四、オズの魔法使いという話を無駄に引っ張ってみた。
セレアは傷ついた案山子を背負って、道を歩いていました。
しばらく歩いていると、別の森の中へと入ってしまいました。
「ねぇ、地図とかないの?」
これが童話であることを思い出したところで――
「あーはいはい。とりあえずこのまま歩いていればいいのね」
童話の主人公が歩く道は常に一本道と決まっています。もし主人公が誤って寄り道をしてしまうと、パターンとして狼に食べられてしまうんですね。どこかの赤いずきんをかぶった主人公のように――
「って、それ思いっきり私のこと言ってない!?」
すると、
「無視!?」
森のどこかから可愛らしい声が聞こえてきました。
「ねぇあなた、どこに行こうとしているの?」
セレアは声のする方へと目を向けました。
そこには切り株にちょこんと腰掛けた、ツイン・テールの女の子がいました。しかも髪は珍しくピンク色で、さらになぜかメイド服を着ています。
「――って、何ゆえメイド!? ここはブリキの木こりが登場する場面だよね!?」
その女の子の心はブリキで出来たマリオネットでした。
「もはやブリキ関係ないよね!?」
マリオネットの女の子は表情のない顔で言いました。
「人間の心が欲しいの」
「――って、いきなりまさかのサイコ宣言!? ゾンビ・ホラー童話じゃないよね!? これ十五禁されてないよね!?」
女の子はぽつりぽつりと語り始めました。
「勘違いしないで。あたしはあなたの心臓になんて興味ないわ」
セレアはきょとんとした顔で問い返しました。
「……どーいうこと?」
「あなた、オズという名の魔法使いをご存知?」
セレアは首を横に振りました。
「知らないわ」
「……そう」
「その人がどうかしたの?」
「その魔法使いは何でも願いを叶えてくれるらしいの。だから、あたしの願いも叶えてくれるんじゃないかって……。でも、どこにいるのかわからないの」
セレアはピッと人差し指を立てて提案しました。
「それじゃ、森の妖精に聞いてみたら? 何でも知ってるみたいだから、きっとオズって魔法使いがどこにいるかも知っているはずよ」
女の子は首を傾げて尋ねました。
「どこにいるの?」
「きっとこのどこかに隠れているはずなんだけど、この話の終盤に近づくまでどこにいるか全くわからないのよね」
「特徴を教えてもらえる?」
「全身白タイツを愛用する謎の変態人間よ。でも今は木の着ぐるみを着用しているわ」
「それなら見たわ」
「見たの!?」
驚くセレアに、女の子は黙って小さく頷きました。そして、手に持っていた一本のワラを見つめ、
「このワラと、あたしの持っている蜜柑を交換して欲しいって言われたの」
「――って、なんでミカン持ち設定!?」
「通りすがりの人がお供え物としてあたしの前に置いていったの」
「それ思いっきり誤解されてるから!」
「そしたら木の着ぐるみを着用したその人が来て、ミカンを着ぐるみに取り付けたいからワラと交換してくれって」
「それ、猿カニ合戦のノリだよね!? 貴方の配役、絶対カニだよね!?」
女の子は静かに首を横に振りました。そして、手にしたワラをお空に向けてかざしました。
すると、どこからともなくミツバチが飛んできて、そのワラに止まりました。
「あなたにとっては価値がないものでも、あたしにとってこのワラはとても価値があるものよ。あたしに初めてこんなに小さなお友達が出来たの」
セレアはそれを聞いて「あぁそうか」と気付きました。
「……ねぇ貴方、もしかしてこの森にずっと独り?」
女の子はこくりと頷きました。
「あたしはマリオネット――人形よ。寂しいとかそういうのはよくわからないの。でも、せっかくこうしてお友達が出来たのに、あたしは何もしてあげられない。きっとこのお友達はあたしを置いてどこかにいってしまうわ。だからオズの魔法使いにお願いして、人間の心にしてもらうの」
セレアはにこりと笑って、その女の子に手を差し出しました。
「わかったわ。それじゃ、私と一緒にそのオズっていう魔法使いを探しに行きましょう」
「ほんと?」
「えぇ」
セレアに新しい仲間が加わりました。名前を決めてください。
「だからそのネタやめなさいって言ってるでしょ!」
――次話へ続く。
※ 童話を書くのは、簡単そうに見えて意外と難しい。オリジナル・キャラを出す時にそう思った。
赤ずきんちゃん。
これは名前だけで、性別、特徴、衣服、年齢。全てのことがわかる。既存のキャラだし。だから最初は簡単だった。しかしこれがオリ・キャラの描写となると童話じゃなく、これはもう小説の域になるのではと思ってしまった。
アンデルセンとかグリム兄弟とか、『マジすげぇよ』と思った。
うん。難しいね、童話☆
あ。Σ(゜∇゜)
ってか、この物語、童話を題材にしてるだけで童話じゃないじゃん。
――と、気付いたのはそれから数日後のある日のことじゃった……。