美琴。
パタン。
「化け物の子か。
・・・以外と面白かった。」
俺は昼休み、読み終えた小説を閉じた。
周りを見渡せば、それぞれのグループが構築され、みんなそれぞれ楽しそうにしている。
俺は・・・これでいい。
一人が寂しい訳じゃない。
ただ、この小説の様に、小説の主人公の様な。そんな毎日に憧れを、ほんの少しだけ抱いたんだ。
この小説はと言うと、化け物に育てられた男が、保護され、施設から学校に通い、人間になりながら運命の人と出会う。
そんな良くありそうな話だ。
俺は、化け物に育てられた男に自分を重ねた。
まるで自分の様だ。
人と上手く話せない、付き合えない。
見た目は以外といい。
この男と違うのは、俺はこの高校で成績がトップクラス、と言う所だろうか。
小説を手に持ったまま、余韻に浸り、目を閉じていた。
高校2年の春。
昨日新学期が始まり、新しいクラスになっていた。
「高倉 詩音くん?だよね?」
俺を呼ぶ声に、現実に引き戻される様にゆっくりと目をあけ、声のする方を向いた。
「私、堺 美琴。
1年間よろしくね!」
俺に話しかけて来たのは、理想とは程遠い金髪のギャルだった。
「うん・・・で何?」
「えっ?!その〜。ごめん、寝てた?」
「いゃ、寝てないけど?」
「あっ、そう。目を閉じてたから。」
この子は、寝る時以外目を閉じないのだろう。
一緒に目を閉じて、空想に浸れる。
運命の人・・・俺には現れないんだろうな。
詩音は小説で描かれていた出会いを想像して失望感に項垂れる様に頭を抱える。
「で、何?」
「その〜。詩音くん、お願い!
私、教科書忘れちゃって。
次の授業、教科書見せてくれない?」
いきなり名前呼びしてくる。
Theギャル。陽キャ。
・・・苦手だ。
「いいけど。」
「良かったー!ありがとう!」
そう言いながら、美琴は机をくっつけてきた。
「えっ?」
俺は動揺している。
この世界に生まれてから、恐らく最大級に。
「ん?こうしないと教科書見えないし。」
「あ、そうだな。」
詩音は教科書を広げ、くっつけられた机の真ん中に置いた。
「ありがとう。」
美琴は詩音に微笑んだ。
「別にいいよ。」
キーンコーンカーンコーン。
ガラガラ。
「みんな座れー!」
教師は教卓に立ち、教科書を広げ授業の準備をする。
そして、出席簿を広げ出席を取り始める。
「安藤」
「はぁーい!」
「石山」
「はい。」
・・・・・・。
「堺」
「はぁーい!」
「ん?お前達はなんで机をくっつけてるんだ?仲がいいのはいいが、今は授業中だ。」
教師は何か勘違いをしている様だ。
「お前ら付き合ってんの〜?」
一人の男子生徒が冷やかし出すと、クラスが盛り上がり始めた。
美琴は派手な見た目とは違い、顔を赤らめて困っている様に見える。
まぁ、クラス変わったとこでこれはきついか。
ガラ。
立ち上がった詩音に注目が集まる。
「先生、俺が教科書忘れたから、見せてもらってます。」
教師に向かい、大きめの声で言い、座った。
「そうか。・・・高倉・・だな?教科書忘れない様に気を付けろよ。」
「はい。」
教師は出席を再び取り始め、授業が始まる。
俺は視線を感じて美琴を見た。
「詩音くん。ごめん。ありがとう。」
小声で美琴が話しかけてきた。
「別に、いいよ。」
「・・・私と付き合ってるとか言われて嫌だったよね。」
「別に。」
「ふふっ。別にばっかり。」
「そっちこそ。俺と付き合ってるって言われて困ってそうだったし。」
「・・・別に。」
陽キャは会話が上手いな。
別にって。もうネタにされてる。
美琴は笑っているんだろうなと思いながら隣りに目をやると、美琴は顔を少し赤らめて下を向いていた。
・・・この子、良く分からんな。
授業に集中しよう。
スー。スー。スー。
しばらくすると、寝息の様な音が耳につく。
割と近い。
詩音はチラッと美琴を見た。
「寝息かよ・・・おぃ。」
詩音は小声で美琴を起こそうとするが、美琴は深い眠りについている様だ。
「つまり、これがこうなるからして・・・・おい!堺。」
言わんこっちゃない。
そう言いたげに、詩音は頭を抱える。
「お〜い、堺!起きろ!」
スー。スー。スー。
「高倉。起こしてやってくれ〜。」
「はい・・・おぃ、起きろ。」
詩音は、さっきより少し大きな声で話かける。
「ダメだ。」
仕方なく、美琴の肩に触れた。
何度かトントンとすると、美琴の目がゆっくりと開く。
「詩音く・・・ん?」
「授業中、起きろ。」
詩音は呆れた表情で、教卓を指さした。
ガラッ。
美琴は体を起こし、教卓を見た。
「やっと起きたな。堺、頑張れよ〜。」
『あはははっ!』
クラスは美琴に注目し、盛り上がる。
教師は呆れた表情で授業を再会した。
「・・・詩音くん、ごめん。」
「別に。疲れてんの?」
「う、うん。まぁね。あっ、夜遊びとかじゃないからね。」
「そう。」
この子は、なんで俺に弁解の様な事をするんだろうか。
別に俺なんかになんと思われようと関係無いと思うのだが。
そんな事を思いながら、詩音はまた、授業に集中した。
この後の授業の教科書も美琴は忘れていた。
美琴は、時間割を一日間違えていたと、恥ずかしそうに言っていた。
午後からの授業はずっと美琴と机をくっつけていた。
クラスメイトからは変な目で見られるし、散々だった。
キンコンカンコーン。
今日最後の授業を終える鐘が鳴る。
美琴は、帰り支度を急いで整えている。
ガラガラ。
「詩音くん!今日は色々ごめんね。
ありがとう!」
机を元の位置に戻しながら、美琴が話しかけてきた。
「あ、うん。別に。」
「ふふっ。また別にだ!
また月曜日ね!」
「うん。」
美琴は、詩音に手を振ると足早に教室を出ていった。
「急いでたな・・・まぁどうでもいい。
来週からはまた平和な毎日だろう。」
詩音は小さく呟くと、立ち上がり、教室を後にした。