五、オズの魔法使いという話をここまで引き延ばしたのならライオンまで出してあげないと可哀想だと思ったスペシャルぅ。
セレアは突然何の前触れなく、どこかに向かって語り始めました。
「ねぇ、何この某エンタメ番組の企画みたいなサブタイトル。これでどう話を展開していきたいと思ったわけ? 台本はないの?」
マリオネットの女の子を仲間にしたセレアは、案山子を背に、森の中を歩いていました。
「何事なく話を進めたわね」
ちなみにマリオネットの女の子の名前は投票の結果、『サラ』になりました。
「何その『動物園の赤ちゃん名前決め』みたいなやり方。しかも投票なんて一切公言していなかったわよね?」
んじゃ、『あああ』で。
「何その適当な投げやりボタン連打な名前! 今どきのRPGだって普通に名前が固定されてるわよ!」
あああは――
「『サラ』にしなさい!」
サラはセレアの服の裾を引きながら、表情のない顔で忠告してきました。
「気を付けて、セレア。この森には獰猛なライオンがいるって有名だから」
「――って、そういうことは早く言いなさいよね!」
すると、近くにあった茂みが急にガサガサと揺れました。
「茂み!? あるんだったら描写ぐらい入れなさいよ! 私はともかく、読んでる人は驚きのあまりに頭の中がホワイトアウトしちゃうじゃない!」
と、いうわけで。
「誤魔化した!?」
茂みから、猛獣特有の低い唸り声を上げて出てきたのは一頭のアフロヘッド・ライオンでした。
セレアは恐ろしさのあまり無言で膝を落とし、隠し持っていたバズーカをライオンに向けて構えました。
すると、さっきまで獰猛だったアフロヘッド・ライオンは、そのあまりの恐ろしさに泣き出してしまいました。
「ごめんよぉ。撃たないでくれよぉ。アフロヘッドが決まらなくて唸っていただけなんだよぉ」
「――って、どんな理由よ! 今更だけど、なんであんたのたてがみはアフロヘッドなの!?」
ライオンは泣きながら迫力のない声で叫びました。
「アフロヘッドを馬鹿にするなよぉ! アフロヘッドはこの森の王者の証――命ともいえる大事なものなんだよぉ!」
その言葉にセレアの隣でサラがぼそりと呟きました。
「知らなかった……。今この森でアフロヘッドが流行っていたなんて……」
「何のショック!? それ!」
サラは自分のツイン・テールを指先で摘まみ上げました。
「もうツイン・テールの時代は終わってしまったのね。……アフロヘッド・メイド。何だか少し、抵抗を感じるわ」
「それ少しじゃなく思いっきりハリケーンのごとく抵抗を感じて!」
サラはぷるぷると首を横にかわいく振りました。そして、感情のない声でぼそりと呟きました。
「森の王者に、あたしはなる」
「ダメ、その引用! 有名過ぎて危険だからッ!」
すると、茂みから突然もう一頭のアフロヘッド・ライオンが現れ、声を張り上げて言いました。
「しーんぱーい無いよー!」
「やめろって言ってるのが聞こえねぇのか、このボンバー・マリモッ!!!!」
セレアは童話としてあるまじき行為――良い子が見てたらトラウマになるような汚い言葉を吐きながら、出てきたばかりのライオンを速攻で蹴り飛ばしました。
泣いていたライオンが、蹴り飛ばされたライオンを見て、驚いたように叫びました。
「兄者ッ!」
蹴り飛ばされたライオンは、格闘ゲームのKO負けしたキャラのごとく、うめきながら二度地面をバウンドして倒れました。
泣いていたライオンは兄ライオンに急いで駆け寄り、その体を抱き起こしました。
「大丈夫か、兄者ッ!」
すると兄ライオンは、弟を横に押し退け、セレアに向けて『ぐっじょぶ』と親指を立てて言いました。
「君の蹴りは最高だったよ」
セレアの目が危険に光りました。膝を落としてバズーカを構え、
「魂ごと消し飛ばしてあげるわ。このドM変態野郎」
と、言いました。
兄ライオンは自分の最期を悟ると、弟ライオンに向けてそっと、遺言を残しました。
「俺はもうダメだ……」
「そんな弱気なこと言わないでくれよぉ兄者」
「最後に一つだけ、お前にお願いがある。オズの魔法使い様にお会いして、お前のアフロヘッドを今よりもっと究極で最高のアフロヘッドにしてもらうんだ」
「もしかしてそれは……アフロヘッドの極み!」
「よりボンバーで、よりワイルドなアフラーになるんだ」
「わかったよ、兄者……アフロの毛に誓って」
「アフロヘッドを称えよ」
「アフロヘッドを称えよ」
抱き合い、二頭のライオンは男泣きを始めました。
セレアは無言でバズーカの構えを解くと、仲間とともに何事なく歩き出すのでした。
――次話へ続く。
※ すみません。じわじわと更新が滞ってきているようですが、完結は必ずさせますので気長にお願いします。最後までお付き合いくだされば幸いです。
次話は、第一弾で出てきたあの人が再び登場します。