートを敷いて座った。
詩音は、前の方に座り弁当を食べている二人を見ている。
(しまった。あの二人、さっきのカップルだよな・・・移動しないと。)
「美琴!こ、ここ暑くないか?
あの木の下に移動しよう。」
「暑くないよ?それに、木の下だと虫とか葉っぱが落ちてくるかも。ここでいいよ。」
(さっきのカップルを警戒しているのね。可愛い。でも移動はしないよーだ!)
「そ、そうか。」
(仕方ない、そうだ!向こう側に背中を向けよう。)
詩音は、カップルに背中を向けて座った。
「詩音くん、こっち向いて座ろ?
そっちだと直射日光だよ。」
「そ、そうか。」
詩音は、仕方なさそうに座り直した。
(美琴、察しろよ〜!)
「じゃーん!」
「わぁ!美味そう!」
美琴が弁当を広げると、詩音はカップルの事を忘れ、興奮している。
「食べて、食べて!」
「いただきまーす!」
「いただきます。」
詩音は、卵焼きに手を伸ばした。
美琴は、ドキドキしながら見つめている。
「うまい!」
「ホント?良かった〜。」
美琴は嬉しそうに笑っている。
「これも、これも、全部うまい!
美琴、本当に料理うまかったんだな!」
「疑ってたの?ひど〜い。」
「ごめん。でも、本当に美味しい!」
「ふふっ。ありがとう。」
美琴は、美味しそうに食べる詩音を幸せな気持ちで見つめていた。
「ごちそうさま!」
「ごちそうさま。」
「うまかった!ありがとう!」
詩音は、満足そうに美琴に言った。
「ありがとう。またいつでも作るよ!」
「・・・楽しみにしてるよ。」
詩音は照れくさそうに言った。
「お腹がいっぱいになったら眠たくなってきたな〜。」
美琴は、小さく呟く。
二人は、並んで座り、空を見上げている。
「そうだな。ちょうどいい気温で眠気を誘うな。」
「・・・また、始まったね。」
「そうだな。」
二人の視線の先では、さっきのカップルがいちゃついている。
男が足を開き、その中に座る女を、男が抱きしめた。
「わぁ!すごい。」
「なぁ、美琴。」
「何?」
「冷静になると、疑問が生まれた。」
「どんな?」
「何であんなにベタベタするんだ?」
「えっ?なんで?う〜ん。」
「美琴も分からないのか。」
詩音は、目を閉じて考えている様だ。
詩音は、後ろに手を付き、少し足を開いて空を仰ぐ様に座っている。
「・・・やってみたら分かるんじゃない?」
美琴は、口を開くと同時に、詩音の足の隙間に移動した。
「ちょ、ちょっと待て!」
詩音は体を起こし、おどおどしている。
「ほら、ぎゅってしてみて。」
「わぁ!」
美琴が、詩音に体を預ける様にもたれると、そのまま後ろに倒れた。
「ふふっ。楽しい。」
美琴は、詩音の上に仰向けに寝転び、笑っている。
「なんとなく分かる。
恐怖のマラソンの後みたいに、心臓がすごい事になってるのに、苦しくないし、しんどくない。でも、何だが心地いい。
そうか!脳から何かが分泌されて」
美琴は、詩音の上でうつぶせになり、詩音の口を手で塞いだ。
「今日は、勉強は無し、でしょ?」
顔と顔の距離が近い。
(心臓が。息をさせて下さい。)
「ハァハァハァ。」
美琴が、詩音の口から手を話すと、詩音は、苦しそうに息をした。
「ごめん。苦しかった?」
「だ、大丈夫。」
「詩音くん、ペラペラだと思ってた。意外とガッチリしてるね。」
美琴は、詩音の胸の辺りに耳を押しつけながら言う。
ドクドクドクドク。詩音の鼓動が聞こえる。
(こんなにドキドキしてくれてる。
・・・私のは聞かれない様にしないとな。)
「あぁ。人体解剖学の勉強してた時に、筋肉の事が書いててさ、自分の体を鍛えて色々実証してみてたんだ。」
「ふふっ、何それ。そのうち自分の体を解剖しだしそう。」
「それは流石に踏みとどまった。」
「ふふっ。ちょっと考えたんだ。」
「ちょっとだけ。」
「ダメだよ〜。」
「うん。」
「重くない?」
「重くない。昔飼ってた秋田犬のケンが良くこんな感じで、俺の上で寝てた。」
「私、犬じゃない。」
「すまん。」
「いいよ〜だ。」
美琴は、小さく呟く。
カァカァカァ。
カラスが鳴きながら飛んでいる。
夕暮れ時。
まだ、朝、晩は少し冷える。
クシュン。
美琴は、肌寒さと自分のくしゃみで目を覚ました。
顔を上げると、詩音が見つめてくる。
「ごめん。私寝てたんだ。」
「うん。」
「ずっと待っててくれたの?」
「いゃ、俺も寝てた。さっき起きた所だ。」
「そっか。何だか冷えるね。」
「そうだな。そろそろ帰るか?」
「明日も学校だし、仕方ないね。」
美琴が立ち上がると、詩音もゆっくりと立ち上がる。
「うっ。」
「どうしたの?」
「少し背中が。」
「ご、ごめん!私がずっと乗ってたからだよね?」
「大丈夫!」
詩音は、体を伸ばしたり、ひねったりしながら、言う。
「ホントに?」
「うん。もう大丈夫だ。」
「よかった。」
もうすぐ夏がやってくる。
そんな夕暮れ、夕日に照らされながら、
二人は家へ向かいゆっくりと歩き出した。
「ねぇ、詩音くん!夏休みまでに水着買いに行こうね!約束だよ!」




