十四、赤ずきん少女と……。【後編】
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白馬に乗った全身白タイツの王子様は、最上階の広間にたどり着くと、馬から下りました。
広間の中には窓から数条の陽の帯が差し込んでいました。
それに包まれるようにして、紳士服のエレガントな男性が背中を向けて佇んでいました。
王子様──もとい、森の妖精はその男の背に向け、声をかけました。
「すまない。彼女をここに連れてくるのに三千里も遠回りしてしまった」
男は振り返りました。黒髪で端整な顔立ちをしたダンディなおじさまでした。男は驚いた顔で言いました。
「彼女? 男の子ではなかったのかね?」
「彼はもう、手紙を見ても何も思い出してくれなかった。きっとあなたにあの手紙を送ったことなど忘れてしまったのだろう」
「そうか……」
男は残念そうに視線を落とし、手中にある懐中時計を見つめました。
「そろそろゲートが閉まる。彼女は来るのかい?」
森の妖精は頷きました。
「あぁ。必ず来るよ、ここに。なぜなら彼女はこの物語の主人公なのだから」
すると、異空間からセレアと案山子、そしてサラが雪崩れるように落ちてきました。
セレアはハッと起き上がって言いました。
「何これ、いきなりボス戦突入!? しまったッ! やっぱりあの時セーブしとけば良かった!」
サラが前方の男に気付き、驚きました。
「あなたはまさかッ! 魔法使いオズ!」
案山子は喜びました。
「わーい。オズだ、オズだ。何でも願いを叶えてくれる魔法使いだ」
サラと案山子は魔法使いオズのところへと駆け寄りました。
そしてサラはこう言いました。
「お願いします。あたしに人間の心をください」
「僕はいつもばい菌男にからかわれるので某パン工場長と同じ頭脳がほしいです」
二人の言葉を受けて、男──オズはにこりと紳士的な笑みを浮かべました。
「願いは他人に頼むものではない。自らが叶えなければならないことだ。強く望んでさえいれば、その願いはいつか必ず叶うだろう。
サラ、君の願いはもう叶っている。あとは自分でそれに気付くだけだ。
案山子君、君が某パン工場長と同じ頭脳を手に入れてしまったら、ばい菌男を前にして二人で新しい顔を投げ合うのかね?」
セレアは半眼になってぼそりと言いました。
「なんか卒業式の日に担任の教師からもらう、お祝いの言葉みたいな展開になってきたわね……」
「そしてセレア君」
「え? わ、私?」
「君はこの世界が好きかね?」
「えっと……」
セレアは今までのお話を自分の中で回想しながら、顔を渋めていきました。自由気ままに暴走する脇役たち、柱の弱いプロット、ご都合過ぎる展開、めちゃくちゃな世界観、趣旨のつかめないグダグダ感、そして筆力のない作者……。
セレアは答えました。
「私にとってこの世界は、あまりにも無責任過ぎて好きになれない。でも──」
セレアはにこりと笑いました。
「退屈はしない」
そうか。と、オズは満足そうな笑みを浮かべて頷きました。そして森の妖精へと目をやり、
「君がこの世界を守る理由がわかった気がするよ、ヤマダ」
森の妖精は言いました。
「その名は捨てたんだ。もう呼ばないでくれ」
「そうだったな……。
──さて、と。それじゃ、私は元の世界に帰るとしよう」
オズは視線を落とし、手にしていた懐中時計を──
と、その時です!
「アフロノキワミー!」
突如現れたアフロヘッドライオンが、オズの懐中時計を奪ってしまいました。
セレアはすぐさま赤い頭巾の中に隠していた特大バズーカを取り出すと、腰を落として肩に担ぎ、砲口を構えました。
「アフロヘッドごと消し飛ばしてあげるわ」
発射された砲弾はみごとアフロヘッドライオンに命中し、アフロヘッドライオンはKO負けした格闘キャラのごとくスローモーションで宙を飛び、地面に倒れていきました。
するとどうでしょう! 彼のアフロヘッドがいつの間にか大きくなっているではありませんか!
それに気付いたアフロヘッドライオンは何かに目覚めました。
「そうか、これか! これこそが兄者の言っていたスーパーマリモボンバーマン2 アフロの極み!」
「──って、もうそれゲームのタイトルみたいになっているから!」
セレアは思いっきりツッコミました。
アフロヘッドライオンの手から離れた懐中時計が、弧を描いてオズの元へと戻ってきました。
懐中時計を手にして、オズは微笑みました。
「どんな物語にも始まりがあって終わりがある、か……。
タイム・アウト。書庫室が閉まる時間だ」
意味深長な言葉を残し、オズは静かに姿を消していきました。